獣医師が解説 犬の肥満細胞腫とは?イボや脂肪腫との違いは?治療の費用は?

この記事の監修者
みつはし

愛玩動物看護師
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肥満細胞腫とは?

肥満細胞とは別名マスト細胞と呼ばれ、免疫を司る白血球の一種です。細胞の中に顆粒を多く含むその形から名前が付けられたとされています。

肥満細胞は、細胞の表面にIgEと呼ばれる免疫グロブリンがくっついており、そのIgE抗体に細菌やアレルゲンなどの異物が結合すると、肥満細胞の中の顆粒が放出され(脱顆粒)、炎症やアレルギー反応を引き起こします。

その顆粒の中には、ヒスタミンやヘパリンなどが含まれると言われており、それらが症状を引き起こす原因とされています。

肥満細胞腫とは、その肥満細胞が腫瘍化したものを指し、犬においては基本的に悪性の腫瘍とされています

 

犬の肥満細胞腫とは?

犬の肥満細胞腫は、さまざまな形態で全身のあらゆる部位に発生します。
発生が最も多いのは皮膚及び皮下組織とされており、犬の皮膚悪性腫瘍で最も多いとされています

ここでは、犬の皮膚肥満細胞腫について、解説していきます。

犬の皮膚腫瘍の発生頻度で、四位が「脂肪腫」となっています。脂肪腫も比較的よく認められる腫瘍ですが、こちらは良性のしこりであることが多く、成熟した脂肪細胞で形成されており、肥満細胞腫とは異なる腫瘍です。

また、加齢とともによく頻発する「イボ」は、概ね「皮脂腺腫」であることが多く、六位の発生となっています。
こちらも概ね良性であることが多く、肥満細胞腫とは異なる腫瘍です。

どちらも、一見すると形や固さなどの外観は似通っているようにも思えます。見た目で判断して放置しておくと、実は悪性の腫瘍でした、ということもあり得ますのでご注意ください。

犬の皮膚肥満細胞腫は、個々の症例で多少の違いはあるものの、いくつかのグレード分類やステージ分類がされています。

表1 WHOによる臨床ステージ分類

ステージ0 組織学的に不完全切除である単一の皮膚腫瘤
ステージⅠ 皮膚に限局した単一の腫瘍で、領域リンパ節浸潤が無いもの
ステージⅡ 皮膚に限局した単一の腫瘍で、領域リンパ節浸潤があるもの
ステージⅢ 領域リンパ節浸潤の有無に関わらず、多発性の皮膚腫瘍もしくは周囲浸潤のある腫瘍
ステージⅣ 遠隔転移、骨髄浸潤があるもの
サブステージ a:臨床症状なし b:臨床症状あり

表2 犬の皮膚肥満細胞腫の組織学的グレード分類(Patnaik分類)

グレード1 腫瘍は真皮、毛包間に限局
腫瘍細胞の形は丸く均一
細胞境界は明瞭
中等度の大きさの細胞質内顆粒を含む
核分裂像はない
腫瘍内の壊死・水腫はわずか
グレード2 腫瘍は真皮深層~皮下組織(時に筋肉)に達する
腫瘍細胞の形はやや多様
細胞境界・細胞質内顆粒がやや不明瞭
紡錘形細胞、巨細胞、2核細胞を散見
核分裂像はまれ(0~2/HPF)
び漫性の壊死・水腫の領域がある
グレード3 腫瘍は皮下組織~深層組織を置換
腫瘍細胞の形は多様
細胞境界・細胞質内顆粒は不明瞭
巨細胞、2核細胞を多見、多核細胞を散見
核分裂像を多見(3~6/HPF)
壊死・水腫・出血がよく認められる

表3 犬の皮膚肥満細胞腫の組織学的グレード分類(Kuipel分類)

高グレード 以下のうち、一つでも満たすもの
l  核分裂像      ≧7/10HPF
l  多核細胞(核≧3)  ≧3/10HPF
l  奇妙な核      ≧3/10HPF
l  巨核細胞      ≧腫瘍細胞の10%
低グレード 上記に当てはまらないもの

これらの分類を用いて、治療や予後の判断を行います。

 

犬の肥満細胞腫の原因は?

犬の肥満細胞腫において、その具体的な原因は明らかになっていません。

発がん物質や放射線などによる遺伝子へのダメージや、家系などの遺伝的な素因、腫瘍に対する免疫力の低下など、様々な原因が推測されていますが、現時点で特定されている原因はほぼ無いと思われます。

ですが、c-kit遺伝子という遺伝子に変異が生じていることが関連している可能性が示唆されており、肥満細胞腫と診断された際は、その遺伝子変異の検査も一緒に行うことが多いです。

c-kit変異の有無は、腫瘍の予後に関連すると言われています。

また、分子標的薬に分類されるイマチニブという抗がん剤は、このc-kitをターゲットとしているため、検査の結果が薬剤を使用すべきか否かの判断材料となります。

 

犬の肥満細胞腫の症状は?

犬の肥満細胞腫は、概ね肉眼でしこりを発見することで受診される方が多く、わんちゃん自身は元気であることも多いです。

高ヒスタミン血症

何かのきっかけで脱顆粒が起こると、肥満細胞内のヒスタミンにより、胃壁のH2受容体が刺激され胃酸分泌が促進されたり、血行が阻害されたりすることで胃潰瘍が生じ、嘔吐や下痢などの症状が出ます。

また、血管のH2受容体を刺激すると、低血圧によるショックを起こすことがあります。

ダリエ兆候

脱顆粒により、しこりの周囲に皮膚の赤み、浮腫、出血、かゆみなどが生じることがあります。

癒合遅延

顆粒内のタンパク分解酵素やヒスタミンが術創に残存していると、術創がくっつきにくくなることがあります。

 

犬の肥満細胞腫の診断に必要な検査は?

犬の肥満細胞腫が疑われる場合に必要な検査は、まずはしこりの細胞診になります。

基本的には無麻酔で、しこりに針をさして顕微鏡で細胞を確認します

概ね、特徴的な顆粒を持った肥満細胞が多数確認できることが多いですが、たまに顆粒をわずかしか持たないタイプもあり、判断に悩むことがあります。

また、今後手術を計画するにあたって、さらには現在のグレードやステージを判断するために、一般的な血液検査やレントゲン検査、腹部エコー検査、さらには所属リンパ節の細胞診などを行います。

もし、皮膚ではなく内臓に肥満細胞腫があった場合は、腹部エコー検査やCT検査などの画像検査を用いないと診断できない場合もありますので注意が必要です。

 

犬の肥満細胞腫の治療と予後は?

犬の皮膚肥満細胞腫の治療は、基本的には広範囲の外科的な切除とされています

グレード1の場合は、手術のみで治療が終了することが多いとされています。

グレード2になると、肥満細胞はしこりから離れたところにも浸潤しているケースが多く、不完全切除や局所再発が起こりやすいとされています。
ある報告では、局所での再発率が11%、より遠い部分での再発が22%で認められたと言われています。
不完全切除となった場合は、再切除や放射線治療などの局所の治療をすることが推奨されています。
ある報告によると、生存期間中央値は再切除で2930日、放射線治療で2194日、何もしなかった場合は710日と明らかな差があると言われています。

グレード3になると、リンパ節転移がある症例では生存期間中央値は194日、リンパ節転移がない症例では、生存期間中央値は503日という報告があり、グレードが高くなればなるほど進行の速度は速く、予後は悪くなります。

また、口腔粘膜や消化器に関連する肥満細胞腫はより予後が悪いとされています。

爪や指にできた肥満細胞腫も、獣医師により意見が分かれますが予後が悪いケースもあるようです。

その他に、ステロイド剤や抗がん剤が適応になるケースもあります。

特にグレード2の不完全切除やグレード3の症例では、全身へ播種したと思われる肥満細胞腫への治療が必要となります。

グレード2の不完全切除の症例において、術後ロムスチンとプレドニゾロンの投与を行った症例では、全例再発はなく、1年および2年生存率はそれぞれ100%、77%という報告があります。

その他、ビンブラスチンやトセラニブを用いた治療方法も提案されています。

手術では無く、肉眼でわかるしこりが存在する状態での抗がん剤の使用については、約20~60%の症例において腫瘍の縮小が認められたという報告があります。
しこりが小さくなることで、生活の質の向上に繋がる可能性はありますが、一般的には奏功期間は短く、手術を中心とした治療を行うことが推奨されています。

また、補助的な治療として、抗ヒスタミン薬であるH1ブロッカー(ジフェンヒドラミンなど)やH2ブロッカー(ファモチジンなど)も併用されることが多いです。

サプリメントなどで体調をサポートしてあげることも選択肢としては有用で、腫瘍には「タヒボエキス」などがオススメです。

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犬の肥満細胞腫の治療費の目安は?

犬の肥満細胞腫の治療費は、しこりの部位や大きさ、術前検査の内容、各病院により大きく異なることが予想されます。

まずは手術を行う場合は、術前検査で血液検査やレントゲン検査、エコー検査、細胞診を行うと約3~4万円ほどと思われます。

そこにCTや遺伝子変異の検査などを追加するとまたさらに増額します。

皮膚肥満細胞腫で、大きくないものの手術であれば約7~8万円程と思われ、しこりの大きさやリンパ節切除の追加、もしくは開腹手術となった場合に関しては、さらに増額すると思われます。

術後、抗がん剤や放射線での追加治療、もしくは再手術となった場合は、さらに増額することが見込まれます。

 

まとめ

犬の皮膚肥満細胞腫はよく遭遇する疾患です。

小さなうちに手術を行うことが、予後としてはベストな選択肢である腫瘍ですので、小さなしこりだからといって様子を見ずに、早めの受診を心掛けましょう。

 

参考資料
・獣医腫瘍学テキスト 第二版
・Veterinary Oncology Vol.2 No.4

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この記事を書いたのは


浅川雅清
獣医師
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、
ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年から1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。
現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修など幅広い業務を行っている
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