犬のリンパ腫とは?
リンパ腫とは、リンパ節もしくはその他の実質臓器において、リンパ球が腫瘍性に増殖する悪性の腫瘍です。
実質臓器というは、肝臓や脾臓、腎臓のことを指しますが、目や脳神経、皮膚など、全身の至るところに発生が認められる腫瘍です。
犬のみならず、猫を含め様々な動物種で発生が認められています。
発生部位による名称の分類があり、体表リンパ節の腫大が主な「多中心型リンパ腫」、胃腸に主に病変を認める「消化管型リンパ腫」、肝臓や脾臓を中心に病変を認める「肝脾リンパ腫」、主に皮膚に病変を認める「皮膚型リンパ腫」などが主な種類です。
細胞の種類による細分類もありますが、ここでは割愛します。
犬において発生が多い種類は「多中心型リンパ腫」で、リンパ腫に罹患した犬の84%を占めると言われています。次に「消化管型リンパ腫」で、5~7%ほどと言われています。
犬のリンパ腫の原因
細胞というのは、分裂・増殖をするにあたって、その生理的な範疇を超えて増殖しないようにプログラミングされています。
腫瘍細胞というのは、そのプログラムが何かしらの原因で破綻し、無秩序に、無限に増殖してしまうことから腫瘍を形成し始めます。
なぜ、そのプログラムが破綻してしまうかは現在研究が進められていますが、発がん物質や放射線などによる遺伝子へのダメージや、家系などの遺伝的な素因、腫瘍に対する免疫力の低下など、様々な原因が推測されています。
犬のリンパ腫の原因も上述した通りですが、まだ確定的な原因は特定されていません。
また、慢性腸症などの慢性的な炎症があると、そこからリンパ腫に移行するような病態があるのではないか?と最近は言われ始めています。
犬のリンパ腫の診断
近年、リンパ腫の診断方法は様々なアプローチで行われます。
それぞれの検査結果を正しく解釈することが重要で、治療を行ったのに「リンパ腫だと思ったのにリンパ腫じゃなかった」となってしまっては大変です。
リンパ腫の診断で最も重要なのは、病理組織検査や細胞診といった形態学的な評価と言われています。
しかし、時としてそういった検査で正確に早期診断を行うことが難しいケースもあります。
その際は、「クローナリティ検査」や「表面抗原解析」という補助診断法を用います。
クローナリティ検査とは、サンプル内の細胞が、均一のリンパ球としての遺伝子を持っているかどうか、PCR法を用いて確認する遺伝子検査になります。
腫瘍細胞というのは、単一の細胞から増殖しているパターンが多い為、同じ遺伝子を持っていることが多いです。
ですので、遺伝子が均一であることはすなわち、腫瘍として細胞が増殖していることを間接的に裏付ける、そんな検査になります。
また、表面抗原解析は、蛍光標識した抗体を用いリンパ球をマーキングすることで、単一のリンパ球が増殖しているのかどうかを、正常なわんちゃんにおける割合と比較することで、間接的に腫瘍として細胞が増殖していることを確認する検査です。
これらの検査を組み合わせることで、正確な診断に近づけていきますが、上記の検査も100%正確なものではなく、リンパ腫以外でもごくたまに陽性になることが知られていますので、注意が必要です。
リンパ腫の症状
犬のリンパ腫の症状は、その発生部位により多種多様です。
①多中心型リンパ腫
多中心型リンパ腫は、全身のリンパ節と呼ばれる部位を中心として発症するので、リンパ節の腫れを主な症状になります。
進行の程度によっては、リンパ節の腫れ以外にも症状が出ることがあります。
肺やのどのリンパ節への浸潤で息苦しさやいびきのような症状が出たり、内臓へ浸潤して嘔吐や下痢、ご飯を食べないなどの症状が出たりすることもあります。
②消化管型リンパ腫
胃腸管リンパ腫とも呼ばれ、消化器症状(嘔吐、下痢、軟便、食欲不振、体重減少など)が主に出てきます。
③皮膚型リンパ腫
皮膚にしこりのようなものが複数認められたり、皮膚の色素脱、かゆみ、脱毛、ふけ、皮膚炎などが起きたりします。
その他、肝脾リンパ腫、前縦隔型リンパ腫などは、特異的な症状を示さず、レントゲン検査やエコー検査、血液検査を行わないと発見することができない種類のリンパ腫もあります。
犬のリンパ腫の余命と治療法
犬のリンパ腫の治療法は、リンパ腫の種類や悪性度、ステージ分類、発生部位などにより大きく異なります。
ここでは、代表的なリンパ腫の種類による治療法とその余命についてまとめます。
①多中心型リンパ腫(びまん性大細胞性B細胞型リンパ腫)
一般的に用いられる抗がん剤のプロトコールは、ウィスコンシン大学が2002年に報告した「UW-25」という、ビンクリスチン、シクロホスファミド、ドキソルビシン、プレドニゾロン、L-アスパラギナーゼを中心としたプロトコールです。
効果として、奏効率94%、奏功期間中央値282日、生存期間中央値397日と報告されています。
治療期間は、UW-25であれば25週間の治療で一度抗がん剤を終了することが多いですが、最近では短縮したプロトコールがあったり、治療反応によっては延長したりと、症例によりばらつきがあります。
②消化管型リンパ腫
消化管型リンパ腫は、消化管粘膜に一様に広がるタイプの、低悪性度の「小細胞性リンパ腫」と、消化管に大きなしこりを作る、高悪性度の「大細胞性リンパ腫」に大きく区分されます。
小細胞性リンパ腫の場合、飲み薬での治療が行われることが多いです。
クロラムブシルやプレドニゾロンなどを使用することが多いと思われます。
治療への反応性は比較的良好で、奏効率70%、生存期間中央値は279~424日ほどとの報告がされています。
大細胞性リンパ腫の場合、開腹手術による外科手術と抗がん剤を組み合わせた治療が行われることが多いですが、抗がん剤単体による治療と大きく予後に変わりはなく、治療への反応が悪いケースが多いとされています。
抗がん剤は、注射による治療(COP、CHOPプロトコール、ロムスチンなど)が行われることが多いです。
COPまたはCHOPプロトコールのみでの治療で、奏効率55%、生存期間中央値は2~3か月と言われています。
③肝脾リンパ腫
肝脾リンパ腫は、治療報告が少なく、余命も短い傾向にあります。
治療法は主に他のリンパ腫と同様で、抗がん剤が適応となります。
また、積極的な治療を行わない場合や、ステロイド単体での治療の場合の余命は約1~2か月程度とされています。
また、投薬に頼らない方法としては、サプリメントなどでわんちゃんの体調を底上げしてあげるのも、一つの方法です。
具体的なサプリメント成分としては、「担子菌抽出エキス」や「タヒボエキス」などがおすすめです。
犬における抗がん剤の副作用
上述の通り、リンパ腫の治療は抗がん剤が治療の中心となります。
抗がん剤は腫瘍細胞の他、正常な細胞にもダメージを与えてしまうため、副作用がつきものです。
近年は良い吐き気止めなどの対処法や、副作用の起きるタイミングが分かってきていますので、適切に対処すれば大きなトラブルになることは少ないとされています。
では、具体的にどの抗がん剤でどのような副作用があるか、L-CHOPプロトコールをベースに解説します。
①ドキソルビシン
・骨髄抑制
主に骨髄での白血球を作る働きが抑制されます。
投与後7日前後での発生が多く、感染への抵抗力が低下し、発熱を起こす可能性があります。
血液検査を行い、どの程度白血球が減少しているかにより、抗生物質による治療を行うかどうか判断します。
・消化器症状
消化管の粘膜上皮の細胞を傷害し、嘔吐や下痢、ご飯をたべないなどの症状が出ます。
こちらも、万が一症状が出た場合は、吐き気止めや下痢止めなどの対症療法を行います。
入院が必要なレベルまで症状が出てしまう場合は、投与量を減じて使用することもあります。
・脱毛、皮膚の色素沈着
毛根の細胞を傷害し、脱毛などの症状が出ます。
こちらは外見上の問題なので、問題が無ければ経過観察とします。
・心筋障害
心臓の筋肉に蓄積性の障害を起こします。
どれくらいの量を投与すると障害が発生するか既に判明しているため、概ね6回ほど投与したらそれ以降は類似の抗がん剤に変更するか、投与を中止します。
・血管外漏出による皮膚の壊死
ドキソルビシンは、血管に直接注射で投与する薬剤ですが、血管の外に漏れると重度の炎症を起こします。
ですので、投与前に留置針による血管確保を丁寧に行い、漏出が無いことを確認してから時間をかけて投与します。
・アレルギー反応
まれに薬剤に対するアレルギー反応が起き、蕁麻疹や血圧の低下などが起こります。
投与中はよく観察し、アレルギー反応が起きたと思われる場合は投与を中止します。
・腎障害
たまに腎臓の数値が上昇することがあります。こちらは血液検査を行い、経時的にモニタリングを行います。
②ビンクリスチン
・骨髄抑制
・消化器症状
・末梢神経障害
ビンクリスチンは、時折神経にダメージを与え、消化管の動きなどを抑制してしまう副作用があるとされています。
・血管外漏出による皮膚の壊死
③シクロホスファミド
・骨髄抑制
・消化器症状
・無菌性出血性膀胱炎
シクロホスファミドの代謝産物である「アクロレイン」が膀胱粘膜を傷害することにより、しつこい膀胱炎が起きる可能性があります。
血尿や頻回尿を呈し、一度起きるとなかなか治らない為、予防がとても重要とされています。
利尿剤であるフロセミドの同時投与が予防に用いられます。
④L-アスパラギナーゼ
・アレルギー反応、アナフィラキシー反応
・急性膵炎
⑤プレドニゾロン(ステロイド)
・多飲多尿、多食
・肥満
・消化器症状
・肝臓の数値の上昇
・筋肉量の低下
など、一般的なステロイドとしての副作用が認められる場合がありますが、抗がん剤と比べ副作用がマイルドであることが多いです。
関連記事:犬のステロイドの副作用は?いつまで続く?症状や対策
リンパ腫の治療にかかる料金の目安
上述の通り、リンパ腫の治療はその個体ごとに治療法・余命が大きく変わります。
また、治療についても、どこまで行うかにより費用が大きく異なります。
料金も、病院ごと、また地域ごとにより差がある為、あくまで参考として頂ければ幸いです。
・抗がん剤治療を行う場合
注射による抗がん剤治療(CHOPプロトコルなど)を行う場合、まずは抗がん剤が投与可能か、副作用が出ていないか確認のための血液検査が必要になります。
概ね1~2万円程度であることが多いと思います。
その後、問題なければ留置針を設置し、抗がん剤を投与します。
その費用で1~2万程度であることが多いと思います。
また、最初のうちは毎週上記の処置が必要となりますので、1か月で10~20万円程度はかかることが予測されます。
もし、積極的な治療を行わず、ステロイド単体による治療を選択して、対症療法などと併せて緩和療法を行うとして、1か月で3~5万円程度はかかることが予想されます。
まとめ
犬のリンパ腫は遭遇する頻度が高い腫瘍です。
抗がん剤と聞くと、どうしてもわんちゃんへの負担を考えて二の足を踏んでしまいがちですが、適切に治療を行えば、とても高い治療効果を得られる可能性があります。
また、治療を行わない場合でも、サプリメントなどを使用してわんちゃんの健康をサポートしてあげましょう。
参考資料
・雑誌Oncology No.17 、No.31
・雑誌クリニックノート No.153
関連記事:猫のリンパ腫はどんな病気?抗がん剤・ステロイド治療や余命など
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この記事を書いたのは

浅川雅清
獣医師
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、
ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年から1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。
現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修など幅広い業務を行っている
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