2025年版 獣医師が解説 猫の肥満細胞腫とは?良性と悪性の違いは?抗がん剤による治療は?

この記事の監修者
みつはし

愛玩動物看護師
株式会社スケアクロウにて日々飼い主の皆さまサポートに奮闘中

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肥満細胞腫とは?

肥満細胞とは別名マスト細胞と呼ばれ、免疫を司る白血球の一種です。
細胞の中に顆粒を多く含むその形から名前が付けられたとされています。

肥満細胞は、細胞の表面にIgEと呼ばれる免疫グロブリンがくっついており、そのIgE抗体に細菌やアレルゲンなどの異物が結合すると、肥満細胞の中の顆粒が放出され(脱顆粒)、炎症やアレルギー反応を引き起こします。

その顆粒の中には、ヒスタミンやヘパリンなどが含まれると言われており、それらが症状を引き起こす原因とされています。

肥満細胞腫とは、その肥満細胞が腫瘍化したものを指し、猫においては良性と悪性の両方が発生するとされています。

 

猫の肥満細胞腫とは?

猫の肥満細胞腫は、さまざまな形態で皮膚(皮膚型)や腸管、脾臓、肝臓(内蔵型)などに発生します。

猫の皮膚・皮下組織での発生は、繊維肉腫や基底細胞腫を抑えて1位と報告されています。

皮膚においては、シャムで好発し、性差はないとされています。

また、腸管での発生は3番目に多く、耳介にできる腫瘍としても、扁平上皮癌や繊維肉腫を抑えて1位、脾臓においても、リンパ腫や血管肉腫を抑えて1位と報告されているほど、比較的よく遭遇する腫瘍です。

また、加齢とともによく頻発する「イボ」は、概ね「皮脂腺腫」であることが多く、概ね良性であることが多く、肥満細胞腫とは異なる腫瘍です。

どちらも、一見すると形や固さなどの外観は似通っているようにも思えます。
見た目で判断して放置しておくと、実は悪性の腫瘍でした、ということもあり得ますのでご注意ください。

猫の肥満細胞腫は、まだあまり研究が進んでおらず、いくつかのグレード分類が提唱されています。

表1 猫の皮膚肥満細胞腫のグレード分類の一例

高グレード

 

 

 

有糸分列数が高倍率10視野あたり5個以上、かつ、
①直径が1.5cm以上
②不整な核の形状
③核小体の明瞭化/クロマチンの凝集(50%以上の細胞において)
上記の2つ以上に当てはまる場合
低グレード 上記、高グレードに分類されない場合

一般に、皮膚型の肥満細胞腫は良性と言われているものの、近年ではリンパ節への転移が確認されるなど、悪性の挙動をとるケースも報告されています。

ですので、安易な気持ちで経過観察を行うのも注意が必要です。

実際、自分の症例でも、足先の皮膚にできた症例で手術を実施し、その際にリンパ節への転移が認められ、抗がん剤による治療を行った経験もあります。

 

猫の肥満細胞腫の原因は?

猫の肥満細胞腫において、その具体的な原因は明らかになっていません。

シャム猫に多い為、猫種などの遺伝的な素因、腫瘍に対する免疫力の低下など、様々な原因が推測されていますが、現時点で特定されている原因はほぼ無いと思われます。

ですが、c-kit遺伝子という遺伝子に変異が生じていることが関連している可能性が示唆されており、肥満細胞腫と診断された際は、その遺伝子変異の検査も一緒に行うこともあります。

 

猫の肥満細胞腫の症状は?

猫の肥満細胞腫は、肉眼で皮膚にしこりや脱毛を発見することで判明するパターンと、嘔吐や下痢などの体調不良で検査して判明するパターンがあります。

皮膚型の場合はあまり症状を示さないこともありますが、以下のような症状を示す場合があります。

高ヒスタミン血症

何かのきっかけで脱顆粒が起こると、肥満細胞内のヒスタミンにより、胃壁のH2受容体が刺激され胃酸分泌が促進されたり、血行が阻害されたりすることで胃潰瘍が生じ、嘔吐や下痢などの症状が出ます。

また、血管のH2受容体を刺激すると、低血圧によるショックを起こすことがあります。

ダリエ兆候

脱顆粒により、しこりの周囲に皮膚の赤み、浮腫、出血、かゆみなどが生じることがあります。

癒合遅延

顆粒内のタンパク分解酵素やヒスタミンが術創に残存していると、術創がくっつきにくくなることがあります。

 

猫の肥満細胞腫の診断に必要な検査は?

猫の肥満細胞腫が疑われる場合に必要な検査は、まずはしこりの細胞診になります。

基本的には無麻酔で、しこりに針をさして顕微鏡で細胞を確認します。

概ね、特徴的な顆粒を持った肥満細胞が多数確認できることが多いですが、たまに顆粒をわずかしか持たないタイプもあり、判断に悩むことがあります。

また、今後手術を計画するにあたって、さらには現在のグレードやステージを判断するために、一般的な血液検査やレントゲン検査、腹部エコー検査、さらには所属リンパ節の細胞診などを行います。

特に、肥満細胞腫はリンパ節への転移がよく起こると言われています。

内臓型の肥満細胞腫では、腹部エコー検査やCT検査などの画像検査を用いないと診断できない場合もありますので注意が必要です。

分子標的薬に分類される抗がん剤を使用するにあたって、c-kit変異の有無を検査することで、薬剤を使用すべきか否かの判断材料となります。

猫におけるc-kit変異の保有率は約70%と報告されています。

 

猫の肥満細胞腫の治療と予後(余命)は?

猫の肥満細胞腫の治療は、発生した部位に関わらず外科的な切除が第一とされています。

皮膚に発生した場合は、ある程度のマージン(正常な組織を含む余白)を確保し、皮膚ごとしこりを切除します。

脾臓に発生した場合は脾臓摘出を、腸管に発生した場合は腸管の切除を行います。

必要に応じ、所属リンパ節の切除も同時に行うことがあります。

皮膚型の肥満細胞腫の予後(余命)は、上述のグレード分類を基にすると高グレードでは生存期間中央値は約1年と報告されています。

逆に、低グレードと予測される肥満細胞腫であれば、治療を行えば3~4年以上生存するケースも報告されています。

脾臓摘出を行った症例、脾臓摘出後に抗がん剤を併用した症例における腫瘍特異的生存期間(MTSS)はそれぞれ856日、853日と報告した論文があります。

また、犬とは異なり、c-kit変異の有無は予後に関係があるかどうかはまだ不明とされています。

その他に、ステロイドや抗がん剤を適応するケースもあります。

皮膚型で低グレードの可能性が高い場合は、術後ステロイド単体で再発が無いか経過を見ることがあります。

内臓型で高グレードの可能性が予告される場合や、リンパ節への転移が確認された場合などは、状況により術後に積極的な抗がん剤治療を行うこともあります。

また、高齢であったり切除が出来ない部位に発生したりするなどで手術を行うことが難しい場合は、ステロイドや抗がん剤のみの治療を行うケースもあります。

抗がん剤としては、ビンブラスチンや、分子標的薬に分類されるイマチニブやトセラニブ(商品名:パラディア錠)を用いた治療方法も提案されています。

トセラニブは現在、犬用の治療薬として認可を受けていますが、猫に使用するケースもあります。

副作用としては、嘔吐や下痢、食欲不振、骨髄抑制、肝酵素上昇、腎機能障害などが挙げられます。

トセラニブを用いた猫での論文では、奏効率は皮膚で86%、脾臓/肝臓で80%、腸管で76%程度であったと報告されています。

ただ同時に、副作用の発生率も60%程度だったと報告されています。

また、補助的な治療として、抗ヒスタミン薬であるH1ブロッカー(ジフェンヒドラミンなど)やH2ブロッカー(ファモチジンなど)も併用されることが多いです。

サプリメントなどで体調をサポートしてあげることも選択肢としては有用で、腫瘍には「タヒボエキス」などがオススメです。

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猫の肥満細胞腫の治療費の目安は?

猫の肥満細胞腫の治療費は、しこりの部位や大きさ、術前検査の内容、各病院により大きく異なることが予想されます。

まずは手術を行う場合は、術前検査で血液検査やレントゲン検査、エコー検査、細胞診を行うと約3~4万円ほどと思われます。

そこにCTや遺伝子変異の検査などを追加するとまたさらに増額します。

皮膚型で、大きくないものの手術であれば約7~8万円程と思われ、しこりが大きかったり、リンパ節切除を追加したりする場合は、さらに増額すると思われます。

内臓型で脾臓摘出や腸管切除を行った場合は、10~15万円程度と思われます。

術後、抗がん剤での追加治療、もしくは再手術となった場合は、さらに増額することが見込まれます。

 

まとめ

猫の肥満細胞腫はよく遭遇する疾患です。

まだ情報が少ない為、予後の予測が難しいケースもあります。

小さなうちに手術を行い積極的な治療を行うことが、予後としてはベストな選択肢である腫瘍ですので、小さなしこりだからといって様子を見ずに、早めの受診を心掛けましょう。

参考資料
・獣医腫瘍学テキスト 第二版
・Veterinary Oncology Vol.2 No.4

関連記事:犬の肥満細胞腫とは?イボや脂肪腫との違いは?治療の費用は?

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この記事を書いたのは


浅川雅清
獣医師
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、
ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年から1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。
現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修など幅広い業務を行っている
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