アトピー性皮膚炎とは?
ヒトにおいてアトピー性皮膚炎は、「増悪・寛解を繰り返す瘙痒(痒み)のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ」と定義されています。
すなわち、皮膚のバリア機能が低下し、環境中のアレルゲンに対しIgEを主体とした過剰なアレルギー反応が起こり、皮膚に痒みや炎症を起こしてしまう病気になります。
治療は、主にステロイド剤を中心としてアレルギー反応を抑える治療を行うようです。
犬のアトピー性皮膚炎とは?
犬のアトピー性皮膚炎の有病率は10~15%と言われており、日常からよく遭遇する皮膚疾患です。
ヒトと同様で、何かしらの原因で皮膚のバリア機能が低下し、アレルゲン(アレルギーを引きおこす抗原物質)に対しアレルギー反応が起こり、皮膚に痒みや炎症を起こしてしまう病気になります。
犬のアトピー性皮膚炎は、IgEが関連するⅠ型アレルギーが主体と考えられていました。
食物が主体のアレルゲンとなり、Ⅳ型アレルギーが主体となる食物アレルギーとは分けられます。
しかし、病態としてアトピー性皮膚炎と食物アレルギーを併発しているケースも少なくありません。
さらに、犬のアトピー性皮膚炎は、以前までは「遺伝的素因を有した炎症性・瘙痒性のアレルギー性皮膚疾患であり、環境抗原に対するIgEが関与する特徴的な症状を認める」疾患と定義されていましたが、
2024年になり、「遺伝的素因を有した、痒みを伴うT細胞主体の炎症性皮膚疾患であり、皮膚バリア異常、アレルゲン感作、細菌叢の乱れの相互作用が関与する」疾患と定義され始めました。
すなわち、単純にアレルゲンを回避したり、薬で痒みを抑えたりするだけでは治療が不十分な疾患で、多面的な治療が必要となります。
犬のアトピー性皮膚炎の原因は?
犬のアトピー性皮膚炎の原因は、直接的には環境中に存在する様々なアレルゲンが原因となります。
表1 犬のアトピー性皮膚炎におけるアレルゲンの例
| 節足動物 | キク科植物 | 真菌 | イネ科植物 | 樹木 |
| ヤケヒョウヒダニ コナヒョウヒダニアシブトコナダニノミ蚊 |
モギオオブタクサアキノキリンソウタンポポフランスギク | アスペルギルス アルテリナリア クラドスポリウムペニシリウム マラセチア |
カモガヤ ハルガヤ オオアワガエリ ホソムギ ギョウギシバ |
ニホンスギ シラカンバ ハンノキ |
日本における研究でIgEの陽性率は、ダニへの陽性率は96.7%と非常に高く、ノミが40%、花粉が18%という報告があるようです。
しかし、これらのアレルゲンと反応する前段階として、皮膚バリアの低下がおおもとの原因と言われ始めています。
皮膚バリア機能の低下には、不適切なスキンケアや過剰な皮脂、ホルモンの疾患などの原因も考えられますが、一番は遺伝的な素因が原因と言われています。
ある報告で、健康な犬から生まれた犬におけるアトピー性皮膚炎の発症率は10%ほどであるのに対し、片親がアトピー性皮膚炎である場合は21~57%、両親ともアトピー性皮膚炎の場合は65%ほどの発症率と言われています。
また、好発犬種として、ボクサー、ブルドッグ、ラブラドールレトリバー、パグ、ウエストハイランドホワイトテリア、柴犬、フレンチブルドッグ、ミニチュアピンシャーなどが挙げられており、その点も遺伝的な素因を疑わせる根拠となっています。
どのように皮膚バリア機能が低下しているのかというと、皮膚を構成している成分で皮膚に水分を保持する「セラミド」が減少していたり、皮膚の皮脂ラメラ構造に異常が見られたりすることで皮膚が乾燥し、皮膚バリア機能が低下すると言われています。
犬のアトピー性皮膚炎の症状は?
犬のアトピー性皮膚炎の症状は、主に「かゆみ」が中心となります。
かゆみから皮膚を搔き壊してしまい、それが原因で皮膚に炎症や感染、脱毛、苔癬化、色素沈着などが起こります。
特に苔癬化と色素沈着は長期にわたり症状がある場合に出てくることが多いです。
また、感染やマラセチアの増殖を伴う場合は、脂漏感(皮膚のべたつき)や臭いが出てくることもあります。
初発の年齢は若い年齢(1~3歳)からの発症が多く、対して食物アレルギーは1歳を迎える前から症状が認められることがあります。
アトピー性皮膚炎は主に春から秋にかけて症状が強く、食物アレルギーは通年で症状が出ることが特徴とされています。
症状が出やすい部位としては、
- 耳(特に外側より内側を中心に)
- 顔(目の周り、口の周りなど)
- 四肢端(指の間など)
- 脇の下
- 下腹(お股から内ももにかけて)
- 足や尾の付け根
などが挙げられます。
関連記事:犬の外耳炎はドラッグストアの市販薬で治る?症状や原因など徹底解説
その症状が、特に左右対称に出ている場合は、強くアレルギーによる皮膚炎を疑います。
また、腰背部に症状が認められる場合は、食物アレルギーやノミアレルギー性皮膚炎を疑います。
このように、症状や犬種、季節性、発症時期から、アレルギーによる皮膚炎なのか、アレルギーによる皮膚炎であればアトピー性皮膚炎なのか、食物アレルギーなのか、ある程度推測することが出来ます。
受診される際は、そういった点を明確にした上で、獣医師に伝えておくとよいでしょう。
関連記事:犬の食物アレルギーは治る?検査の費用やフード・症状など解説
犬のアトピー性皮膚炎の診断に必要な検査は?
犬のアトピー性皮膚炎の診断は、基本的に「除外診断」で診断を行うことが多いです。
除外診断とは、その病気以外の病気の可能性が無いことを検査で否定していくことで診断することです。
すなわち、アトピー性皮膚炎と似た症状を示す病気を検査で除外していくことが、アトピー性皮膚炎を診断するのに必要な検査になります。
表2 アトピー性皮膚炎に似た症状を示す疾患
| 感染症 | アレルギー | 腫瘍 | 内分泌疾患 | その他 |
| 疥癬 ニキビダニ症 膿皮症 マラセチア皮膚炎 |
食物アレルギー ノミアレルギー 薬疹 |
上皮向性リンパ腫 肥満細胞腫 |
クッシング症候群甲状腺機能低下症
|
心因性 自己免疫疾患 (天疱瘡など) |
これらの疾患を除外するために、皮膚検査(鋭匙によるスクレーピング、セロハンテープ法や細胞診による顕微鏡検査、皮膚の細菌培養検査、皮膚生検による病理学的検査、抜毛検査など)はもちろんのこと、一般的な血液検査やホルモン検査、超音波検査などで内臓の状態の確認も必要になります。
また、アレルゲンの確認の為、アレルギー検査を行うことも重要です。
関連記事:犬のアレルギー検査はやるべき?意味ない?何歳からできるの?
犬のアトピー性皮膚炎の治療は?
犬のアトピー性皮膚炎の治療は、皮膚バリア異常の改善、痒みの制御、炎症の制御を目的として、多方面からの治療を行う必要があります。
また、アトピー性皮膚炎は完治することが少ない為、生涯にわたって治療を継続する必要があります。
まずは、症状として「かゆみ」で来院されることが多いので、最初は「痒み止め」を処方されることが多いでしょう。
また、感染が疑われる場合は抗生剤なども併用することが多いです。
症状が落ち着いてから、いかに健康な皮膚を維持するか、継続的な治療を手探りしていきます。
痒み止めに関しては、現在様々な薬剤が使用されています。
表3 アトピー性皮膚炎に用いられる主な治療薬のメリットとデメリット
| 一般名 | 商品名 | メリット | デメリット |
| プレドニゾロン | プレドニゾロン錠 | ・即効性がある ・症状が重度な場合も使用可能 ・安価である |
・副作用が多く、長期投与に不向き ・基礎疾患がある場合は使用を控えることがある |
| シクロスポリン | アトピカ | ・症状が重度な場合も使用可能 ・長期投与が可能 |
・即効性がない ・高価である ・投与開始時に嘔吐や下痢が多い |
| オクラシチニブ | アポキル | ・即効性がある ・長期投与が可能 |
・症状が重度な場合は効果が薄いことがある ・高価である ・軽度に副作用がある |
| ロキベトマブ | サイトポイント | ・長期投与が可能 ・注射薬で、一度の投与で1か月持続する ・副作用がほぼ無い |
・即効性がない ・症状が重度な場合は効果が薄いことがある ・高価である |
症状の重篤度に合わせて治療を選択する必要があります。
また、お薬の他、皮膚に良い成分が入った食事(フード)やサプリメント、薬浴のシャンプーを併用することで、お薬を減薬、または中止することができることがあります。
よく用いられる成分としては、
- ビタミンE
- プロテオグリカン
- ω3脂肪酸
- 植物発酵糖脂質LPS
- フランス海岸松樹皮抽出物(ピクノジェノール)
- 亜鉛酵母
などが挙げられます。
シャンプーに関しては、犬のアトピー性皮膚炎では保湿が重要と言われています。
皮膚の症状により頻度は変わりますが、保湿力の高いシャンプーを週1回の頻度でこまめに行うと良いとされています。
また、保湿シャンプーで保湿力が不十分な場合は、ローションやスプレーなどの保湿剤を追加することでより健康な皮膚の維持に良いとされています。
犬のアトピー性皮膚炎の治療費の目安は?
犬のアトピー性皮膚炎の治療費は、皮膚の重篤度や犬の体格、病院により大きく異なります。
皮膚の症状が軽度で、痒み止めだけで管理が可能な場合は、月1~2万円程となると思われます。
痒い季節が過ぎれば、お薬を休薬することも可能でしょう。
皮膚の症状が重度であれば、内服、サプリメント、フード、シャンプーを併用していくと仮定すると、月3~5万円程度になると思われます。
まとめ
犬のアトピー性皮膚炎は、日頃の診察で非常によく遭遇します。
治療方法が多彩である上、症状や治療反応がわんちゃん1頭1頭により異なる為、オーダーメイドの治療が必要になる病気と思っています。
治療が難しい症例は、広い視野で様々な治療を試すと、よく効くものが見つかるかもしれません。
かかりつけの先生と相談しながら、適切な治療を見つけていきましょう。
参考資料
・動物アレルギー検査株式会社 ホームページ
・Vet-i No.25
・hinocare@スキンケアセミナー2017 西藤 公司 先生
・犬アトピー性皮膚炎の病態アップデート 朝比奈 良
関連記事:猫のアトピー性皮膚炎とは?犬とは違う、その症状や原因、治療とは?
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この記事を書いたのは

浅川雅清
獣医師
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、
ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年から1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。
現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修など幅広い業務を行っている
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