犬の「アレルギー」とは?
「アレルギー」という言葉は、1906年にクレメンス・ピーター・フォン・ピルケ(Clemens Peter von Pirquet)が「奇妙な反応」という意味で使ったのが始まりと言われています。
現代において「アレルギー」とは、動物の体内の「免疫」というシステムが、本来はウイルスや細菌などから体を守るように働くところを、ある特定のアレルゲンに対して過剰に反応してしまい、症状が引き起こされることをいいます。
その結果、犬においては、皮膚のかゆみや脱毛、赤み、色素沈着、顔の腫れ、嘔吐、下痢、腹痛など、様々な症状を引き起こします。
犬のアレルギーは、大きく「環境中のアレルギー(アトピー性皮膚炎)」と「食事中のアレルギー(食物アレルギー)」の二つに分けられます。
アトピー性皮膚炎とは、環境中のアレルゲン(植物やハウスダストマイトなど)に、IgE抗体という抗体を介した1型アレルギーによる反応が起こることで発症します。
食物アレルギーは、特定の食べ物(主にタンパク質や炭水化物源)に対する過剰な免疫反応により、皮膚症状の他、嘔吐や下痢といった消化器症状を起こします。こちらはⅠ型アレルギーの他、Ⅳ型アレルギーの反応が起こることで発症します。
ある報告によると、Ⅰ型アレルギーの検査であるIgE検査で特定可能であった食物アレルゲンは30%であり、Ⅳ型アレルギーの検査であるリンパ球反応検査で特定可能であった食物アレルギーは80%であったとのことです。
関連記事:犬の食物アレルギーは治る?検査の費用やフード・症状など解説
アレルギーになりやすい犬種とは?
日本においては、柴犬がよくなりやすいと言われています。その他にはトイ・プードル、シーズー、ウエスティ、ラブラドール・レトリバー、ゴールデン・レトリバー、パグ、フレンチブルドッグなどが挙げられます。
犬のアレルギーが疑われる症状とは?
犬のアレルギーを最初に疑う症状は、皮膚の症状であることが多いです。
症状としては「痒み」が中心であることが多く、それに伴って、皮膚の赤みや脱毛が生じます。
アレルギーでの痒みの症状が現れる部分には特徴があり、眼の周囲、口唇の周囲、四肢の足先、肉球の間、耳の内側、股、太ももの外側などによく症状がみられます。
特にその症状が左右対称に出ていたり、治療をして一時的に良くなってもすぐ再発したりする場合は、アレルギーが強く疑われます。
また、似たような病気に、皮膚の感染症(細菌や寄生虫など)があるので、そういったものを除外して、最終的にアレルギーを疑う流れになることが多いです。
アトピー性皮膚炎と食物アレルギーでは、症状の出方に少し違いがあります。
アトピー性皮膚炎については、症状に季節性がある(特に春から夏にかけて症状が出て、冬に収まる)ことが多く、食物アレルギーは通年で同じ食べ物を食べるため、季節性がないことが多いです。
発症年齢も、アトピー性皮膚炎が3才以下で多い反面、食物アレルギーは1歳未満というかなり若齢のうちから認められることがあります。
また、食物アレルギーは、嘔吐や下痢、便の回数の増加など、消化器症状を伴うこともよくあります。
皮膚の症状が出る部位としては、食物アレルギーは背中に脱毛が出ることが特徴だと言われています。
治療においても少し違いがあり、アトピー性皮膚炎について、基本的にはアレルギー反応を抑えるお薬を内服します。
食物アレルギーは、アレルギー検査の結果を鑑みて、アレルギーが起きにくいフードに変更します。
しかし、投薬やフードの変更で症状が完全に消えない症例もいます。
近年では、スキンケア療法や、サプリメント等を使用した免疫のバランスを整える方法が積極的に行われるようにもなっています。
おすすめのサプリメント成分としては、乳酸菌製剤、「ピクノジェノール(フランス海岸松樹皮抽出物質)」、「小麦発酵抽出物」、「植物発酵糖脂質LPS」などが挙げられます。
犬のアレルギー検査の原理とは?
①IgE検査
IgE検査とは、血液中にどれぐらいIgE抗体が存在しているかを測定する検査です。
主にアトピー性皮膚炎のアレルゲンの特定に用いられます。
まず、調べたいアレルゲンを検査用のプレートに固相化します。
次に、検査したい犬の血液をプレートに加えます。
そうすると、もしアレルゲンに反応するIgE抗体が含まれていると、そのアレルゲンと結合します。
その結合したIgE抗体に、抗犬IgEモノクローナル抗体という、犬のIgE抗体に特異的に結合する抗体を加えて、結合させます。
そして、IgE抗体にどれくらい抗犬IgEモノクローナル抗体が結合したかを蛍光で測定する蛍光ELISA法という方法で、IgE抗体の量を測定します。
血液中のIgEの量は、アレルゲンの暴露から時間が経つと低下してしまう為、アトピー性皮膚炎であれば症状が出やすい季節に検査する方が結果が得られやすいとされています。
また、ステロイド剤や免疫抑制剤などの、アレルギーに用いられる治療薬を飲んでいても、検査結果に影響が出ないとされ、検査前の休薬は必要ないとされています。
また、生後6か月を過ぎないと、IgEに関連したアレルギーは起きないとされていますので、生後6か月を過ぎてから検査を行うとよいでしょう。
②リンパ球反応検査
リンパ球反応検査とは、血液中のリンパ球を培養し、アレルゲンに対しどれくらい反応が見られるかを測定する検査です。
主に食物アレルギーのアレルゲンの特定に用いられます。
まず、採血にて回収したリンパ球と抗原提示細胞を、調べたいアレルゲンとともに培養します。
健康な犬だと、アレルゲンに反応するリンパ球が存在しない為、抗原提示細胞からアレルゲンの抗原提示を受けてもリンパ球は活性化しません。
アレルギーの犬だと、アレルゲンに反応するリンパ球が存在する為、抗原提示細胞からアレルゲンの抗原提示を受けることでリンパ球が活性化します。
そして、活性化したリンパ球が何%存在するのかを、リンパ球の活性化マーカーに対する抗体を使い測定します。
こちらの検査は、現時点では猫での検査系は確立されていません。
また、ステロイド剤や免疫抑制剤などの、アレルギーに用いられる治療薬を飲んでいる場合、こちらの検査結果に影響が出てしまうため、検査前に2週間ほどの休薬が推奨されています。
何歳からという明確な基準はありませんが、離乳を終えていて、かつ症状が出ていれば実施することが可能です。
また、近年、犬の毛からアレルゲンを予測する検査が行われています。
そちらは、上記の検査とは異なり「バイオレゾナンス技術」というものを使っている検査があるようです。
採血をする必要が無い分、気軽に実施できるメリットはありますが、現在のところの獣医療では、IgE検査とリンパ球反応検査が主流となっています。
犬のアレルギー検査の費用はいくら?
犬のアレルギー検査の費用は、比較的高額に設定されている病院が多いと思われます。
だいたい2~4万円程が相場になります。
ですので、多くの飼い主様が尻込みをしてしまいますが、適切に行えばそれだけの価値はあると個人的には思います。
また、保険会社により、アレルギー検査も保険適応になる場合がありますので、上手く利用すれば自己負担額を減らすことができるでしょう。
犬のアレルギー検査の信憑性は?
犬のアレルギー検査の感度・特異度をまとめた報告はあまりありません。
一説によると、IgE検査の相関性は60~80%と言われています。
どの検査でも言えることですが、100%確実な検査ではありません。
感度、特異度ともにそこまで高い検査ではないので、あくまで検査結果を「参考にする」程度に考えてもらうことが重要でしょう。
では、アレルギー検査は意味のない検査なのでしょうか?
実は、より正確な検査結果を得る為に、気を付けなければいけないことがあります。
まず、それぞれの検査のターゲットを明確に理解する必要があります。
前述の通り、IgE検査は主にアトピー性皮膚炎に、リンパ球反応検査は主に食物アレルギーに用いられます。
例えば、犬種や症状からアトピー性皮膚炎を強く疑うのに、リンパ球反応検査だけを行っても無駄な検査となってしまうでしょう。
反対に、下痢などのお腹の症状が強く出ている場合に、IgE検査のみを行っても適切なフードの選択はできません。
検査を行う前に、今の症状はアトピー性皮膚炎が疑われるのか、食物アレルギーが疑われるのかを明確にすると、適切な検査が選択できるでしょう。
また、アトピー性皮膚炎は、IgE検査の結果に関わらず、治療としてはステロイド剤や免疫抑制剤が中心となることに変わりはありません。
ですので、IgE検査は必ずしも必要でないケースもあります。
ただし、食物アレルギーに関しては、食物アレルギー用のフードが各社メーカーから発売されていますので、適切なフードを選ぶ上でリンパ球反応検査はとても参考になります。
フードを切り替えて数か月しないと症状の改善は見られないとされていますので、当てずっぽうでフードを切り替えても治療は難航してしまうことが多いです。
まとめ
近年、アレルギーを疑う犬は多いと実感しています。
アレルギー検査は高額だというイメージがあると思いますが、適切に使用すればスムーズな治療に結びつく、とても有用な検査です。
ご自身のわんちゃんが「アレルギーかな?」と思う症状がある場合は、治療を行う前に検査を是非検討してみましょう。
参考資料
・「AACLニュース」 動物アレルギー検査会社
・ALL Skin Barrier Symposium 日本ヒルズ・コルゲート株式会社
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この記事を書いたのは

浅川雅清
獣医師
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、
ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年から1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。
現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修など幅広い業務を行っている
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