アトピー性皮膚炎とは?
ヒトにおいてアトピー性皮膚炎は、「増悪・寛解を繰り返す瘙痒(痒み)のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ」と定義されています。
すなわち、皮膚のバリア機能が低下し、環境中のアレルゲン(アレルギーを引きおこす抗原物質)に対しIgEを主体とした過剰なアレルギー反応が起こり、皮膚に痒みや炎症を起こしてしまう病気になります。
治療は、主にステロイド剤を中心としてアレルギー反応を抑える治療を行うようです。
犬のアトピー性皮膚炎もヒトと同様で、何かしらの原因で皮膚のバリア機能が低下し、アレルゲンに対しアレルギー反応が起こり、皮膚に痒みや炎症を起こしてしまう病気になります。
IgEが関連するⅠ型アレルギーと、細胞性免疫が主体となるⅣ型アレルギーにより、皮膚に症状を起こすのが犬での典型例ですが、猫では症状の出方が異なります。
猫のアトピー性皮膚炎とは?
正確には、猫で「アトピー性皮膚炎」という言葉は用いませんが、分かりやすさが故に一般的にそのように呼ばれています。
2021年に、ノミや食物アレルギーの関与しない痒みを生じる皮膚炎を「猫アトピー性皮膚症候群(FASS)」と呼ぶよう提案がなされました。
その論文ではその他、呼吸器症状が出るものを「猫喘息」、食物アレルギーに関連したものを「食物アレルギー」と分類しています。
これら3つを併せて「猫アトピー症候群(FAS)」と名称が変更されました。
このような経緯で、まだ通称や古い名称(猫過敏性皮膚炎)と、猫アトピー性皮膚症候群という名前が混在しているのです。
猫のアトピー性皮膚炎の原因は?
猫アトピー性皮膚症候群の原因は、直接的には環境中に存在する様々なアレルゲンが原因となります。
しかし、それだけではなく、特定の品種(アビシニアン・ヒマラヤン・ペルシャなど)に多く発生すると報告されていることから、犬と同様に遺伝性疾患の可能性が考えられています。
また、IgE抗体が関係することは判明しているものの、どのような経路で、どのような反応が起きるかなど、細かい点が判明していないのが現状のようです。
表1 猫における測定可能なアレルゲンの例
| 節足動物 | キク科植物 | 真菌 | イネ科植物 | 樹木 |
| ヤケヒョウヒダニ コナヒョウヒダニ アシブトコナダニ ノミ 蚊 |
ヨモギ オオブタクサ アキノキリンソウ タンポポ フランスギク |
アスペルギルス アルテリナリア クラドスポリウム ペニシリウム |
カモガヤ ハルガヤ オオアワガエリ ホソムギ ギョウギシバ |
ニホンスギ シラカンバ ハンノキ |
| 魚肉 | 肉類 | 植物系 | ||
| カツオ マグロ サケ タラ |
鶏肉 卵白 卵黄 七面鳥 アヒル |
牛肉 牛乳 羊肉 豚肉 |
小麦 トウモロコシ 米 大豆 ジャガイモ |
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猫のアトピー性皮膚炎の症状は?
猫アトピー性皮膚症候群の症状は多彩で、かつ犬と症状の出方が異なるため、その点も未解明なことが多いのが現状です。
その中でも、特に以下のような症状が認められた場合、猫アトピー性皮膚症候群であることを強く疑う根拠になります。
頭頸部掻爬痕(FHNP)
特に顔面や首といった部分に、痒みからひっかいてできる外傷が生じます。
下顎や目の上から耳の付け根にかけて、頬などによく外傷が見つかることが多いです。
粟粒性皮膚炎(MD)
耳、背部、腰部、下腹、大腿などに、1~2mmの赤い丘疹(ブツブツ)が認められます。
関連記事:猫の粟粒性皮膚炎(ぞくりゅうせいひふえん)とは?うつる病気?
外傷性脱毛(SIAH)
痒みに伴って、過剰にグルーミングを行うことにより毛がちぎれ、脱毛が認められます。
下腹や大腿に多く見られますが、前肢や体幹に起こることもあります。
好酸球性肉芽腫(ECG)
好酸球と呼ばれる白血球の一種が多数認められる病変を指します。
口唇の粘膜によく起こる「無痛性潰瘍」や、直線状に真皮が肥厚する「線状肉芽腫」、隆起した潰瘍部が見られる「好酸球性局面」などが該当します。
また、痒みに伴って眼瞼や角膜を傷つけてしまい、眼瞼炎や角膜潰瘍を起こすと、涙や目ヤニが多くなったり、目をシバシバするような症状が認められたりします。
その他、食物アレルギーがあれば嘔吐や下痢、軟便など、猫喘息があれば咳やくしゃみ、鼻水、目ヤニ、重度だと呼吸様式に異常が認められることがあります。
関連記事:猫の食物アレルギーとは?症状・検査法・アレルギー用フードの基礎知識
犬では比較的症状が類似していましたが、このように猫では多様な症状が出る上、個体によりどの症状がでるか、どこに出るかが異なるため、判断が難しくなるひとつの理由となっています。
猫のアトピー性皮膚炎の診断に必要な検査は?
犬のアトピー性皮膚炎の診断は、基本的に「除外診断」で診断を行います。
猫アトピー性皮膚症候群も同様で、猫アトピー性皮膚症候群と似た症状を示す病気を除外した上で、上記の特徴的な症状があることを確認し、診断します。
表2 猫アトピー性皮膚症候群に似た症状を示す疾患
| 感染症 | アレルギー | 腫瘍 | 内分泌疾患 | その他 |
| 疥癬 ニキビダニ症 膿皮症 皮膚糸状菌症 ウイルス性疾患 (ヘルペス等) |
食物アレルギー ノミアレルギー 薬疹 |
上皮向性リンパ腫 肥満細胞腫 扁平上皮癌 |
クッシング症候群 原発性副甲状腺機能低下症 甲状腺機能亢進症 |
心因性 自己免疫疾患 (天疱瘡など) 下部尿路疾患 |
これらの疾患を除外するために、皮膚検査(鋭匙によるスクレーピング、セロハンテープ法や細胞診による顕微鏡検査、皮膚の細菌培養検査、皮膚生検による病理学的検査、抜毛検査など)はもちろんのこと、一般的な血液検査やホルモン検査、超音波検査などで内臓の状態の確認も必要になります。
これらの病気が隠れていた場合、一般的な猫アトピー性皮膚症候群に対する治療を行っても治らないことが予測されます。
また、アレルゲンの確認の為、アレルギー検査を行うことも選択肢の一つです。
しかし現状、犬とは異なり「リンパ球反応検査」が検査として確立していない為、IgE検査のみが実施可能です。
食物以外の環境中のアレルゲンは特定しても除外することが難しく、アレルギー検査は補助的な立ち位置の検査であり、必ず実施するものではありません。
猫のアトピー性皮膚炎の治療は?
猫アトピー性皮膚症候群の治療は、犬とは異なり、基本的にはお薬が中心となります。
また、根本原因であるアレルゲンを排除することが難しく、猫アトピー性皮膚症候群も完治することが少ない為、生涯にわたって治療を継続する必要があります。
まずは、症状として「かゆみ」で来院されることが多いので、最初は「痒み止め」を処方されることが多いでしょう。
また、感染が疑われる場合は抗生剤なども併用することが多いです。
症状が落ち着いてから、いかに健康な皮膚を維持するか、継続的な治療を手探りしていきます。
痒み止めに関しては、現在様々な薬剤が使用されています。
表3 アトピー性皮膚炎に用いられる主な治療薬のメリットとデメリット
| 一般名 | 商品名 | メリット | デメリット |
| プレドニゾロン | プレドニゾロン錠 | ・即効性がある ・症状が重度な場合も使用可能 ・安価である |
・副作用が多く、長期投与に不向き ・基礎疾患がある場合は使用を控えることがある |
| シクロスポリン | アトピカ | ・症状が重度な場合も使用可能 ・長期投与が可能 |
・即効性がない ・高価である ・投与開始時に嘔吐や下痢が多い |
| オクラシチニブ (猫では適応外使用) |
アポキル | ・即効性がある ・長期投与が可能 |
・症状が重度な場合は効果が薄いことがある ・高価である ・軽度に副作用がある |
症状の重篤度に合わせて治療を選択する必要があります。
また、お薬の他、皮膚に良い成分が入った療法食(フード)やアレルギー用のフード、サプリメントを併用することで、お薬を減薬、または中止することができることがあります。
関連記事:猫の療法食って?与え方は?いつまであげる? 療法食の基礎知識を徹底解説
よく用いられる成分としては、
- ビタミンE
- プロテオグリカン
- ω3脂肪酸
- 植物発酵糖脂質LPS
- フランス海岸松樹皮抽出物(ピクノジェノール)
- 亜鉛酵母
などが挙げられます。
シャンプー療法に関しては、犬であれば積極的に用いられますが、猫においてはなかなかシャンプーを行うことが難しく現実的ではありません。
猫のアトピー性皮膚炎の治療費の目安は?
猫アトピー性皮膚症候群の治療費は、皮膚の重篤度や動物病院により大きく異なります。
皮膚の症状が軽度で、痒み止めだけで管理が可能な場合は、月1~2万円程となると思われます。
皮膚の症状が重度であれば、内服、サプリメント、フードを併用していくと仮定すると、月3~5万円程度になると思われます。
まとめ
猫アトピー性皮膚症候群は、日頃の診察で非常によく遭遇します。
症状が多彩である上、病態や診断が確立していないがために、治療に悩むことが多い病気と思っています。
犬と異なりシャンプー療法や外用療法などの選択肢が絞られてしまうのも、治療が難しくなる原因の一つです。
投薬による副作用に気を付けながら、かかりつけの先生と相談し、適切な治療を見つけていきましょう。
参考資料
・動物アレルギー検査株式会社 ホームページ
・Feline allergic diseases: introduction and proposed nomenclature
19 January 2021
関連記事:犬のアトピー性皮膚炎とは?その症状や原因、治療とは?
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この記事を書いたのは

浅川雅清
獣医師
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、
ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年から1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。
現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修など幅広い業務を行っている
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