クッシング症候群とは?
クッシング症候群とは、正式名称を「副腎皮質機能亢進症」と言い、犬はもちろんのこと、稀に猫でも認められます。
ヒトでも発生することが知られていて、難病指定されており、女性の方が罹患率は高いそうです。
そもそも副腎とは、犬であれば左右一対存在し、腎臓のやや頭側付近に存在します。
副腎皮質からはステロイドホルモンである糖質コルチコイド(コルチゾールなど)、鉱質コルチコイド(アルドステロンなど)、副腎髄質からはカテコールアミン(アドレナリンなど)などが分泌されています。
そのうち、何かしらの原因でコルチゾールが過剰に分泌されて特徴的な症状を示す病気を「クッシング症候群」といいます。
正常であれば、脳下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(Adrenocorticotropic Hormone, ACTH)というホルモンによってコルチゾールの分泌が促進されます。
ヒトにおいて、このACTHが過剰に分泌された結果、コルチゾールが過剰になる状態を「ACTH依存性クッシング症候群」と言うそうです。
一方、副腎が原因でコルチゾールを過剰に分泌する状態を「ACTH非依存性クッシング症候群(副腎性クッシング症候群)」と言うそうです。
犬のクッシング症候群とは?
犬においてもヒトと似た病態が起こることが知られています。
ACTHが過剰に分泌された結果、コルチゾールが過剰になる状態を「下垂体性クッシング症候群(pituitary-dependent hyperadrenocorticism , PDH)」、と呼び、
副腎腫瘍が原因でコルチゾールを過剰に分泌する状態(adrenal tumor , AT)と区別して表現します。
また、投薬でプレドニゾロンなどのステロイド剤を使用していて、その副作用としてクッシング症候群のような症状を示すと「医原性クッシング症候群」と呼ばれます。
関連記事:犬のステロイドの副作用は?いつまで続く?症状や対策
確率として、犬のクッシング症候群の多くはPDHで、そのうち80~90%は下垂体腺腫・腺癌という脳腫瘍が原因であると言われています。
ATにおいては、副腎腺腫又は腺癌が原因であるとされています。
年齢として、PDHは概ね5歳以上で発生し、多くは8歳以上と言われています。
ATも高齢で認められることが多いですが、まれに若齢で副腎過形成が起こりクッシング症候群を発症することもあるそうです。
犬のクッシング症候群の原因とは?
犬のクッシング症候群の原因は、上述の通り腺腫や腺癌が発生することにより起こることが多いとされています。
しかし、なぜ腫瘍が発生するかは未だ分かっていません。
明らかな性差や好発犬種も無く、ヒトと同様に遺伝的な要素はあまりないと考えられています。
犬のクッシング症候群の症状は?
症状として、90~95%以上の症例で多飲・多尿(PU/PD)が認め、80%以上の症例で皮膚症状(左右対称に毛が抜ける、皮膚炎、色素沈着、石灰沈着など)が認められると言われています。
その他、病態の進行具合により以下のような症状が認められます。
- 食欲が増加する
- 太る/お腹が張る(腹部膨満)
- 皮膚が薄くなる/乾燥する
- 耳や皮膚にかゆみがある
- 呼吸が荒い/早い(パンティング)
- 筋力が低下する
また、細菌感染を起こしやすくなるので、細菌性の膀胱炎から血尿を起こすこともあります。
PDHで脳腫瘍が大きくなると、その周囲の神経や脳を圧迫し、沈うつ、認知機能低下、旋回、視力障害(失明など)などの神経症状が見られることもあります。
犬のクッシング症候群の診断に必要な検査方法は?
診断に最初に必要な検査方法は、身体検査、血液検査、超音波検査、ホルモン検査になります。
身体検査では上述の、クッシング症候群に認められるような典型的な症状が無いか確認します。
血液検査では、典型的であればCBCにおいて好中球及び単球の増加、好酸球及びリンパ球の減少という「ストレスパターン」が確認されます。
生化学検査の検査項目では、アルカリフォスファターゼ(ALP)の上昇が90%以上の症例で認められると言われています。
その他、中性脂肪(TG)やコレステロール(T-chol)、肝臓の数値(AST、ALT、GGT)、血糖値(GLU、症例の10~20%程で認められる。)といった数値の上昇が認められることがあります。
同時に、貧血の有無や慢性腎臓病、糖尿病の併発がないかも確認します。
次に、腹部のエコー検査を行います。
実際に副腎の大きさがどのようになっているのかを中心に、お腹の臓器の状態を全体的に確認します。
特に肝臓は、腫大する、辺縁が丸くなるなどの変化を伴います。
副腎の大きさは、小型犬であれば6mm、中・大型犬であれば10mmの厚さを超えてくると、クッシング症候群の可能性が高まるとされています。
また、厚さが2cmを超えてくると、副腎腫瘍の可能性が高まるとされています。
PDHであれば通常、左右両側の副腎が腫大します。
ATであれば通常、片側の副腎が腫大し、もう片側の副腎が萎縮するのが典型的です。
その他、腎臓の形態や膀胱炎の所見が無いかも併せて確認します。

(写真:軽度の副腎の腫大が認められた症例のエコー画像)
最後にホルモン検査として、実際に体内で過剰にホルモンが産生されているかを確認するために、ACTH刺激試験を行い、コルチゾール値の測定を行います。
副腎からのホルモン分泌を促進するACTHを注射で投与し、採血にてコルチゾール値が上昇するか確認します。
診断基準とされる基準値は以下のように設定されていますが、検査会社各社で数値は異なります。
表 検査会社における「犬のACTH刺激試験」の基準値の一例 (単位:㎍/dL)
| コルチゾール濃度 | ||
| 投与前 | 投与後 | |
| 副腎皮質機能低下症が示唆される |
1.0~6.0 |
2.0未満 |
| 医原性クッシング症候群が示唆される | 8.0未満 | |
| 正常 | 8.0~18.0 | |
| クッシング症候群が示唆される | 19.0~24.0 | |
| クッシング症候群が強く示唆される | 24.0以上 | |
注意書きとして「表は一般的な例ですので、臨床症状・生化学検査・エコー検査等と合わせて総合的に判断してください。」と記載されているように、この検査が確定診断という訳ではなく、上述した検査を総合して診断を行います。
その他に実施される検査として、以下のような検査があります。
・尿検査
尿検査においては、潜血や尿蛋白、尿糖の有無、比重やpHなどが検査できます。
クッシング症候群においては、比重が低下しがちです。(1.010以下が多いとされる)
また、膀胱炎が認められる場合は、尿蛋白や潜血が陽性になることもあります。
糖尿病を併発する場合は、尿糖が陽性になる場合があります。
また、上記の検査で判断に悩む場合は、尿中コルチゾール/クレアチニン比(UCC)を測定し、補助的に診断に用いることがあります。
・低用量デキサメタゾン抑制試験(LDDST)
LDDSTの原理は、低用量のグルココルチコイドを投与すると、副腎皮質からのコルチゾールの分泌が抑制されるという生理的な反応を利用しています。
デキサメタゾンを血管内に投与し、投与前、投与4時間後、投与8時間後のコルチゾールを測定します。
正常であればコルチゾールの数値は時間とともに低下するはずですが、クッシング症候群の症例では低下しないことが知られています。
こちらもACTH刺激試験と同様に、診断によく用いられる検査です。
・CT/MRI検査
脳下垂体や副腎に腫瘍があるかどうかを、CTやMRI検査にて確認することがあります。こちらの検査は必須ではなく、より診断を詰めていきたい時に行います。
犬のクッシング症候群の治療は?
犬のクッシング症候群の治療は、PDHとATで異なります。
ATの場合は、基本的には原因となっている副腎腫瘍を手術で摘出します。
しかし、多くは高齢で、かつ腫瘍が進行し摘出できないケースも多く存在します。
その場合は、PDHに準じた治療を行い、症状を緩和させるケースもあります。
PDHで最も一般的に行われる治療は、お薬による内科治療です。
以下のようなお薬を用いて治療を行います。
トリロスタン(商品名:アドレスタン、トリロスタン錠)
副腎からのステロイドホルモン全般の分泌を抑制します。
副作用が多くないことから、広く一般的に用いられています。
ミトタン
副腎皮質を選択的に破壊、萎縮される作用があると言われています。
コントロールが難しい為、あまり一般的には使用されません。
ケトコナゾール
抗真菌薬として用いられる薬剤ですが、トリロスタン同様、ステロイドホルモンの合成を抑制する作用があります。
こちらも基本的にはトリロスタンを使用できる場合はあまり使われることが少ないお薬です。
その他、脳下垂体の腫瘍に対し放射線治療を行い、腫瘍を小さくして治療を行う場合もあります。
こちらはあまり多く実施される治療法ではなく、まだ最適な照射方法が定まっていません。
また、放射線治療を行ったとしても、必ずしもお薬が不要になるとも限らないと言われています。
クッシング症候群の症状として、皮膚炎や膀胱炎を起こした際には、サプリメントを使用し治療を補助することもあります。
皮膚炎であれば、「ビタミンE」、「プロテオグリカン」、「ω3脂肪酸」、「植物発酵糖脂質LPS」、「フランス海岸松樹皮抽出物(ピクノジェノール)」など、膀胱炎であれば「ウラジロガラシエキス末」のようなサプリメントがオススメです。
犬のクッシング症候群の治療費の目安は?
犬のクッシング症候群の治療費は、使用する薬剤や治療方法により大きく異なります。
トリロスタンによる内科治療であれば、月1~2万円程度と思われます。
まとめ
犬のクッシング症候群は、日常の診察でよく遭遇します。
食欲が増し元気になったように思えることから、よく見過ごされていることも多い病気です。
気になる症状がある場合は、放置せず早めに受診しましょう。
最近では、治療しない症例より治療した方が予後は良いという報告も出てきています。
適切な診断と治療を行えば、愛犬とも元気で長く一緒に過ごせると思います。
参考資料
・難病情報センター
・犬と猫の内分泌ハンドブック
関連記事:犬のアジソン病とは?症状や余命は?治療の方法や費用は?
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この記事を書いたのは

浅川雅清
獣医師
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、
ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年から1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。
現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修など幅広い業務を行っている
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