私たち人の間ではメジャーな病気である「糖尿病」
実は獣医療の中でも、罹患率は決して低くない病気の一つです。
では、実際愛犬が糖尿病にかかってしまったら余命は短い?予防法はあるの?など不安なことも多いかと思います。
そこでこの記事では、余命や症状・原因などを詳しく解説していきます。
糖尿病とは?
糖尿病とは、膵臓から分泌されるインスリン(血糖値を下げる働きを持つホルモン)がなんらかの原因で不足することで高血糖状態になり、尿に糖が出てしまう・血中の糖濃度が高くなってしまう病気です。
犬の糖尿病はⅠ型糖尿病とⅡ型糖尿病にわけられ、Ⅰ型糖尿病にかかる率が圧倒的に多いですが、どちらの型も治療法や管理方法に大きな差はありません。
人間の医療界では、インスリン注射が不必要で内服薬の投与だけで血糖をコントロールする罹患者も多いですが、獣医療界では発覚時にインスリン注射が必要になるケースがほとんどだといわれています。
糖尿病の原因
では、糖尿病の原因とはいったい何なのでしょうか。
以下、代表的な4点をご紹介します。
高齢
病気は、年齢を重ねるにつれかかってしまうリスクが高くなってしまいます。
糖尿病もその一つで、犬も7歳以上のシニア期に入ると気を付けたい病気ですね。
糖尿病は血液検査と尿検査で確定診断が可能です。
元気でも病気が隠れている可能性があるため、高齢になるにつれて年に2回程度は健康診断を受けることをおすすめします。
肥満(高脂血症)
肥満は糖尿病の最大の原因ともいわれるほど気を付けたい事項です。
肥満の犬は通常より2倍以上糖尿病のリスクが高いといわれています。
体内に脂肪が蓄積することで、インスリン抵抗性とよばれるインスリンの作用が減弱する現象が起きてしまいます。それに伴い、膵臓はインスリンを過剰に分泌するよう働き、やがて疲弊して膵臓からのインスリンホルモン分泌が低下し、糖尿病になってしまうのです。
また、体型や体重では肥満の数値でない場合でも、食生活の乱れなどにより高脂血症とよばれる血中のコレステロール値(トリグリセリド値)が高値になる状態が続いた際も、同じくインスリン抵抗性が働き、糖尿病のリスクが高まってしまいます。
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
クッシング症候群とは、犬でよくみられる病気の一つで、副腎皮質から分泌されるコルチゾールというホルモンが過剰に分泌される病気です。
このコルチゾールというホルモンは血糖値をあげる働きもあり、適切な治療が施されてない場合は高血糖状態が続き、インスリン抵抗性が起こってしまうというメカニズムです。
クッシング症候群でも多飲多尿が症状として現れます。
さらには腹囲膨満(お腹が膨れる)・脱毛なども初期症状として現れますので、気になることがあれば早めに受診しましょう。
関連記事:犬のクッシング症候群とは?症状や検査は?適切な治療方法は?
未避妊の雌犬
女性ホルモンのひとつである「エストロゲン」がインスリンの作用を弱める働きをしてしまうことがあります。そのため、血糖値を下げる働きが弱まり糖尿病を発症してしまうのです。
避妊手術をしていない雌犬はエストロゲンの分泌が軽減されないため、糖尿病のリスクは避妊済みの犬よりも高くなってしまいます。
糖尿病になりやすい犬種・特徴
糖尿病は全犬種にリスクがありますが、特に気を付けたい犬種として
- ミニチュア・シュナウザー
- トイプードル
- ビーグル
- 日本スピッツ
- ミニチュア・ダックスフント
- パグ
- ビション・フリーゼ
などが挙げられます。
原因や遺伝的要因が発見されているわけではありませんが、肥満になりやすい犬種が糖尿病のリスクも高くなっているように個人的には感じますね。
糖尿病の症状
糖尿病の症状は、日常生活でもわかりやすく出るケースが多いです。
では、代表的な症状を紹介します。
多飲多尿
まず顕著に現れる症状としてお水を飲む量が増える・おしっこの量(回数)が増えることが挙げられます。
これは、高血糖状態が続き血管内の糖濃度が上昇することで、血管外の組織との濃度の差を埋めるため、本来細胞が必要とする水分までも血管内に引っ張ってしまいます。そうなると、血管内の水分量が増え、腎臓がそれを尿として排出しようとするため、多飲多尿の症状がでてしまうのです。
クッシング症候群でも同じく多飲多尿の症状がありますので、確定診断を行うためにも、血液検査を実施すると良いですね。
関連記事:犬が水を飲み過ぎるのはなぜ?ストレス?病気?副作用?
食欲増加・体重減少
ご飯をよく食べるのに痩せてくることが糖尿病の初期症状の特徴です。
糖尿病を患うと、インスリンが十分に機能せず食事中のブドウ糖をエネルギー源としてうまく利用できなくなります。その結果、エネルギー源として筋肉や脂肪を分解してエネルギーを得ようとするため、たくさん食べても痩せてきてしまうのです。
さらに、身体はエネルギーを取り込めずずっと飢餓状態のため、食欲も増加傾向にあります。
食欲低下・元気喪失
初期症状としては食欲増加が認められますが、重症になるにつれ食欲低下や元気喪失などの症状が現れます。糖尿病からくる食欲低下は合併症のひとつである「糖尿病性ケトアシドーシス」の疑いがあり、命に関わる危険な状態です。
エネルギー源として脂肪や筋肉を分解する際にケトンという物質が産生されます。このケトンが体内に溜まることで体が酸性に傾いてしまう状態をケトアシドーシスといいます。
糖尿病の治療法
では、糖尿病になってしまった際の治療方法はどのような流れなのでしょうか?
くわしくご紹介していきます。
インスリン投与
基本の治療法としてはインスリン注射が必要になります。
血糖値を測定し、高血糖であればインスリンを投与します。
人間のインスリン注射はペン型が多く、自身でお腹や足などにつきさし薬剤を流し込むことが一般的ですよね。しかし、動物は人間の10分の1程度の体重しかないため、ペン型のインスリンでは投与量が難しく、一般的ではありません。そのため、飼い主さんが自宅でインスリンの注射を打つ必要があります。近年では、動物用に認可されたインスリンが出ており、犬では1日1回投与で安定させる薬剤がメインで使われています。
輸液療法
ケトアシドーシスを発症してしまっている犬に対しては輸液療法が重要になります。
インスリン管理に加えて、血管内の水分量を補給し細胞に十分に水分が行くように補助目的で行われます。
食事療法
糖尿病の治療には食事管理もかなり重要です。
糖質や炭水化物の多い食事は糖尿病にかかりやすい原因となるため、発症している際ももちろん制限する必要があります。
また、インスリン投与中も低血糖を防ぐために食事量や回数を工夫する必要があります。こまめに食事を摂り、インスリン投与による低血糖を防ぐことも大事です。
脂質の多い食事や人の食べ物なども控え、糖尿病の療法食を食べることをおすすめします。
また、ピクノジェノールなどのサプリメントもサポートに役立ちます。
気を付けたい糖尿病の合併症
糖尿病には気を付けたい合併症が多いのも特徴です。
以下、代表的なものを紹介します。
低血糖
インスリンを投与することで血糖が下がります。そのため、食事を摂らない・嘔吐があるなどの際にもインスリンを投与してしまうと低血糖状態になりふらつきや卒倒の原因となってしまいます。インスリン管理にはちゃんと食事の管理も重要なのです。
白内障
糖尿病の犬のほとんどが白内障になってしまうという報告があります。
原因は明確にはわかっていませんが、高血糖が続くことで眼の水晶体にタンパク質などが蓄積することで白内障になってしまうと考えられています。白内障は人間のように手術で治すことは獣医療界ではあまりメジャーでなく、白内障の進行を抑える目薬を点眼する治療法がメインになります。
腎臓病
糖尿病にかかってしまうと腎臓病も気にしておきたい合併症です。
高血糖状態が続くと血管内にブドウ糖が蓄積され、組織のたんぱく質とブドウ糖が結合した物質が増え、それが血管を流れることにより小さな血管が傷ついたり破れたりしてしまいます。腎臓のろ過装置である糸球体はその小さな血管が多く張り巡らされているため、破れる現象が起きやすいのです。その結果、腎機能が低下してしまいます。
猫は腎臓病の罹患率が圧倒的に多いことはご存知だと思いますが、犬では腎疾患を患うと予後はあまり長くないといわれているため、糖尿病治療中も定期的なモニターは必要ですね。
関連記事:犬の慢性腎臓病の症状や余命は?どんな検査をすればいいの?
感染症
糖尿病を患っている犬は感染症にかかるリスクが高まってしまいます。
高血糖状態により細菌と戦う白血球や免疫に関わる細胞の機能が低下し、侵入した病原体を排除できなくなってしまうのが原因です。
糖尿病性ケトアシドーシス
合併症の中でも特に気を付けたいのが「糖尿病性ケトアシドーシス」です。糖をエネルギーとして使うことができないためエネルギー源として脂肪や筋肉を分解したときに出るケトンが蓄積して体が酸性に傾いてしまう状態です。
ケトアシドーシスは命に関わる危険な状態です。
症状としては嘔吐・下痢・口臭の異常などが気づきやすく、極度の脱水になることも特徴です。治療が遅れて脱水が進むと腎不全や膵炎などほかの臓器にも影響が出始め、重篤化すると昏睡状態に陥ってしまいます。
治療としては輸液療法で脱水の改善や体液(電解質)の補正・即効性のあるインスリン投与で血糖値を下げるなどを行います。
基本的に犬で糖尿病性ケトアシドーシスを発症している際は、入院で血糖値モニターや点滴を行うことが主流です。
糖尿病の治療中であれば、尿試験紙でケトンが出ているかどうかを定期的にチェックしていくことが手遅れにならないための予防法だといえます。
糖尿病の治療にかかる費用の目安
動物病院によって診療価格はかなり異なります。
糖尿病は血糖値のモニター・インスリン注射がメインになります。さらに尿検査や併発疾患の管理など重要になるため、1か月の治療費の相場は2~3万円程度になってきます。
しかし、ケトアシドーシスや併発疾患がある際はその治療と輸液・入院代などがかかってくるため犬の体重や入院期間・重篤度によって大きな差は生まれますが、20~50万円ほどかかるケースも稀ではありません。
糖尿病の犬の余命は?
糖尿病にかかってしまった犬の余命は決して短いというわけではありません。
早期発見で早期治療ができた犬は、血糖値のコントロールがうまくいけば寿命を全うできる可能性もあります。
しかし、腎臓病などの合併症やケトアシドーシスに罹患してしまった際は、そのせいで命を落とすことや寿命が短くなってしまうことがあるため、気になる症状がある場合はすぐに獣医師に相談しましょう。
糖尿病の予防法
では、糖尿病の予防法はあるのでしょうか。
簡単に実施できることもあるので、ぜひ生活の習慣にしてみてはいかがでしょうか。
食事管理
糖尿病のリスクは食生活に大きく関わってきます。
私たち人でも甘いものや炭水化物を多く摂取していると糖尿病のリスクが高くなるといわれていますよね。犬も同じく、糖質の高いものや人間の食事などを食べていると糖尿病のリスクは上がってしまいます。
ドッグフードは総合栄養食を選べば、そのフードと水だけで健康を維持できるようにきちんと作られています。トッピングしないと食べない犬や好き嫌いの多い犬なども多く、悩まれる飼い主さんも多いかと思いますが、その際はめげすに食べてくれるドッグフードを見つけるようにし、トッピングなどは控えるようにしたいですね。
体重管理
適切な体重を維持することが最も効果的な予防法といっても過言ではありません。
肥満は糖尿病にかかるリスクがかなり上がってしまうため、肥満指数が高い犬はダイエットが必要かもしれません。糖尿病だけでなく肥満はさまざまな病気の原因にもなり得ます。
また、体重は適正でも血中の脂質が多く高脂血症になっている場合もリスクが上がるため、中性脂肪値にも気を付けたいですね。
さらに、体重を定期的に測ることも大切です。
糖尿病は食べても痩せてくるという特徴があります。1週間に2回ほどは体重を測定し記録することも、早く気付くためには指標になります。
元気で食べているのに痩せていることがわかれば、すぐに受診し検査を受けましょう。
また、その時に飲水量も計測しているとなお良いですね。
避妊手術を実施する
未避妊の雌犬に罹患率が高いというデータがあると紹介しました。
女性ホルモンが原因で糖尿病にかかるリスクを減らすためには、避妊手術の実施が一番の予防方法だといえるでしょう。
また、糖尿病予防だけでなく「子宮蓄膿症」「乳腺腫瘍」などの病気の予防にも繋がりますので、若齢での避妊手術をおすすめします。
関連記事:犬の避妊手術の適切な時期は?知っておきたいメリットとデメリット
まとめ
糖尿病は治療法が安易ではなく、また付き合っていく病気になるため犬も飼い主さんも覚悟が必要です。
しかし、早期発見早期治療ができれば余命は短くなるというわけでは決してないため、諦めずに適切な治療と管理を行いましょう。
また、定期的に体重を測る・飲水量を計る・食事を見直すなど、日ごろから糖尿病の予防としてできることはあるため、実施しましょう。

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この記事を書いたのは
中村千尋
愛玩動物看護師
大阪ペピイ動物看護専門学校卒業
認定動物看護師資格取得・ペット栄養管理士資格取得
兵庫県内の動物病院で勤務(現在も勤続中)
愛玩動物看護師国家資格取得
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