犬の慢性腎臓病とは?
腎臓とは、血液をろ過して、尿を作るとともに血液中の老廃物を体外へ排出する臓器です。
左右一対存在し、一度ダメージを受けると再生しにくい臓器と言われています。
その腎臓に病気が発生すると「腎臓病」と呼び、高齢のわんちゃんを中心によく遭遇する疾患です。
犬の慢性腎臓病とは、現在のところ以下の条件を満たすものを指すとされています。
- 少なくとも3か月間存在する腎臓へのダメージ
- 少なくとも3か月間存在する糸球体ろ過量(GFR)の低下
すなわち、腎臓への負担や、腎臓の機能の低下が3か月以上持続している状態を「慢性腎臓病」と言うようです。
対して、短期間の腎臓へのダメージを「急性腎障害」と呼び、区別されています。
現在、動物の慢性腎臓病においては、IRIS(International Renal Interest Society)からステージ分類と、ステージごとの治療がガイドラインとして提唱され、そちらに沿った治療をしていくことが多いです。
表1 IRISのステージ分類
| ステージ1 | ステージ2 | ステージ3 | ステージ4 | |
| Cre(mg/dL) 犬 | <1.4 | 1.4~2.8 | 2.9~5.0 | >5.0 |
| 猫 | <1.6 | 1.6~28 | 2.9~5.0 | >5.0 |
| SDMA(μg/dL) 犬 | <1.8 | 18~35 | 35~54 | >54 |
| 猫 | <1.8 | 18~25 | 26~38 | >38 |
| UPC比 犬 | 非蛋白尿<0.2 境界的な蛋白尿0.2~0.5 蛋白尿>0.5 | |||
| 猫 | 非蛋白尿<0.2 境界的な蛋白尿0.2~0.4 蛋白尿>0.4 | |||
| 収縮期血圧(mmHg) | 正常血圧<140 前高血圧140~159 高血圧160~179 重度の高血圧≧180 | |||
慢性腎臓病の原因は多岐にわたります。
- 尿路の感染症や腎盂腎炎
- 腎毒性物質(ニューキノロン系抗生剤、NSAIDs、エチレングリコール、ユリなど)
- 急性腎障害の完解後
- 全身性高血圧
- 尿石症
- 蛋白尿
- 腫瘍(腎芽腫、リンパ腫など)
- 免疫介在性
- 加齢
- 先天性腎疾患(奇形)
などが挙げられます。
犬の慢性腎臓病の症状

症状として典型的なものは、多飲多尿、嘔吐、食欲不振、体重減少などが挙げられます。
腎機能が低下すると、尿が濃縮することが出来なくなるため薄い尿を多量にし、その分喉が渇き飲水量が増加し、多飲多尿となります。
ステージが進行し、末期に近づいていくほどより症状が悪化します。
腎機能の低下により、蛋白質の代謝産物である尿素窒素(BUN)などが体内に蓄積すると、いわゆる「尿毒症」が起こります。
嘔吐や下痢、食欲不振、体重減少などの症状や、痙攣などの神経症状が見られることがあります。
さらに、腎臓から産生されている赤血球を作るホルモンである「エリスロポエチン」の分泌が低下し、貧血が見られるようになります。
その他、腎盂腎炎や尿石症などに伴い、血尿が認められることもあります。
犬の慢性腎臓病の検査
慢性腎臓病の検査は、その原因の追究も含め全身的な検査が必要になります。
まず、腎機能の確認の為、血液検査は必ず行います。
BUNやクレアチニン(Cre)、リン(IP)、カルシウム(Ca)、電解質(Na-K-Cl)は必ず測定する必要があります。
しかし、これらは腎機能がある程度低下してきて初めて基準値より高値を示します。
早期発見には、定期的な検査を行い、これらの数値が基準値内での上昇がないかの確認は必要です。
また、シスタチンCやSDMAなどの腎臓マーカーを測定すると、上記の数値よりも先に腎臓の異常が発見できることがあります。
腎機能を確認する他の方法として、尿比重も重要です。
尿比重を確認するには尿検査を行う必要があります。尿での感染や結石の存在の手がかりをつかむのにも重要な検査です。
ただし、腎臓に異常があっても、必ずしも血液検査の数値が上昇しないケースもありますので、血液検査の他に腹部の超音波検査を行うとよいでしょう。
例えば腎臓の腫瘍や結石などは、超音波検査やレントゲン検査でないと発見できないことも多々あります。
血液検査で異常がないから大丈夫、腎臓の数値が高いだけですぐに点滴の治療を開始する、という流れではなく、根本の原因を見定めてから治療を行った方が的確な治療を行うことが出来るでしょう。
その他、感染症が疑われる場合は、必要に応じ尿の培養および薬剤感受性検査を行います。
また、ステージ分類に必要な、尿中蛋白クレアチニン比 (UPC)や血圧測定も行うとよいでしょう。
場合により、腎生検といって、腎臓の一部を麻酔下で採取することにより、免疫介在性の疾患なのか、腫瘍があるのか、などを判断する検査を行う場合もあります。
それらがあるかないかで、その後の治療内容も大きく変わってきます。
犬の慢性腎臓病の治療と予後
IRISのステージ分類ごとに推奨される治療は以下になります。
ステージ1
- 腎毒性のある薬剤(ニューキノロン系抗生剤、NSAIDsなど)の中止または慎重な投与
- 腎前性(脱水など)、腎後性(結石など)の異常に対処・治療する
- 新鮮な水を常に飲めるようにする
- CreやSDMAの定期的なモニター
- 原因と併発疾患の特定と治療
- 高血圧がある場合はその治療
- 蛋白尿がある場合はその治療
- リンを<6mg/dLに維持
- 必要に応じ、腎臓療法食やリン吸着剤の使用
ここで重要なのは、前述の通り併発疾患や高血圧、蛋白尿などの、腎臓の数値以外の状態を把握することです。
高血圧がある場合は、ACEIやARB、カルシウムイオンチャネル拮抗剤などを用いて血圧を正常に近づける必要があります。
蛋白尿がある場合は、ACEIやステロイド剤などで、尿への蛋白の漏出を抑える必要があります。
また、尿石症がある場合は、フードやサプリメントなどでフォローアップします。
サプリメントだと尿石症には「ウラジロガシエキス末」などが、腎臓の血行改善には「フランス海岸松樹皮抽出物質(ピクノジェノール)」などがオススメです。
ステージ2
- ステージ1の治療の継続
- 腎臓病用の療法食
ステージ2に関しては、ステージ1と大きく変わりありませんが、食事に注意する必要があります。
腎臓病用の療法食は、概ねタンパク質が制限されており、リンなどのミネラルが調節されています。
フード他、おやつやトッピングについても、腎臓に配慮したものを使用する必要があります。
ただし、その分嗜好性が損なわれることが多いので、ドライフードを食べてくれない場合は、腎臓病用のウエットフードを添加してあげると食いつきが良くなります。
このステージになると、余命は平均1年から1.5年程度と言われています。
ステージ3
- ステージ2の治療の継続
- リンを<0mg/dlに維持
- 代謝性アシドーシスの治療
- 貧血の治療を検討
- 嘔吐、食欲不振、悪心への治療
- 経腸または皮下補液による水和状態の維持
- カルシトリオールによる治療を検討
このステージになると、薬による治療を検討する必要が出てきます。
特に、脱水を予防するために、週に2回の皮下点滴をすることが多いと思われます。
現在の獣医療においては、人間の人工透析のような治療を行うのがなかなか難しい為、点滴による水和が治療の中心となることが多いのが現状です。
また、腎臓の数値が高くなると、気持ち悪さから嘔吐が見られたり、食欲が無くなったりします。飲み薬で気持ち悪さを取ってあげることが重要です。
また、貧血が進行すると、腎臓に酸素が届かずさらに腎臓病が進行する可能性があります。定期的に貧血の数値を確認し、エリスロポエチンの注射を検討する必要があります。
リンが高値になる場合は、リン吸着剤のようなサプリメントを使用するのも良いでしょう。
ステージ3の余命は、約1年とされています。
ステージ4
- ステージ3の治療の継続
- リンを<0mg/dLに維持
- 栄養と水和のサポート、投薬の為の栄養チューブ設置の検討
ステージ4は、いわゆる末期の状態で、腎機能がほとんど損なわれている状態です。
点滴を皮下から静脈内へ変更したり、強制給餌を行ったりなど、ステージ3の治療を強化する必要があります。
ステージ4の余命は、約数ヶ月と言われております。
犬の慢性腎臓病の治療にかかる料金の目安
慢性腎臓病の治療費は、行う治療や各病院により大きく異なります。
ステージ2~3で、週2回の皮下点滴とフードのみで治療を行った場合、小型犬において皮下点滴で月2~3万、フードで5千円~1万円程と思われます。
長期に点滴が必要な症例ですと、点滴剤を処方し、自宅で飼い主様が皮下点滴を行うケースもあり、その場合は月5千円~1万円程で済むこともあります。
静脈内点滴となり、入院した場合は、一日で5千円~1万円程となり、そこに血液検査などの各種検査や貧血の注射、吐き気止めの注射などが加わると、一日で2~3万円程となると思われます。
まとめ
犬の慢性腎臓病はよく遭遇する疾患で、三大死因のひとつと言われています。
症状が他の病気と似ている為見過ごされていることがあり、また病気が判明する頃にはすでに進行していることが多く、そして機能を回復する治療が無い疾患です。
そのため、日頃から定期的な健診と、サプリメントなどによる尿の健康維持が非常に重要となる、そんな病気です。
是非、日頃の健康チェックと定期健診を行っていきましょう。
参考資料
・IDEXX SDMAの検査結果の解釈
・IDEXX IRIS CKD ガイドライン
・慢性腎臓病(CKD)の臨床的重要性と考え方 桑原康人 先生
関連記事:高齢の猫は腎不全(腎臓病)に注意!ステージごとの症状・治療法・食事について
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この記事を書いたのは

浅川雅清
獣医師
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、
ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年から1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。
現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修など幅広い業務を行っている
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