2025年版 獣医師が解説 猫の肥大型心筋症とは?ACVIMのガイドラインを中心に解説

この記事の監修者
みつはし

愛玩動物看護師
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心筋症とは?

心臓は血液を全身に送り出すポンプの役割を果たしている臓器です。

心臓そのものは筋肉からできており、その筋肉を「心筋」と呼びます。

心筋症とは、その心筋に何かしらの異常が起こり、心機能が低下する疾患を総称した病名です。

ヒトにおいては、心筋症の原因遺伝子の研究が進んでおり、細かく分類されています。

 

猫の肥大型心筋症とは?

猫の心筋症は現在、以下の5つに分類されています。

肥大型心筋症

主に左心室の心筋症が肥大するタイプの心筋症。

拡張末期の左心室壁厚が6㎜を超えるもの。

拡張型心筋症

心筋が菲薄化し、心室の収縮機能低下と内腔の拡張を特徴とするタイプの心筋症。

タウリン欠乏性と特発性に分けられる。

拘束型心筋症

正常もしくはそれに近い左室の壁の厚さで、正常あるいは軽度に減少した収縮能で、かつ重度の心房の拡大があるタイプの心筋症。

過剰な仮性腱索と膜状構造物などの構造物が認められることがある。

不整脈源生右室心筋症

発生頻度が少ない心筋症で、不整脈と右心拡大を主な特徴とするタイプの心筋症。

分類不能心筋症

上記4つの分類に当てはまらないタイプの心筋症

 

なかでも特に肥大型心筋症は発生が多く、近年アメリカ獣医内科学会(ACVIM)にて診断や治療に関するコンセンサスステートメントが発表されました。

今回はそのガイドラインに基づき、猫の肥大型心筋症を解説します。

 

猫の肥大型心筋症の原因は?

猫の拡張型心筋症に関しては、昔まだ栄養学が十分に研究されていなかったころ、フード中のタウリンの量が少なかったことが原因で発症していたことが知られています。

以降、フードにはタウリンが添加され、拡張型心筋症の発生頻度は減少しました。

一方、肥大型心筋症においてはまだ原因が特定されていません。

原因が分からない以上は「予防する」ということが難しく、「早期発見する」方が大事と言われています。

現在のところ予測される原因の一つに「遺伝」があります。

肥大型心筋症が起こりやすい猫種として、メイン・クーン、ペルシャ、ラグドールなどの大型の猫種やアメリカン・ショートヘアーなどが知られていることから、猫種による遺伝が原因と推測されています。

肥大型心筋症は二次的に起こることもあり、高血圧や甲状腺機能亢進症、先端肥大症などが挙げられます。

肥大型心筋症の診断・治療を行う上では、それらの病気も事前に調べておく必要があります。

関連記事:猫の甲状腺機能亢進症は治らない?余命は?特徴的な症状と治療法

 

猫の肥大型心筋症の症状は?

猫の肥大型心筋症の症状は、初期では無症状のことが多くあります。

そうかと思えば、急に症状を示して、突然死や急死するようなケースもある、非常に怖い病気です。

よくある初期症状としては、少しの運動で開口呼吸をすることです。

猫は普段、犬と異なり余程のことがない限り口を開けて呼吸することはありません。

心筋症に罹患し血液の流れが悪くなると、少しの運動でも苦しくなり、開口呼吸をします。

関連記事:猫の呼吸が速い原因は?ストレス?元気でも動物病院に行くべき?

初期症状に気づかず病状が進行すると、うっ血性心不全として肺水腫や胸水を起こしたり、心臓の中で作られた血栓が血管を閉塞する血栓症を発症したりすることがあります。

特にその血栓は、大動脈を通って後肢の血管を閉塞させるパターンが多く、突然後ろ足をかばって歩いたり、強い痛みを伴うのでうずくまったり鳴いたり、ご飯を食べなかったりなどの症状が認められることもあります。

 

猫の肥大型心筋症の診断に必要な検査は?

猫の肥大型心筋症の診断には、様々な検査が必要になります。

まず、身体検査において、心臓の聴診を行います。

心筋症から血液の流れに乱流が生じていると、「心雑音」が聴取されます。

しかし、肥大型心筋症の約30%の猫は心雑音が聴取されないようなので、心雑音が無いから肥大型心筋症の心配は無い、とは言い切れません。

次に、肥大型心機能が存在するかどうか、レントゲン検査や超音波(エコー)検査を行います。

レントゲン検査では、心臓の形や大きさ、肺水腫や胸水の有無を確認します。

典型例では、心臓は大きく拡大し、特徴的な「バレンタインハート」という形を示します。

しかし、そのような所見が無くても肥大型心筋症であるケースもあるので、エコー検査も必要です。

エコー検査はレントゲン検査と異なり、心臓の内部の構造を確認する検査です。

心筋の厚さや内腔の拡張の程度、血液の速度や乱流の有無を確認します。

現在では、左心室壁の厚さが6㎜を超えることが肥大型心筋症の診断基準とされています。

同時に、拘束型心筋症などの他の心筋症の疑いが無いかどうかも確認します。

ただし、左心室壁が厚いだけで肥大型心筋症とは判断しません。

上述の通り、その他の病気でも左心室壁が厚くなり、二次的に肥大型心筋症が起こることがあります。

それらの病気を見つけるためにも、一般的な血液検査や血圧検査、腹部のエコー検査も行います。

これらの検査で他の疾患が無ければ、肥大型心筋症と診断されます。

しかし、猫よっては性格上、上記のすべての検査が正しく行えない場合も多いです。

その場合は、スクリーニング検査として、血液検査で心臓のバイオマーカー「NT-pro BNP」などを測定し、早期発見に繋げることもあります。

 

猫の肥大型心筋症の治療とは?

猫の肥大型心筋症の治療は、ACVIMのガイドラインで設定されているステージ分類に沿って行います。

現在は以下の4つのステージに分類されます。

ステージA 心筋症は発症していないが、その素因を持つ(好発猫種など)
ステージB1 心筋症の兆候が認められるものの、症状が無く、心不全または血栓症を発症するリスクが低い。(正常左心房~軽度の左心房拡大)
ステージB2 心筋症の兆候が認められ症状が無いものの、心不全または血栓症を発症するリスクが高い。(中等度~重度の左心房拡大)
ステージC 現在または過去に心不全もしくは血栓症の既往歴がある
ステージD 難治性心不全

ガイドライン上は、「ステージB2」から治療が必要とされています。

ただし、治療と言っても根本的な肥大型心筋症そのものを治療することは難しいとされています。

心筋症に伴った症状や異常に対して治療を行っていきます。

ガイドライン上はステージB2においては、血栓に対する治療を行うことが推奨されています。

どのお薬を使うかは獣医師により差があるものの、クロピドグレル、リバーロキサバンなどが使用されます。

その他、洞性頻脈や僧帽弁収縮期前方運動(SAM)が認められる場合は、β受容体遮断薬としてアテノロールやカルベジロールが使用されることがあります。

ステージCになると、胸水の貯留や肺水腫などのうっ血性心不全の症状が認められます。

その場合は、胸水であれば注射器で胸水の抜去を行います。

肺水腫であれば、酸素室を使用し、利尿剤を投与し肺に貯留した水分を抜き治療を行います。

その他、血管拡張薬や強心剤などのお薬を併せて使用する場合もあります。

血栓症を発症した場合は、上述の通り抗血栓薬を投与します。

血栓症を発症し、あまり時間が経過していない場合は、抗血栓薬に加え外科的に血栓を摘出する、もしくは注射薬で血栓を溶かす治療を行うケースもあるようです。

ステージDにおいては、ステージCの治療を強化する形になります。

利尿剤を増量したり種類を変更したりすることで治療を行います。

 

その他、心筋症に用いられるサプリメント成分としては、

  • フランス海岸松抽出物(ピクノジェノール)
  • 赤ミミズ(ルンブルクスルベルス)乾燥粉末
  • EF(エイセニア フェティータ)末
  • コエンザイムQ10
  • タウリン

などがよく用いられます。

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猫の肥大型心筋症の予後は?

猫の肥大型心筋症の予後(余命)は、心筋症の進行の程度により大きく異なります。

症状が無い場合においては年単位での長期的な予後が期待できます。

しかし、うっ血性心不全を呈してしまうと、ある報告では中央生存期間は約1年半と報告されています。

血栓症を併発した場合の予後はさらに悪く、救急で受診し、生存もしくは退院できた割合は30~40%程度と報告されています。

さらに、退院後の中央生存期間は61日、184日、117日と報告されており、治療が難しい状況であることが知られています。

 

猫の肥大型心筋症の治療費の目安は?

猫の肥大型心筋症の治療費の目安は、心筋症の進行の程度や各病院により値段が大きく異なります。

診断を行うにあたり、レントゲン検査やエコー検査、血液検査、ホルモン検査を行った場合は、3.5~4万円程度かかると思われます。

ステージB2と診断され、抗血栓薬の投与が必要であった場合は、月に6000~7000円程度と思われます。

洞性頻脈や左心房の拡大が認められ、β受容体遮断薬や血管拡張薬を併用した場合は、月2万円前後と思われます。

肺水腫や胸水の貯留、血栓症を発症し、入院での治療が必要となった場合は、治療費のみで5~10万円程度すると思われ、血栓症で手術を行った場合はさらに高額な治療費となるでしょう。

 

まとめ

猫の肥大型心筋症は、なかなか早期に気づくことが難しい疾患です。

最悪、突然死に繋がる病気でもありますので、特に好発猫種においては定期的な健康診断がとても重要です。

また、体調に少しでも気になることがあれば、早めに受診することを心掛けましょう。

参考資料
・Veterinary Circulation No.28
・ACVIM consensus statement guidelines for the classification, diagnosis, and management of cardiomyopathies in cat

関連記事:僧帽弁閉鎖不全症の犬が気をつけることは?余命は?

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この記事を書いたのは


浅川雅清
獣医師
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、
ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年から1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。
現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修など幅広い業務を行っている
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