医療の発達と共に猫の寿命も大きく伸びました。
その一方で、健康に関するさまざまな問題が起きています。
そのひとつに、猫の「認知症(痴呆症)」があります。
認知症を発症すると、それまでできていた行動ができなくなる、夜鳴きやトイレの失敗、徘徊などさまざまな問題行動が見られるようになります。
かわいい愛猫とはいえ、飼い主さんにとっては頭の痛い問題です。
そこで、今回は猫の認知症の症状や対処法について詳しく紹介します。
猫の認知症とは
猫の認知症とは認知機能が低下して、日常生活に支障がでるようになった状態です。
おもな原因としては、老化、脳の病気や障害、ストレスがあげられます。
明確な発症年齢はわかっていませんが、早い猫では10歳頃から認知機能の低下が見られるようになると言われています。
ある研究によると、11〜14歳の猫の28%、15歳以上では半数以上の猫で認知機能の低下が見られることがわかりました。
認知機能が低下しているからと言って、必ずしも認知症とはかぎりませんが、認知症の兆候であるのは間違いないでしょう。
猫の認知症については、人間のように研究が進んでおらず、まだまだわからないことが多いと言われています。
そのため、明確な予防法や治療法も定まっていません。
その一方で、最近になって猫も人間のアルツハイマー型認知症と同様に脳細神経細胞が変性、減少しているなど、少しずつ解き明かされてきたこともあります。
今後の報告が期待されます。
猫の認知症に見られる6つの症状
猫の認知症のチェックツールとして「DISHAA(ディーシャ)」があります。
これは、犬の認知症であらわれる6つの症状をまとめたもので、猫の認知症にもあてはまると考えられています。
1.見当識障害
よく知っているはずの場所や人などを認識できなくなったり、自分がおかれている状況を判断できなくなったりする状態です。
【具体例】
- 家の中で迷子になる
- 目の前にいる飼い主さんを探す
- 扉の開く側がわからなくなる(反対側から出ていこうとする)
- 飼い主さんや同居の猫のことがわからなくなる
- 部屋の隅で動けなくなる
2.社会的交流の変化
人や動物などとのかかわり方に変化が見られるなど、コミュニケーション能力に問題が見られるようになります。
【具体例】
- 怒りっぽくなる
- 苦手だった人に甘える
- 大好きな飼い主さんを無視するようになる
- 人やほかの猫との遊びに興味がなくなる
3.睡眠サイクルの変化
昼と夜が逆転して、活動時間に変化が見られるようになります。
【具体例】
- 昼によく寝るようになる
- 夜に活動的になる
- 深夜に徘徊するようになる
- 夜鳴きをするようになる
4.トイレの失敗・学習と記憶力の変化
トイレの場所がわからなくなる、覚えていた指示や言葉がわからなくなるといったことが起こります。
【具体例】
- トイレ以外の場所で排泄をする
- 「おいで」などの指示に従えなくなる
- 覚えた言葉を忘れる
- 今までできていた行動ができなくなる
5.活動性の変化
周囲に対して興味がなくなる、目的を持った行動ができなくなる、食欲の増減など日常の行動に変化が見られるようになります。
【具体例】
- 目的もなく歩き回る(徘徊)
- 何もない場所をジーッと見つめる
- 目的もなく鳴きつづける
- 周りのできごとに対して興味関心がなくなる
- 異常な食欲または食欲不振
- 過剰なグルーミング
6.不安
視覚や聴覚の衰え、認識能力の低下によって不安を感じやすくなり、落ち着かない状態になります。
【具体例】
- 飼い主さんが見えないと不安で鳴きつづける
- 不安から攻撃的になる
愛猫の認知症が疑われたら
猫の認知症が疑われる症状には、ほかの病気でも見られるものもたくさんあります。
そのため「認知症かも」と思っても安易に自己判断するのは危険です。
たとえば、夜鳴きには甲状腺機能亢進症、異常な食欲は甲状腺機能亢進症や糖尿病などの可能性があります。
また、トイレの失敗には尿路結石症や膀胱炎といった泌尿器系の病気が隠れていることも考えられるでしょう。
関連記事:猫の老化とは?見逃せない7つのサインと老猫のお世話について
なお、認知症の診断には確立された検査方法がありません。
そのため、症状から考えられる病気の検査をおこない、ほかの病気の可能性がすべて除外されたときに、はじめて「認知症の可能性がある」という診断が下されます。
認知症が疑われる症状には、重篤な病気が隠れている場合もあります。
気になる様子が見られたら、早めに動物病院を受診しましょう。
猫の認知症の治療法
1度失われた脳の組織を治すことはできません。
そのため、猫の認知症には特効薬もなければ確立された治療法もないのが現状です。
つまり、認知症を完全に治すことは残念ながら不可能なのです。
ただし、症状の進行をゆるやかにすることは可能です。
抗酸化作用のある成分を摂取する、認知症の症状に応じた薬を使うといった方法があります。
抗酸化作用のある成分を摂取することで脳機能の維持が期待されています。
抗酸化作用のあるおもな成分は以下です。
- ω3不飽和脂肪酸(EPA、DHAなど)
- ω6不飽和脂肪酸(DLA、LAなど)
- ポリフェノール
- プラセンタ
- ビタミンC
- ビタミンE
最近では、抗酸化成分が配合されたサプリメントやキャットフードもありますので、獣医師に相談してみるとよいでしょう。
また、薬物療法として不安症状を和らげる目的で、抗うつ剤や抗不安剤、セロトニン再取り込み阻害薬などが処方される場合もあります。
いずれにしても治癒は望めませんが、症状の進行をゆるやかにして生活の質を上げることは可能です。
猫の認知症の予防と対処法
猫の認知症には、明確な予防法はありません。
しかし、少しの工夫で認知機能の低下をゆるやかにしたり、安心して暮らしたりできるようになります。
以下を参考にできることから取り組んでいきましょう。
適度な刺激で脳を活性化
適度な刺激は脳を活性化して、脳機能の低下を予防する効果があると言われています。
おもちゃに興味をもってくれるなら、無理のない範囲で遊びや運動に誘ってみましょう。
遊びや運動が難しい猫には、以下の方法がおすすめです。
- 嗅いだことのないニオイを嗅がせる
- パズルフィーダーで食事をさせる
猫にとっては、いつもと違うニオイを嗅ぐのもよい刺激になります。
外から持ってきた葉っぱや枝、届いた荷物、買ったばかりの物などのニオイを嗅がせてあげてください。
また、パズルフィーダー(知育玩具)を使ってゲーム感覚で食べ物を与えるのもおすすめです。
製氷皿や卵のパックを使うなど家にあるもので代用する方法もありますので調べてみるとよいでしょう。
運動と日光浴でセロトニンを増やす
セロトニンは「しあわせホルモン」と呼ばれることもある脳内の神経伝達物質のひとつです。
気持ちを落ち着かせて、不安を和らげるなど精神を安定させる働きを持っています。
セロトニンが不足すると、不安を感じやすくなったり、落ち着きがなくなったり、攻撃的になったりします。
不安な気持ちを少しでも和らげるためには、セロトニンの分泌促進をはかるのが効果的です。
セロトニンは、体を動かしたり、日光を浴びたりすると分泌が促されます。
愛猫を遊びに誘う、ベッドを日なたに置いて日光浴をさせるなどの工夫をしましょう。
ストレスフリーな生活
ストレスは、脳内の血流の悪化や神経細胞にダメージを与える酸化物質を蓄積させる原因になります。
これらは、認知機能の低下を招く要因であると考えられています。
そのため、認知症の予防と症状の進行を防ぐためには、ストレスフリーな環境を整えることが重要だと言えるでしょう。
ストレスフリーな環境と言っても特別な対策をする必要はありません。
- 爪とぎを用意する
- 高い場所にも登れるようにする
- トイレを常にきれいにしておく
猫が猫らしい振るまいをできるようにする、きれい好きな猫のために清潔な環境にしておくなど適切な飼育を心がけるだけでも猫が受けるストレスを減らすことができます。
また、認知症の猫は不安を感じやすくなっています。
トイレを失敗したり、してほしくない行動をしたりしても叱らずに優しく接してあげることも大切です。
ケージの活用と室内環境を整える
認知症の猫は、部屋の中を徘徊して、思いもよらない事故を起こしてしまう可能性があります。
猫が安心して暮らせるように、外出時や就寝時など様子を見ていられないときは、ケージに入れるなどの安全対策を検討しましょう。
また、入ってほしくない場所に柵をつける、危険なものを隠しておくなど、室内の安全対策も徹底します。
とくに、浴室やキッチンは溺れる、火傷をするなどの危険がある場所です。しっかりと対策をしておきましょう。
夜鳴きの対策
猫の認知症で飼い主さんを悩ませる症状のひとつに「夜鳴き」があります。
認知症による夜鳴きの場合、飼い主さんが対策をしても泣き止まないのが一般的です。
認知症の夜鳴きでは、不安を軽減するため抗不安剤やセロトニン再取り込み阻害薬が処方されることもあります。
そのほかには、抗酸化作用のある成分が配合されたサプリメントや、キャットフードをあたえるなどの対策もあります。
夜泣きで眠れないのは、飼い主さんにとっても猫にとっても辛いものです。
認知症が疑われるときは、早めに獣医師に相談しましょう。
動物の行動診療を専門とする動物病医院で相談するのもおすすめです。
トイレ失敗(粗相)の対策
夜鳴きと並んで悩ましいのはトイレの失敗ではないでしょうか。
認知症の場合は、トイレの場所がわからなくなっている可能性があります。
トイレの数を増やす、いつもいる場所の近くに置くなどの対策をおこないましょう。
また、関節が痛くてトイレをまたげない、トイレで踏ん張れないなど高齢ならではの原因にも配慮した対策が求められます。入り口の低いトイレにする、猫砂の量を調整するなど使いやすくなるよう工夫をしてあげてください。
トイレの失敗には高齢の猫に多い慢性腎不全(慢性腎臓病)や尿路結石症、膀胱炎などの病気が隠れている可能性もあります。
トイレの様子をよく観察し、必要に応じて動物病院を受診しましょう。
関連記事:猫の特発性膀胱炎とは?よくある症状と治療法・予防法について解説
まとめ
猫の認知症は、決して他人事ではありません。
15歳以上では半分以上の猫に認知機能の低下が見られたという研究報告があるほどです。
現在、猫の認知症には特効薬もなければ確立された治療法もありません。
唯一できるのは、認知機能の低下をゆっくりにさせることのみとなります。
そのため、認知症は早期発見が重要な病気のひとつと考えられています。
一方で、猫の認知症は非常にわかりにくく、発見が遅れがちです。
判断の目安としては「半年前にはできていたことで、最近できなくなった行動があるかどうか」です。
思い当たることがあれば、早めに獣医師に相談するようにしましょう。
関連記事:犬の認知症はどんな病気?夜泣きや深夜徘徊の原因は認知症?
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この記事を書いたのは
ネコヤ カエ
愛玩動物救命士|猫疾病予防管理士|猫健康管理士|犬猫行動アナリスト|
ペット災害危機管理士3級|猫のシニア生活健康アドバイザー|ペットフード/ペットマナー検定
2019年よりフリーライターとしての活動を開始。
ペット専門のライターとしてWebメディアや動物病院HPなどでコラムを多数執筆。
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