高血圧とは?
高血圧とは、複数回血圧の測定をして、基準値より高値の状態を指します。
厚生労働省によると、ヒトにおいて日本高血圧学会の高血圧の診断基準は、診察室での収縮期血圧(最大血圧)が140mmHg以上、または拡張期血圧(最小血圧)が90mmHg以上の場合を高血圧と診断するそうです。
ヒトにおいての原因は、多くは塩分の摂りすぎであると記載されています。
その他、甲状腺や副腎などの病気が原因となるケースもあるようです。
犬においても、高血圧は存在しますが、診断基準や原因が少し異なります。
犬の高血圧とは?
犬の「高血圧」と言う場合、主に「全身性の高血圧」を指します。
その他、肺高血圧症のように、肺血管を中心とした高血圧も存在します。
それら高血圧に関しては、ACVIM(アメリカ獣医内科学学会)からガイドラインが提唱されています。
全身性の高血圧(以下、高血圧)は、以下の三つに分類されます。
状況高血圧
ヒトの「白衣高血圧」に似たものです。
興奮や不安が自律神経系に変化を及ぼし、心拍数や血圧が上昇した結果、高血圧となってしまうもので、正常な犬でも起こります。
二次性高血圧
80%以上がここに該当すると言われています。
高血圧の原因として他の病気があるケースです。
特発性高血圧
高血圧となるような病気が無く、原因が特定できない高血圧を指します。
犬に関しては、基本的に収縮期血圧で高血圧かどうかを判断しており、以下のように参考値が設定されています。
・正常血圧(標的臓器障害のリスクは極めて低い)
収縮期血圧<140mmHg
・前高血圧(標的臓器障害のリスクは低い)
収縮期血圧140~159mmHg
・高血圧(標的臓器障害のリスクは中等度)
収縮期血圧160~179mmHg
・重度の高血圧(標的臓器障害のリスクは極めて低い)
収縮期血圧≧180mmHg
治療の対象となるのは、「重度の高血圧」、「高血圧でかつ標的臓器障害がある、または二次性高血圧である」に該当する場合です。
しかし、血圧は測定の方法やタイミングにより上下しますので、一回の測定ですぐに治療を行うことは少なく、2週間程度間をあけて再測定となることも多いです。
対して肺高血圧症というのは、肺に向かう血管である「肺動脈」の血圧が高くなる状態を指します。
定義としては、肺動脈平均圧が一定以上の高値となった場合に診断されますが、犬においては肺動脈圧を直接測定することが難しく、心臓の超音波検査における三尖弁逆流の速度やその他の所見を総合的に判断し、診断します。
犬における平均的な肺動脈の血圧は、8~20mmHgと言われており、20~25mmHgを超えてくる場合は肺高血圧症の可能性があります。
犬の全身性高血圧の原因は?
犬の全身性高血圧の原因として、慢性腎臓病(慢性腎不全)、急性腎障害(急性腎不全)、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、糖尿病、肥満、原発性アルドステロン症、褐色細胞腫、薬剤(ステロイド、トセラニブ、エリスロポエチンなど)などが挙げられます。
関連記事:犬の慢性腎臓病の症状や余命は?どんな検査をすればいいの?
犬の糖尿病は余命が短い?原因や症状を徹底解説
犬の全身性高血圧の症状は?
犬の全身性高血圧の症状は、初期であれば無症状であることも多いです。
その他、疲れやすい、パンティングが多い、ふらつき、寝ている時間が増えたなどの気づきにくい症状が挙げられます。
原因となる疾患の症状が現れることもあります。
慢性腎臓病であれば多飲多尿や嘔吐など、副腎皮質機能亢進症であれば多飲多尿や過食、体重増加、脱毛などが挙げられます。
さらに進行し、標的臓器障害(TOD)と呼ばれる状態になると、以下のような症状が現れます。
表1 標的臓器障害の症状
| 標的臓器 | 症状 |
| 腎臓 | 腎機能の低下、持続性蛋白尿 |
| 眼 | 失明、網膜剥離、網膜出血、前房出血、緑内障 |
| 脳 | 発作、痙攣 |
| 心臓、血管 | 不整脈、心雑音、鼻出血 |
犬の肺高血圧症の原因は?
次に、犬の肺高血圧症の原因は、ACVIM(アメリカ獣医内科学会)から以下のような分類が提案されています。
表2 ACVIMの肺高血圧症の分類
| 1群 | 肺動脈性肺高血圧症 | 特発性肺高血圧症 先天性心疾患 (動脈管開存症、心室中隔欠損症など) |
| 2群 | 左心疾患に伴う 肺高血圧症 |
僧帽弁閉鎖不全症 |
| 3群 | 肺疾患/低酸素血症に伴う 肺高血圧症 |
気管・気管支虚脱、気管支拡張症 肺実質性疾患(肺線維症、肺炎、肺腫瘍など) |
| 4群 | 肺血栓塞栓症 | 肺血栓塞栓症 |
| 5群 | 寄生虫疾患 | フィラリア症 |
| 6群 | 原因未定の肺高血圧症 | 第1~5群の病状背景を明確に 2つ以上持つ疾患 |
犬の肺高血圧症の症状は?
犬の肺高血圧症の症状は、肺に行く血液の量が減少し、酸素交換が上手くできなくなると、脳への酸素供給量が低下し「失神」のような症状が出たり、お腹に血液がうっ滞し「腹水」が生じたりします。
その他、肺高血圧症が心臓や肺そのものの異常から生じている場合、運動不耐性や咳などの症状が伴うこともあります。
犬の高血圧の診断に必要な検査は?
犬の高血圧の診断に必要な検査は、まずは高血圧であるかどうかの判断の為に血圧測定を行います。
犬の血圧測定には、観血的な測定(動脈カテーテルを用いた動脈圧の測定)と非観血的な測定(オシロメトリック法)があります。
主に動物病院で行われるのは後者の方法で、尾や足にカフ(バンド状の測定器)を設置し測定を行うタイプでの測定が主流です。
次に、高血圧の疑いがある場合は、二次性高血圧を判断するために全身的な検査を行います。
血液検査やレントゲン検査、超音波検査、尿検査などを行って、基礎疾患の有無を確認します。
同時に、現時点で標的臓器障害が起きていないか、症状の確認や眼底の確認を行います。
犬の肺高血圧の診断に必要な検査は、主に心臓の超音波検査になります。
心臓の超音波検査で、以下のような所見が得られた場合は、肺高血圧症を疑います。
表3 肺高血圧症を疑うエコー所見
| 心室の所見 | 肺動脈の所見 | 右心房、後大静脈の所見 |
| 心室中隔の扁平化 | 主肺動脈の拡張 | 右心房の拡大 |
| 左室内径の縮小 | 肺動脈逆流 | 後大静脈の拡張 |
| 右室肥大 | PRAD index | |
| 右室収縮機能障害 | 右室流出路血流速の変化 |
以上の所見と、三尖弁での逆流の速度を元に、肺高血圧症があるかどうかの判断を行います。
表4 肺高血圧症の判断の目安
| 三尖弁逆流速度(m/s) | 表3の所見部位の数 | 肺高血圧症の可能性 |
| ≦3.0 又は 測定できず | 0 又は 1 | 低 |
| ≦3.0 又は 測定できず | 2 | 中等度 |
| 3.0~3.4 | 0 又は 1 | 中等度 |
| ≧3.4 | 0 | 中等度 |
| ≦3.0 又は 測定できず | 3 | 高 |
| 3.0~3.4 | ≧2 | 高 |
| ≧3.4 | ≧1 | 高 |
基本的には、肺高血圧症となった原因に対する治療を行い、そのうえで症状の改善が無ければ肺高血圧症としての治療も行う形となることが多いと思われます。
犬の高血圧の治療と予後は?
犬の全身性高血圧の治療は、主に上述した原因となっている疾患に対する治療を行います。
その上で高血圧が改善しない場合は、ACE阻害薬やカルシウムイオンチャネル阻害薬のようなお薬を用いて治療を行います。
例えば、慢性腎臓病であれば、IRISのガイドラインに沿った治療を行います。
予後(余命)に関しては、ステージ2であれば3年以上、ステージ3であれば6~11か月、ステージ4であれば2~4か月ほどと言われています。
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)であれば、副腎から分泌されるホルモンの分泌を抑えるお薬や、糖尿病であればインスリンによる治療を行います。
肺高血圧症においては、こちらも原因となる疾患の治療を行った上で改善がなければ、シルデナフィル(バイアグラ)による治療が検討されます。
例えば、心臓の僧帽弁閉鎖不全症から肺高血圧症が起きている場合、まずは僧帽弁閉鎖不全症の治療を行います。
僧帽弁閉鎖不全症の治療は、ACVIMのガイドラインにて以下のように治療が推奨されています。
表5 ACVIMによる各ステージでの推奨される治療
| ステージA | 薬物療法、食事療法ともに推奨されない。 |
| ステージB1 | 薬物療法、食事療法ともに推奨されない。 (治療が有効であるというエビデンスが無い) |
| ステージB2 | 薬物療法、食事療法ともに推奨される。 (ピモベンダン、咳止めなど) |
| ステージC | 薬物療法、食事療法ともに推奨される。 (フロセミドやトラセミド、スピロノラクトンなどの利尿剤、ピモベンダン、ACEI、咳止めなど。急性期にはドブタミン、ニトロプルシドなども。) |
| ステージD | 薬物療法、食事療法ともに推奨される。 (ステージCまでの治療を強化) |
この表に乗っていない、その他の注意事項としては、以下のようなものがあります。
・食餌療法
適切なタンパク質を摂取し、合併した慢性腎臓病が重度でない限り低タンパク食は避けるべきとされています。
ナトリウムの摂取は適度に制限し、血清電解質をモニタリングして、低カリウム血症が認められれば補充を検討するようです。
・サプリメント
オメガ 3 脂肪酸の他、フランス海岸松樹皮抽出物質(ピクノジェノール)などもおすすめです。
・肺高血圧症が合併している場合は、シルデナフィル(開始用量 1 ‒ 2 mg/kg PO q8hr)の使用も検討します。
こちらのステージ分類による余命は様々報告されています。
上記ACVIMのガイドラインのステージ分類のベースとなるEPIC studyという論文において、ステージB2において、無治療で生存期間中央値が約2年、ピモベンダンによる治療を行うと約3年と報告されています。
同様に、VALVE studyという論文によると、ステージCにおいてピモベンダン、フロセミドで治療を行うと、生存期間中央値が約7か月と報告されています。
基本的には、ステージが進めば生存期間は短くなる傾向にありますが、症例により長かったり短かったり差がある印象です。
まとめ
犬の高血圧は、日頃よく遭遇する疾患です。
ただ単に血圧の検査、治療を行うだけではなく、高血圧の原因を調べ、そこに対する治療を行うことが重要です。
また、健診として血圧測定を行うことも重要で、そこから隠れている病気を発見することもあります。
老犬になると、様々な病気から高血圧になることも多いですので、こまめな健診を推奨します。
参考資料
・犬と猫における全身性高血圧の同定、評価および管理のガイドライン(ACIVM)
・犬の肺高血圧症の診断、分類、治療、および経時的評価に関するACVIMコンセンサスステートメントガイドライン
関連記事:猫も高血圧で失明するってホント?原因と予防法などを解説
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この記事を書いたのは

浅川雅清
獣医師
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、
ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年から1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。
現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修など幅広い業務を行っている
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