骨肉腫とは?
骨肉腫(osteosarcoma)は、ヒトでは病理組織学的に腫瘍性の類骨・骨を形成する悪性腫瘍と定義されているようです。
簡単にいうと、骨にできた悪性の腫瘍ということになります。
犬の骨肉腫とは?
犬において、骨肉腫は原発性の骨の腫瘍の中で最も多く約85%を占めています。
診断時の年齢の中央値は7歳とされていて、基本的に高齢になると罹患する病気ですが、1.5~2歳にも発生のピークがあり、まれに若齢で発生することがあるようです。
約75%が四肢(前足や後ろ足など)に発生し、残りの15%は軸性骨格(脊椎など)に発生すると言われています。
四肢では前肢の方が後肢より2倍多く発生していて、上腕骨近位と橈骨遠位に発生が多いとされています。
後肢では、大腿骨遠位と脛骨近位に多く、「near knee far elbow」と表現されていますが、どちらも基本的に関節を超えないとされています。
体軸骨格では、下顎骨が27%、上顎骨が22%と多く、その他脊椎、頭蓋骨、ろっ骨などでの発生が認められています。
高率で転移が発生し、骨肉腫と診断したときにレントゲンで肺などへの転移が確認できる症例は15%ほどと言われていますが、確認できないレベルの小ささで転移が起こっていることがほとんどのようで、進行の早い悪性の腫瘍です。
犬の骨肉腫の好発犬種は?
犬の骨肉腫は大型犬に多く、セント・バーナード、グレードデーン、アイリッシュ・セター、ドーベルマン、ロットワイラー、ジャーマンシェパード、ゴールデンレトリバーなどが挙げられます。
犬の骨肉腫の原因は?
犬の骨肉腫の原因は、まだ特定されていません。
ヒトにおいては近年、がん抑制遺伝子であるRb遺伝子やp53遺伝子などに変異が認められることが関連している可能性が示唆されています。
犬においても、特定の犬種での発生が多いので、遺伝が関係している可能性は有り得ると思われます。
また、体重が重い犬種に多いことから体重との関連性や、慢性的な炎症刺激や過去に行った骨折手術などとの関連性も疑われているようです。
犬の骨肉腫の症状は?
犬の骨肉腫の症状は、四肢に発生する場合は歩き方の異常(跛行)や足の痛み(疼痛)、患部の腫れなどが認められて気づくことが多いです。
その他、体重減少や痛みによる食欲不振、顎骨にできた骨肉腫であれば、フードをうまく食べられなかったり、顎が腫れて見えたりします。
また、病的骨折といって、骨折するほどの大きな衝撃が無いのに、腫瘍で骨がもろくなっているが故に骨折してしまうことで気づくケースもあります。
犬の骨肉腫の診断に必要な検査は?
犬の骨肉腫の診断には、まずは腫瘍があると思われる部位のレントゲン検査が必要です。
ほとんどの症例で、骨膜反応や骨融解などの骨病変が認められます。
しかし、その所見は骨肉腫特有のものではなく、軟骨肉腫や血管肉腫、多発性骨髄腫、真菌や細菌の感染による骨髄炎なども同様の為、腫瘍の病理学的な検査を行って確定診断を行います。
確定的な診断を行うには、多くの場合が「断脚」が必要になってしまいます。
その前段階の検査として、腫瘍があると思われる部位に針をさして細胞診を行うことがあります。
細胞診検査では、骨肉腫とその他の肉腫を鑑別することは難しいとされていますが、肉腫を疑う細胞が確認できた場合は、積極的な治療を行う必要があると推測することができるので、実施することも多い検査です。
より正確な検査としては、ジャムシティ針などを用いて骨生検を実施する必要があります。
ここまでの検査で骨肉腫が強く疑われる場合は、手術に向けて全身のスクリーニング検査が必要になります。
特に胸部レントゲン検査は重要で、今後の治療を決定する上で、現時点で肺への転移がないかどうか確認する必要があります。
また、レントゲン検査で分かりにくい場合は、CT検査へと進むこともあります。
犬の骨肉腫の治療と余命は?
上述した通り、犬の骨肉腫は転移率が非常に高い腫瘍です。
ですが、まずは原発の腫瘍そのものを切除することが第一の治療です。
四肢の骨肉腫であれば、概ね断脚が選択されます。
次に挙げられる選択としては放射線治療がありますが、副作用や効果の程からあまり選択されないのが現状です。
また、断脚のみでは90%以上が1年以内に転移で死亡すると言われています。
そのため、手術した時点での転移の有無に関わらず、抗がん剤による全身的な治療を併用することが推奨されています。
また、断脚というと丸々1本の足を切除する形になるので、飼い主としてもかなり大きな決断となってしまいます。
大学病院などでは、断脚をしなくても腫瘍が取り切れそうな場合(例えば肩甲骨や橈骨での骨肉腫など)であれば、患肢温存術として腫瘍化した部位のみを切除し、場合によりインプラントを設置するなどして、断脚せずに治療することも可能なようです。
余命としては、四肢の骨肉腫であれば、断脚のみでは生存期間中央値が4~5か月であるが、抗がん剤による治療を加えた場合は8~12か月に延長されることが知られています。
使用される抗がん剤は、カルボプラチンやドキソルビシンがよく用いられます。
現在のところ、どちらの抗がん剤の効果も同等と言われていますので、副作用のリスクを考えながら選択します。
どちらも生存期間中央値は約10か月、1年生存率が40%、2年生存率が10~20%程度と報告されています。
ともに3週間ごとに抗がん剤を投与し、6クールまで行うことが多いようです。
その他、シクロフォスファミドによるメトロノミック療法や、トセラニブなどにおいても、残念ながら有効性は確認されていないのが現状です。
肺に転移した腫瘍に関しては、あまり積極的な治療がなされないことが多いと思われます。
しかし、まれに手術適応となるケースがあるようです。
その条件としては、
- 原発巣が再発のない状態で300日以上経過していること
- レントゲンで確認できる転移巣が2個以下であること
- 肺以外に転移がないこと
- 転移病変の大きさが2倍になるのに30日以上かかっていること
以上を満たすケースは、肺に転移した腫瘍も手術の対象になるようです。
以上が骨肉腫そのものに対する治療になりますが、その他に疼痛緩和の治療も並行して行うことが多いです。
主に骨が溶解されてしまうことによる痛みに対する緩和治療を行います。
鎮痛剤としては、非ステロイド系消炎鎮痛剤やオピオイド系の鎮痛剤、ガバペンチンやトラマドールなどが用いられます。
ビスホスホネート製剤も、破骨細胞に作用して骨吸収を抑制することから、疼痛緩和に用いられます。
その他、放射線治療による疼痛緩和も選択肢のようです。
内科的な治療の他に、サプリメントなどで体調をサポートしてあげるのも良いでしょう。
腫瘍には「タヒボエキス」などがオススメです。
発生部位によって、余命の違いもあるようです。
頭部に発生した骨肉腫は、遠隔転移は四肢の骨肉腫よりやや低下し、約40%と報告されています。
下顎骨に発生した骨肉腫は、顎骨切除を実施することで、1年生存率が71%で比較的良い挙動であることが報告されています。
その他、
- 上顎に発生した骨肉腫はで顎骨切除を行った場合の生存期間中央値は5か月
- 肋骨に発生した骨肉腫の胸壁切除+補助療法(抗がん剤治療など)でも生存期間中央値は3か月
- 肩甲骨に発生した骨肉腫も手術+補助療法で生存期間中央値は246日
- 脊椎に発生した骨肉腫も、手術や放射線治療、抗がん剤治療を組み合わせても生存期間中央値は4か月
と報告されて、いずれも四肢の骨肉腫と同様に余命が長くないようです。
犬の骨肉腫の治療費の目安は?
犬の骨肉腫の治療費は、行う治療や病院により大きく異なります。
断脚による手術を実施した場合、概ね20~40万円程度の費用が掛かると思われます。
腫瘍が発生した部位により術式が異なる為、手術の料金は前後すると思われます。
さらにそこに抗がん剤の治療を加えたとすると、抗がん剤の投与に1回あたり2~3万程度(血液検査などの事前検査を含む)の費用がかかると予測されます。
もし、手術を行わず、疼痛管理の為の内科的な治療のみを行う場合、1か月2~3万円程度の費用が掛かると予測されます。
ビスホスホネート製剤は比較的高価な注射薬で、一回あたり3~4万円程度の費用が掛かります。
まとめ
骨肉腫は、日頃の診察においても比較的よく遭遇する疾患です。
早期発見、早期治療がとても重要な疾患で、末期になってから見つかることも少なくない腫瘍です。
早期であれば、積極的な治療でより長く生きられる可能性がありますので、歩き方の異常や足の腫れなどに気づいた場合は、様子を見ずに動物病院を受診するよう心掛けましょう。
参考資料
・Veterinary Oncology No.32
・Veterinary Oncology No.1
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この記事を書いたのは

浅川雅清
獣医師
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、
ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年から1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。
現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修など幅広い業務を行っている
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