獣医師が解説 犬の扁平上皮癌とは?余命や抗がん剤治療の効果は?

この記事の監修者
みつはし

愛玩動物看護師
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扁平上皮癌とは?

扁平上皮癌(Squamous cell carcinoma)とは、「扁平上皮細胞」という細胞が腫瘍化したものを指します。
扁平上皮細胞は通常、皮膚や粘膜の表層に存在しています。
ですので、扁平上皮細胞が存在する皮膚や口腔内、鼻腔内など、様々な部位にこの腫瘍は発生すると言われています。

 

犬の扁平上皮癌とは?

犬の扁平上皮癌は、日常の診療においてよく遭遇する疾患です。

犬の口腔内に発生する悪性腫瘍のうち、悪性黒色腫(メラノーマ)に次いで2番目の発生率(17~25%程)とされています。

関連記事:犬のメラノーマはどんな病気?症状や治療費、余命など

その他、目、鼻、扁桃、肺、爪、肛門、耳など様々な部位に発生する悪性腫瘍です。

その発生部位により異なる挙動を示すとされていますが、一般的に局所浸潤性(しこりの発生部位での広がり)が強く、遠隔転移(肺やリンパ節への転移)は起こしにくい傾向にあります。

扁桃以外に発生した扁平上皮癌のリンパ節への転移率は10%以下、肺への転移率は3~36%程度と報告されています。

一方で、扁桃に発生した扁平上皮癌はリンパ節への転移率は73%程度と比較的高い確率で報告されています。

扁平上皮癌の発生は、若齢より高齢になると多くなる傾向にあるようです。

犬の口腔内に発生した扁平上皮癌に関しては、WHOの臨床ステージ分類を用いて、以下の4段階にステージ分類されています。

表1 犬の口腔内腫瘍のTMN分類

ステージ分類 特徴
T (原発性腫瘍)
T0 原発腫瘍を認めない
Tis 上皮内癌
T1 腫瘍直径<2cm、
T1a 骨浸潤なし
T1b 骨浸潤あり
T2 腫瘍直径2~4cm
T2a 骨浸潤なし
T2b 骨浸潤あり
T3 腫瘍直径>4cm
T3a 骨浸潤なし
T3b 骨浸潤あり
N (領域リンパ節)
N0 局所リンパ節への転移なし
N1 可動性のある同側のリンパ節
N1a 腫瘍を含まないとみなされるリンパ節
N1b 腫瘍を含むとみなされるリンパ節
N2 可動性のある対側あるいは両側のリンパ節
N2a 腫瘍を含まないとみなされるリンパ節
N2b 腫瘍を含むとみなされるリンパ節
N3 固着のあるリンパ節
M (遠隔転移)
M0 遠隔転移なし
M1 遠隔転移あり

表2 WHOの臨床ステージ分類

ステージ T N M
T1 N0、N1a、N2a M0
T2 N0、N1a、N2a M0
T3 N0、N1a、N2a M0
Any T N1b M0
Any T N2b、N3 M0
Any T Any N M1

 

犬の扁平上皮癌の原因は?

犬の扁平上皮癌において、その具体的な原因は明らかになっていません。

発がん物質や放射線などによる遺伝子へのダメージや、家系などの遺伝的な素因、腫瘍に対する免疫力の低下など、様々な原因が推測されていますが、現時点で特定されている原因はほぼ無いと思われます。

一部、日光や慢性炎症が関与している可能性が示唆されています。

 

犬の扁平上皮癌の症状は?

犬の扁平上皮癌の症状は、発生する体の位置により様々です。

皮膚であれば、

  • からだにしこりができた
  • 皮膚が炎症を起こしてぐじゅぐじゅしている
  • 皮膚にかさぶたができた
  • 皮膚を気にして舐めている

など、目に見えてわかる症状が出ます。

口腔内に発生した場合は、

  • 歯茎が腫れている
  • 口臭がする
  • よだれが多くなった
  • 口や鼻から出血した
  • 固いものが食べにくくなった

などの症状が出ます。

口腔内の扁平上皮癌で末期になると、痛みにより食事が出来ず衰弱したり、内側咽頭後リンパ節に転移し腫大が重度になれば気管を圧迫し、呼吸に問題が出たりします。

 

犬の扁平上皮癌の診断に必要な検査は?

犬の扁平上皮癌の診断に必要な検査は、まずは身体検査になります。

しこりがどこにあるのか、どのような見た目なのか(固くぼこぼこして、赤くなっていることが多いとされます)、大きさはどれくらいなのか、どこまで広がっているのか、近くのリンパ節の腫れはあるのか、といった情報を確認します。

次に行うのが、実際のしこりの「細胞診」です。

細胞診は、しこりに注射針をさすことで細胞を回収し、腫瘍なのか、炎症なのか、腫瘍であれば何の腫瘍が疑われるのか、ヒントを得るための検査です。

そこで、扁平上皮癌を疑う細胞が回収される場合は、その可能性が高まります。

確定診断を行うには、そのしこりを切除して病理学的検査を行う必要があります。

また治療を行うには上記の臨床ステージ分類を行う必要がある為、レントゲン検査やCT検査などで、正確にどこまでしこりが広がっているか、転移が起きていないかを確認する必要があります。

そのためにも、全身的な一般的な血液検査も実施した方がよいでしょう。

 

犬の扁平上皮癌の治療と余命は?

犬の扁平上皮癌の治療と余命は、どこに腫瘍が発生したかとそのステージ分類で大きく変わります。

犬の扁平上皮癌の全体の余命として、無治療では生存期間中央値は54日、1年生存率は0%という報告がされているくらい、進行速度が早い腫瘍です。

転移率があまり高くない腫瘍なので、局所の治療が非常に重要とされています。

完全切除に必要なマージンは2cmとされていて、広く患部を切除することが重要なようです。

ですので、小さなしこりや切除しやすいしこりは基本的に外科的切除が治療の第一選択となります。

また、放射線治療にも感受性がある腫瘍なので、マージンが十分に確保できない部位に発生した扁平上皮癌でも、術後に放射線治療を併用することで、十分にコントロールできるケースもあるようです。

ある報告では、不完全切除後に放射線治療を行った症例と、そうでなかった症例の生存期間中央値はそれぞれ2051日、181日と明らかな差が出たと言われています。

一方、扁桃や舌根部に発生した扁平上皮癌は、局所の再発率、遠隔転移率がともに高く、外科治療を第一に選ばないケースがあります。

ある報告では、外科治療での一番成績が悪く、むしろ抗がん剤と放射線治療を併用した方が余命は長かったと言われています。

扁桃に発生した扁平上皮癌で、抗がん剤と放射線治療を併用した場合の生存期間中央値は355日と報告されています。

もちろん、遠隔転移があるステージが進んだ症例のように、手術が適応にならないケースもあります。

犬の口腔内の扁平上皮癌の余命に関しては、情報が多く報告されており、全体の余命として、生存期間中央値は26~36か月と報告されています。

口腔内に発生した扁平上皮癌は、手術だと顎骨の切除を行うことが多いです。

下顎切除後の生存期間中央値は19~43か月、1年生存率が88~100%、2年生存率が79%、3年生存率が58%と報告されています。

また、上顎切除後の生存期間中央値は10~39か月、1年生存率が57~94%、2年生存率が69%、3年生存率が38%と報告されています。

この違いは、下顎切除の方が腫瘍をしっかり取り切れることが多く、上顎切除は周囲に重要な臓器が多いので、切除しきれないことが多い為と思われます。

上顎切除における局所での再発率も29%と比較的高めの数値で報告されています。

しかし、顎骨切除はどうしても外貌の変化が生じてしまうのがデメリットとなります。
また、切除範囲によっては食事を介助する必要が出てきてしまいます。

そのような場合は、放射線治療を中心とした治療も選択肢の一つです。
放射線治療単独での生存期間中央値は15~16か月と報告されています。

手術と併用する場合は34か月と報告されています。

放射線治療は専門の設備が整っている病院でしか実施できず、頻回に麻酔をかけることから費用も高額になりがちです。

手術や放射線治療が難しいとなると、抗がん剤による治療を単独で行うこともあり得ると思います。

犬の扁平上皮癌で報告されている抗がん剤などの薬剤は以下になります。

薬剤名 奏効率 副作用
シスプラチン 35% 腎機能障害
嘔吐、下痢などの消化管障害
神経毒性
血管外漏出による組織壊死
ピロキシカム 27% 腎機能障害
嘔吐、下痢などの消化管障害
トセラニブ 57% 肝酵素値の上昇
甲状腺機能低下症
高血圧
好中球減少症
嘔吐、下痢などの消化管障害
低アルブミン血症、蛋白尿

その他、サプリメントであれば腫瘍には「タヒボエキス」などがオススメです。

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犬の扁平上皮癌の治療費の目安は?

犬の扁平上皮癌の治療費は、治療の内容や病院により大きく異なります。

診断を行う上で、血液検査や画像検査、細胞診を行う場合は概ね2~4万円程度はかかると思われます。
CT検査も行うとさらに10~20万円程度はかかると思われます。

手術にて顎骨切除を行う場合は、概ね20~30万円程度の費用がかかると思われます。

そこで治療を終了する場合もあれば、放射線治療や抗がん剤を併用するケースもあり、その場合はその料金も追加されます。

放射線治療であれば50~100万円(照射回数により大きく異なります)、抗がん剤であれば種類にもよりますが月5~10万円程度と思われます。

 

まとめ

犬の扁平上皮癌は、早期発見・早期治療により長期の余命が期待できます。

日常からスキンシップの一環として、全身くまなく触ってチェックしてしこりがないか確認してあげましょう。

しこりを見つけた場合や、皮膚炎のように見える部分があった場合は、様子を見ずにすぐに受診するようにしましょう。

治療においても、様々な選択肢が増えてきています。

上記の情報を参考に、かかりつけの先生とよりよい治療を決めていきましょう。

参考資料
・Veterinary Oncology No.17
・Veterinary Oncology No.23
・Veterinary Oncology No.31
・獣医腫瘍学テキスト 第2版

関連記事:猫の扁平上皮癌はどんな病気?初期症状はわかる?

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この記事を書いたのは


浅川雅清
獣医師
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、
ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年から1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。
現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修など幅広い業務を行っている
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