てんかんとは?
てんかんとは厚生労働省によると、人においては、「てんかん発作」を繰り返し起こす状態と説明されています。
また「てんかん発作」とは、脳の神経細胞における異常な電気活動が原因で起こる発作のことを指し、突発的に神経系が異常に活動することで症状が出ると解説されています。
どの神経系に異常が出るかで症状も異なるのですが、“体の一部が固くなる(運動神経)、手足がしびれたり耳鳴りがしたりする(感覚神経)、動悸や吐き気を生じる(自律神経)、意識を失う、言葉が出にくくなる(高次脳機能)”といった様々な症状を起こすようです。
てんかんの原因は、脳の奇形、内臓の病気、遺伝子の異常、頭部外傷、感染症、自己免疫疾患、脳炎、脳卒中、認知症等のさまざまな病気で引き起こされるようです。
有病率は1000人に5~8人(0.5~0.8%)と言われており、発症年齢は特に小児と高齢者で発症率が高い傾向があるようです。
治療は基本的に「抗てんかん薬」にて行うようです。
抗てんかん薬を内服しても発作が充分に抑えられない場合には、脳外科手術や食事療法、迷走神経刺激術といった他の治療が適応されるケースもあるそうです。
犬のてんかんとは?

犬のてんかんは現在、“24時間以上の間隔をあけて、少なくとも2回以上の(非誘発性の)てんかん発作が認められる脳の病気”と言われています。
てんかんは、「特発性てんかん」と「構造的てんかん」に分けられます。
特発性てんかんは、主に遺伝が関連していると予測されている、原因がはっきりしないてんかんを指します。
発症する年齢は概ね2~3歳で、多くは6か月~6歳までにてんかん発作を起こすと言われています。
MRI検査や脳脊髄液検査で脳に明らかな異常は見られないが、脳波検査に異常があることが多いとされています。
構造的てんかんは、脳腫瘍、脳炎、脳の奇形(水頭症など)、脳血管障害(血栓など)などが原因として挙げられます。
これらはMRIや脳脊髄液検査にて診断がつけられることが多い病気です。
また、以下のような脳以外の異常から起こる発作を「誘発性(反応性)の発作」と言い、てんかん発作と区別されています。
・中毒
犬が食べてはいけないものを食べ、中毒を起こした時にも発作は起こります。
有名なものだと、チョコレート(テオブロミンによる交感神経の興奮)、ガム(キシリトールによる低血糖)、殺虫剤(有機リン中毒による)、トリカブト(アコニチンによる)、人薬などが原因となります。
・低血糖
特に生後間もない子犬に多く、何かしらの原因で栄養が摂取できない場合、短時間で低血糖から発作を起こすことがあります。
その他、膵臓の腫瘍であるインスリノーマや、糖尿病の治療として用いるインスリンの過剰投与などが低血糖の原因となります。
・肝性脳症
肝性脳症とは、アンモニアを分解する臓器である肝臓の機能が低下し、脳に影響を及ぼし発作を起こします。
特に肝臓の病気がある犬で時折認められます。
・尿毒症
尿毒症とは、体内の老廃物を尿に排出する役割を持つ「腎臓」という臓器の機能が低下し、毒素が体内に蓄積することで全身に影響を及ぼす状況を指します。
脳に影響を及ぼすと発作を起こす原因となります。
犬においては、急性腎障害、慢性腎臓病(腎不全)、尿路閉塞などの際に起こることがあります。
・頭部外傷
交通事故や高所からの落下などで頭部に外傷を受けた場合、脳にダメージが生じて発作を引き起こすことがあります。
犬のてんかんの原因とは?
特発性てんかんについては上述の通り、原因がはっきりしないものの、遺伝が関連していると予測されています。
遺伝的な異常は、ラゴット・ロマニョーロの「LGI2遺伝子」、ベルジアン・シェパードの「ADAM23遺伝子」、ローデシアン・リッジバッグの「DIRAS1遺伝子」など、一部の犬種において遺伝子が同定されているようです。
構造的てんかんは、特に老犬では腫瘍が原因のことが多いとされています。
脳に発生する各種の腫瘍を総じて「脳腫瘍」と呼び、主な腫瘍の種類としては「髄膜腫」という、脳の「クモ膜」という部分の細胞から発生するものや、「グリオーマ」という、脳の神経細胞そのものから発生する腫瘍などが挙げられます。
その他、脳炎や脳血管障害などが挙げられます。
若齢の犬においては、水頭症などの脳の奇形が第一に考えられます。
関連記事:犬の脳腫瘍はどんな病気?余命や治療は?
また、経験上の話ですが、元々てんかん発作の経験をもつ犬に狂犬病ワクチンや混合ワクチンなどの予防接種をすると、その後発作の頻度が急に増えたり、薬が効きにくくなったりすることが時折経験します。
犬のてんかんに伴う症状とは?
犬の典型的なてんかんは、以下のようなパターンの症状を示します。

①発作前期
発作の前兆として、そわそわし落ち着きが無く歩き回ったり、息が荒くなったり、震えたりする様子が認められます。
②発作
多くは「強直間代性」と言われる、四肢を突っ張りバタバタと動かすような痙攣や遊泳運動などが認められます。
その際に口から泡やヨダレを出す、尿や便を失禁するといったことも多々認められます。
時間は数秒~数分で、特に対処を行わなくても自然と発作が終了します。
③発作後期
発作が終了し、ウロウロと動き回る、ぼーっとするなどの行動の異常が認められます。
この時期が過ぎれば、発作前のいつもと変わりのない様子に戻ります。
関連記事:高齢の犬が痙攣を起こしたらどうすればよい?原因や対処法を解説
その他の特徴的な症状として、「部分発作(焦点発作)」であれば、後ろ足や片足だけが痙攣発作を起こしたり、「フライバイト」のような上を向く異常な行動を示したりします。
もし、上記のような典型的な発作のパターンとは外れていたり、以下のような症状を伴う場合は、一般的な「てんかん」ではなかったり、「誘発性発作」であったりする可能性がありますので、様子を見ずに早急に受診しましょう。
- 嘔吐や下痢をしている
- 発作後も元気が無く、ぐったりしている
- 食欲がない
- 発熱している
- 発作後も歩けない/立てない
- 発作前に誤食をしてしまった
- 発作後も意識が戻ってこない
- 目が見えていない/物にぶつかる
- 瞳孔が開いている
- 斜頚や斜視、旋回行動が認められる
てんかん発作が起きた時の対処法は?
犬がてんかん発作を起こした時は、まずは安全な場所に移動させましょう。
発作の最中は物にぶつかってケガをする可能性がある為、家具や壁などから距離を取ります。
飼い主自身もケガをする恐れがある為、不用意に犬に近づかないことも大切です。
次に、てんかん発作がどれくらい続いているか時間を確認することが重要です。
特に、発作が5~10分以上続いている場合は「発作重責」と呼ばれる状況になっている可能性が高い為、早急に動物病院にて治療を行う必要があります。
もし発作時に使用する坐薬や点鼻薬が予め処方されていれば、使用することも検討しましょう。
一度痙攣や発作が収まったものの、間隔を空けて1日に何回も痙攣や発作が起きる場合に関しては「群発発作」である可能性があり、こちらも早急に受診するべき状況です。
もし可能であれば、痙攣や発作の様子を動画に収めると、今後の診断や治療に重要な手掛かりとなります。
犬のてんかんの診断方法は?
犬のてんかんの原因を特定するには、上述の病気を検査にて鑑別する必要があります。
一般的な動物病院にはMRIの設備が無いことが殆どである為、まずは全身の身体検査と一般血液検査を行い、誘発性発作が起きる原因が無いかを検査します。
その上で異常が無い場合は、MRI検査を行うかどうか検討します。
てんかん発作が起きた回数が1回だけであれば、すぐMRI検査を行うという流れには一般的にはならず、2回目のてんかん発作が起きた際にMRI検査を行うことが多いです。
犬の特発性てんかんの治療は?

犬の特発性てんかんの治療は、人と同様に抗てんかん薬による治療が中心となります。
特発性てんかんにおいては、概ね6か月に2回以上のてんかん発作が起きている場合、群発発作や発作重責を一度でも起こした場合は治療対象となります。
以下の表で、現在主流として使われている抗てんかん薬をご紹介します。
| 一般名 | 商品名 | 副作用 |
| ゾニサミド | コンセーブ エピレス エクセグラン |
少ない。 嘔吐下痢、肝酵素値の上昇 等 |
| 臭化カリウム | 臭化カリウム | 多食、性格の変化、嘔吐 等 |
| フェノバルビタール | フェノバール | 多食、鎮静、運動失調、肝障害 等 |
| レベチラセタム | イーケプラ | 少ない。 ハネムーン効果、鎮静 等 |
| ジアゼパム | セルシン ホリゾン ダイアップ坐薬 |
耐性、多食、ふらつき 等 |
犬において現在、日本ではゾニサミドを第一選択として治療を行うことが一般的です。
投与を開始し、1~2週間ほどで薬剤の血液中の濃度(血中濃度)を測定し、有効な濃度になっているかを確認します。
代謝が良いケースだと、標準量を服用しても血中濃度が上昇せず、薬が効かない可能性がある為、最初のうちはこまめな血中濃度の測定が重要です。
ゾニサミド単体で発作が上手く管理できる場合は、治療費用としては月1万円前後になると思われます。
脳腫瘍からてんかん発作を起こしている場合は抗てんかん薬の他、ステロイド剤や抗がん剤(ロムスチン、ヒドロキシウレアなど)、外科手術、放射線治療などを併用して積極的な治療を行おうこともあります。
特発性てんかんにおいて使用されるサプリメントとしては、
- 中鎖脂肪酸(MCT)
- カンナビジオール
- オメガ3脂肪酸
- ピクノジェノール(フランス海岸松樹皮抽出物質)
などが挙げられます。
まとめ
犬の特発性てんかんは、人と比べ日常よく遭遇する症状です。
人と異なり、犬のMRI検査は高額で、全身麻酔を伴う処置となるので、原因が追究できないことも多いのが現状です。
しかし、様子を見てばかりいると、背景に隠れている病気を見落としてしまいます。
特に高齢になればなるほど要注意の症状ですので、日頃から対処法を覚えておくと、もしもの時に役立つと思います。
発作が軽度であった場合でも、様子を見ずに一度獣医師に相談するよう心掛けましょう。
参考資料
・厚生労働省HP てんかん対策
・犬と猫のてんかん読本 第3版
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この記事を書いたのは

浅川雅清
獣医師
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、
ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年から1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。
現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修など幅広い業務を行っている
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