血尿とは?
血尿とは、尿の中に血液が混じることを指します。
ヒトにおいて血尿の原因は、感染症、膀胱炎、腎盂腎炎、腎結石や尿管結石、横紋筋融解症、腫瘍などが原因となるようです。
犬においても同様の原因の他に、犬ならではの原因で血尿を起こすことがあります。
様子見をして放置しておくと、治療が遅れてしまう病気が原因であることもあるので、注意が必要です。
犬の血尿の原因は?
犬の血尿の原因は、以下のようなものが挙げられます。
感染症
膀胱の中に細菌が侵入することで細菌性膀胱炎を起こし、血尿を起こすことがあります。
細菌性膀胱炎の原因菌は、主に大腸菌(Escherichia coli)であり、次いでブドウ球菌(特に、S. intermedius Group)、腸球菌(特に、Enterococcus faecalis)となっています。
これらの細菌が、陰部から上行性に感染を起こし、膀胱で炎症を起こしたものを「細菌性膀胱炎」と言います。
特にメスの場合は尿道が短い為、細菌が侵入しやすいと言われています。
また、以下のような疾患や薬剤により、さらに細菌性膀胱炎を起こしやすくなったり、繰り返しやすくなったりすると言われています。
| 薬剤 | ステロイド、免疫抑制剤、 抗がん剤(特にシクロホスファミド)等 |
| 内分泌疾患 | 糖尿病、クッシング症候群、甲状腺機能低下症など |
| 尿路疾患 | 尿石症など |
| 生殖器疾患 | 前立腺炎、前立腺膿疱など |
| 物理的な要因 | 尿道カテーテルの設置など |
| 心因的な要因 | ストレスやトイレを我慢するなど |
| 神経学的な要因 | 排尿障害など |
膀胱炎などの下部尿路疾患からさらに上行性に細菌が侵入し、腎臓で炎症を起こすと「腎盂腎炎」と呼び名が変わります。
また、膀胱内への感染の他に、全身的な感染症から血尿を起こすこともあります。
犬のフィラリア症において、「大静脈症候群」と呼ばれる重篤な症状を示すことがあります。
フィラリアの虫体により物理的に赤血球が破壊されることで、赤血球内の色素が尿中に排泄されます。
見た目は「血尿」ですが、正しくはこれを「血色素尿」と呼びます。
その他、バベシア症などの赤血球内に寄生する感染症でも「血色素尿」を示すことがあります。
尿石症
尿石症とは、腎臓、尿管、膀胱などの尿路において、結石が生じた状態を指します。
結石が形成されることで、物理的に粘膜がダメージを受けることで血尿が起こることがあります。
犬の尿石症では、以下のような結石が知られています。
・ストルバイト結石(リン酸アンモニウムマグネシウム)
・シュウ酸カルシウム結石
・シスチン結石
・尿酸結石
・シリカ結石
これらは、主に体質や食生活から形成されることが多いのですが、尿酸結石に関しては、犬種(ダルメシアンなど)や疾患(門脈シャントなど)が原因となり形成されることも知られています。
関連記事:犬の尿石症の原因は?食べてはいけないものや療法食治療が良い?など解説
誤食
犬特融の血尿として、ネギ類の誤食が挙げられます。
玉ねぎやニラ、ニンニク、長ネギなどに含まれる中毒物質が赤血球を破壊し、こちらも正しくは「血色素尿」という形で血尿を起こすことがあります。
ヒトの解熱剤でよく用いられるアセトアミノフェンも同様の中毒症状が知られています。
横紋筋融解症
横紋筋融解症とは、何かしらの原因で筋肉が破壊されることから発症します。
筋肉内のミオグロビンが尿中に排泄されることで、血尿に似た外見の「ミオグロビン尿」を呈します。
犬においてはチョコレート中毒や熱中症で発症することが知られています。
膀胱腫瘍(膀胱癌)
膀胱にできる腫瘍を一括りで「膀胱腫瘍」と言いますが、よく発生するのは「移行上皮癌」という悪性の腫瘍です。
膀胱の粘膜上皮から発生する腫瘍で、高齢に多く、膀胱の出口である膀胱三角に発生しやすいとされています。
腫瘍は、増殖とともによく炎症を起こすため、それに伴い血尿が出ることがよくあります。
また、その他の腫瘍として前立腺癌という、オス特有の前立腺の腫瘍も多く発生します。
こちらも同様に、血尿の症状がよく認められることもあります。
免疫介在性溶血性貧血
赤血球が犬自身の免疫によって破壊されてしまい、貧血が生じることを「免疫介在性溶血性貧血」と言います。
何かのきっかけで赤血球に対する自己抗体というものが産生され、抗体と結合した赤血球は破壊され溶血することで発症します。
こちらも正しくは「血色素尿」という形で血尿が出ることがあります。
関連記事:犬の免疫介在性溶血性貧血は治る?症状や必要な検査は?
犬の血尿の症状は?
犬の血尿の症状は、その原因により様々です。
膀胱炎であれば血尿の他に頻尿、尿漏れ、ポタポタと排尿するなどの症状が伴います。
全身的な疾患に伴う血尿であれば、嘔吐や下痢、食欲不振、元気消失、心雑音、貧血、発熱なども認められることがあります。
血尿の程度も様々で、腎臓からの出血や血色素尿、ミオグロビン尿の場合は、尿全体が赤色、茶色、ピンク色に見えることがあります。
膀胱からの出血の場合は、最後に血が混じる程度であったり、血の塊が混ざったりすることがあります。
犬の血尿の診断に必要な検査は?
犬の血尿の診断に必要な検査は、主には尿検査になります。
尿検査において、潜血反応が陽性の場合は、血尿である可能性が高いです。
しかし、メスであれば生理中、オスであればペニスの炎症などの血液も潜血反応が陽性になってしまいます。
また、検査までの間で様々な化学物質が混入した場合は、潜血反応が偽陽性になったり、逆に反応が出なくなったりすることがあるので注意が必要です。
同時に、尿糖や細菌、結晶の検出などを行うことで、原因の特定に近づくことが出来ます。
もし、血尿以外に症状がある場合は、何か基礎疾患が原因となっている可能性もあります。
その場合は全身的な検査(血液検査、レントゲン検査、超音波検査など)も必要となってくるケースもあります。
犬の血尿の治療は?
犬の血尿の治療は、その原因により大きく異なります。
尿石症
リン酸アンモニウムマグネシウム(ストルバイト)結石に関しては、尿pHがアルカリに傾く、尿中のマグネシウムの量が多い、細菌感染があるなどが結石になる素因と言われています。
ですので、尿pHを適正(6.0~6.5)にする、飲水量を増やす、細菌感染の治療を行うことで、食事療法などで内科的に治療が可能なケースがあります。
膀胱結石の場合であまりに結石の大きさが大きかったり、数が多かったりする場合は、膀胱切開の手術による摘出が必要な場合もあります。
シュウ酸カルシウム結石の場合は、尿pHが酸性に傾く、尿中のシュウ酸やカルシウムの量が多い、尿の比重が高いなどが結石にある素因と言われています。
食生活や元々の体質的な側面、血液中のカルシウムの量が多くなる疾患(上皮小体機能亢進症、悪性腫瘍、慢性腎臓病など)などがその原因となることがあります。
シュウ酸カルシウム結石は食餌療法などで溶解することは基本的にはできません。手術による摘出が治療となります。
膀胱腫瘍
膀胱にできる「移行上皮癌」は悪性の腫瘍で、治療の中心は手術となります。
しかし、膀胱三角という手術がしにくい部分での発生が多く、また発見時には転移が起きているなどして、積極的に手術ができないケースが多々あります。
その場合は、抗がん剤による内科治療での緩和療法が主に選択されます。
非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)単体や、抗がん剤単体、またはその二つを併用することで治療を行っていきます。
NSAIDsであればピロキシカム、デロキシカム、フィロコキシブなどが用いられます。
抗がん剤としてはカルボプラチン、ミトキサントロン、ビンブラスチンなどが用いられます。
近年、クロラムブシルによるメトロノミック療法や、トセラニブやラパチニブなどの分子標的薬の有用性も報告し始められています。
放射線治療は一般的ではありませんが、治療効果があった報告もあるようです。
もし、腫瘍が尿道を閉塞してしまった場合は、尿道ステント術、バルーン拡張術、膀胱腹壁瘻など、対症療法としての手術が適応となるケースもあります。
誤食
中毒に対する特効薬のようなお薬は存在しない為、まずは誤食をしてしまった場合は催吐処置を行い誤食した物質を回収します。
もし、貧血が進行していく場合は輸血の必要性が出てくる可能性もあります。
横紋筋融解症
こちらも特効薬のようなお薬は存在しない為、チョコレートを誤食してしまった場合は催吐処置を行います。
熱中症で発症した場合は、熱中症に対する治療を行います。
免疫介在性溶血性貧血
犬の免疫介在性溶血性の治療は、ACVIMからガイドラインが公開されています。
最初に用いられる治療は「ステロイド」になります。
自分の赤血球を壊そうとする免疫反応を、プレドニゾロンなどのステロイド剤を用いて抑える治療を行うことが多いです。
もしステロイド単体での治療が難航する場合は免疫抑制剤を併用します。
初期治療においては、血栓症が亡くなる原因として挙げられますので、重度な血小板減少が無い限り血栓予防の薬剤を併用することが推奨されています。
また、貧血の進行が重度、または上記の薬剤が反応しない場合は、応急処置として輸血を行うケースもあります。
その他、私も使用経験はありますが、ヒト免疫グロブリンを注射して免疫反応を抑える方法もあります。
さらに、エビデンスは弱いですが、繰り返す再発や免疫抑制剤が効かないケースに対し、脾臓を外科的に摘出する「脾臓摘出」が適応となるケースもあります。
膀胱炎や尿石症の場合、特に繰り返してしまう場合は「ウラジロガラシエキス末」のようなサプリメントがオススメです。
その他、あまり日頃水を飲まない犬に関しては、ウエットフードを使ったり、ササミのゆで汁などを薄めて飲水を促したりすると良いでしょう。
尿量の増加が期待され、膀胱内での細菌の繁殖や結石の形成に対し、健康維持をサポートしてくれることが期待されます。
犬の血尿の治療費の目安は?
細菌性膀胱炎に関しては、2週間ほど抗生剤による治療を行った場合は、検査費用も含め1万円前後と思われます。
ストルバイト結石に関しては、食事療法で治療が行えるようであれば、使用するフードの値段により変動します。
シュウ酸カルシウム結石含め、手術による治療を行う場合は、概ね10万円前後となります。
膀胱腫瘍であれば、どのような治療を行うかにより大きく変動します。
NSAIDs単体による治療であれば、月に1~2万円程度と思われます。
抗がん剤単体による治療であれば、使用する抗がん剤により大きく変動しますが、月に2~4万円程度と思われます。
まとめ
日頃の診察において、犬の血尿はよくよく遭遇します。
特に繰り返す膀胱炎において、ホルモンの病気や膀胱の腫瘍が隠れていたケースも少なくありません。
しかも、血尿の程度が軽いと見過ごされていて、健康診断で気づくケースもあります。
尿の色や回数、量を日頃からチェックするとともに、高齢になったら定期的な健康診断を行いましょう。
参考資料
・Vet-i No.41
・Vet-i No.18
関連記事:猫の血尿の原因は?ストレスは関係ある?
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この記事を書いたのは

浅川雅清
獣医師
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、
ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年から1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。
現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修など幅広い業務を行っている
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