リンパ腫とは?
リンパ腫とは、リンパ節もしくはその他の実質臓器において、リンパ球が腫瘍性に増殖する悪性の腫瘍です。
実質臓器というは、肝臓や脾臓、腎臓のことを指しますが、目や脳神経、皮膚など、全身の至るところに発生が認められる腫瘍です。
猫のみならず、犬を含め様々な動物種で発生が認められています。
似た腫瘍の名前として、リンパ球性白血病という腫瘍がありますが、そちらは腫瘍細胞が骨髄中または血液中に認められるものを指し、区別されています。
リンパ腫には、様々な分類方法があります。
まず一つ、腫瘍の悪性度により、「高悪性度リンパ腫」と「低悪性度リンパ腫」の二つに大別されます。また、これらは腫瘍細胞の形態によりそれぞれ「低分化型リンパ腫」、「高分化型リンパ腫」とも呼ばれています。
次に、発生部位による分類もあり、体表リンパ節の腫大が主な「多中心型リンパ腫」、胃腸に主に病変を認める「消化管型リンパ腫」、前縦隔という胸の一部に主に病変を認める「縦隔型リンパ腫」、主に皮膚に病変を認める「皮膚型リンパ腫」などが主な種類です。
細胞の種類による細分類もありますが、ここでは割愛します。
猫において発生が多い種類は、消化管型リンパ腫、鼻腔内リンパ腫、腎リンパ腫、前縦隔型リンパ腫と言われています。
それらの分類により、症状や治療法、余命が大きく変わってきます。
リンパ腫の原因
細胞というのは、分裂・増殖をするにあたって、その生理的な範疇を超えて増殖しないようにプログラミングされています。
腫瘍細胞というのは、そのプログラムが何かしらの原因で破綻し、無秩序に、無限に増殖してしまうことから腫瘍を形成し始めます。
なぜ、そのプログラムが破綻してしまうかは現在研究が進められていますが、発がん物質や放射線などによる遺伝子へのダメージや、家系などの遺伝的な素因、腫瘍に対する免疫力の低下など、様々な原因が推測されています。
猫のリンパ腫の原因も上述した通りですが、猫特有のものとしては、猫エイズや猫白血病ウイルスに感染することにより、その発生率が上昇すると言われています。
特に、若齢でのリンパ腫の発生は、それらのウイルスの関与が疑われています。
リンパ腫になりやすい猫種
私の診察の経験上、特に発生に偏りがある猫種は無いイメージですが、シャム系の猫種において発生が多い傾向があるようです。
また、上述の通り、猫エイズや猫白血病が陽性の猫は、予めサプリメントなどでのケアを行ってあげたいですよね。
具体的なサプリメント成分としては、「乳酸発酵ハナビラタケ」や「タヒボエキス」などがおすすめです。
リンパ腫の症状
猫のリンパ腫の症状は、その発生部位により多種多様です。
消化管型リンパ腫
消化管型リンパ腫は胃腸管リンパ腫とも呼ばれ、消化器症状(嘔吐、下痢、軟便、食欲不振、体重減少など)が主に出てきます。
鼻腔内リンパ腫
鼻腔内リンパ腫は、呼吸器症状(鼻汁、鼻づまり、鼻出血、逆くしゃみ、咳、呼吸困難など)が主に出てきます。
その他、腎リンパ腫、前縦隔型リンパ腫などは、明確な症状を示さず、レントゲン検査やエコー検査、血液検査を行わないと発見することができないリンパ腫もあります。
関連記事:猫の鼻腔内腫瘍の最善の治療とは?必要な検査や費用とは?
リンパ腫の余命と治療法
猫のリンパ腫の治療法は、リンパ腫の種類や悪性度、ステージ分類、発生部位などにより大きく異なります。
ここでは、代表的なリンパ腫の種類による治療法とその余命についてまとめます。
まず、リンパ腫という腫瘍は、その他の腫瘍と異なり抗がん剤による治療が第一選択となります。
その理由は、抗がん剤への反応が良い腫瘍であり、また全身に播種しているケースが多い為、手術や放射線治療だとすべての腫瘍細胞に治療が届かない可能性がある為です。
ただし、皮膚表面や消化管の一部に発生したものや、鼻腔内に発生したものは、手術や放射線治療の適応となるケースがあります。
余命に関しても、悪性度が高いものは数か月で、悪性度が低いものは年単位での余命が予測され、その子その子によりバラバラであるのが実際のところです。
消化管型リンパ腫
消化管型リンパ腫は、消化管粘膜に一様に広がるタイプの、低悪性度の「小細胞性リンパ腫」と、消化管に大きなしこりを作る、抗悪性度の「大細胞性リンパ腫」に大きく区分されます。
小細胞性リンパ腫の場合、飲み薬での治療が行われることが多いです。
クロラムブシルやプレドニゾロンなどを使用することが多いと思われます。
治療への反応性は比較的良好で、長い子だと、2~3年以上の余命が見込まれるという報告が出ています。
大細胞性リンパ腫の場合、開腹手術による外科手術と抗がん剤を組み合わせた治療が行われることが多いです。
抗がん剤は、注射による治療(COP、CHOPプロトコルなど)が行われることが多いです。
手術とCHOPプロトコルの組み合わせで、生存期間中央値は14カ月という報告があり、またCOPまたはCHOPプロトコルのみでの治療での奏功期間は5~8か月と言われています。
小細胞性リンパ腫と比べて治療の反応が悪く、余命が短いケースが多くみられます。
鼻腔内リンパ腫
鼻腔内リンパ腫は、手術によるアプローチが難しい部位になるので、放射線治療や抗がん剤による治療が第一選択となります。
放射線治療と抗がん剤を組み合わせた治療においては、生存中央期間が2年6か月という報告があります。
放射線治療単体、抗がん剤単体(COP、CHOPプロトコル)の治療では、生存期間中央値は5か月程という報告もあります。
腎リンパ腫
腎リンパ腫は、その発生頻度は少ない為、治療の余命を予測することが困難です。
治療法は主に他のリンパ腫と同様で、抗がん剤が適応となります。
前縦隔型リンパ腫
前縦隔型リンパ腫は、主に猫白血病ウイルス陽性の若い猫に多いとされています。
こちらも他のリンパ腫と同様に、治療には抗がん治療が用いられ、完全寛解期間が約2年程度との報告があります。
また、積極的な治療を行わない場合や、ステロイド単体での治療の場合の余命は約1か月程度とされています。
リンパ腫の治療における抗がん剤のリスク
上述の通り、リンパ腫の治療は抗がん剤が治療の中心となります。
抗がん剤と聞くと、何度も嘔吐してしまったり、毛がごっそり抜けてしまったり、猫に大きな負担をかけてしまうのではないか?と心配になりますよね。
確かに、私の経験した症例でも、嘔吐や発熱などの副作用が出てしまった症例も経験はしています。
ただ、近年は良い吐き気止めなどの対処法や、副作用の起きるタイミングが分かってきていますので、適切に対処すれば大きなトラブルになることは少ないとされています。
では、具体的にどの抗がん剤でどのような副作用があるか、CHOPプロトコルをベースに解説します。
ドキソルビシン
・骨髄抑制
主に骨髄での白血球を作る働きが抑制されます。
投与後7日前後での発生が多く、感染への抵抗力が低下し、発熱を起こす可能性があります。
血液検査を行い、どの程度白血球が減少しているかにより、抗生物質による治療を行うかどうか判断します。
・消化器症状
消化管の粘膜上皮の細胞を傷害し、嘔吐や下痢、食欲不振などの症状が出ます。
こちらも、万が一症状が出た場合は、吐き気止めや下痢止めなどの対症療法を行います。
入院が必要なレベルまで症状が出てしまう場合は、投与量を減じて使用することもあります。
・脱毛、皮膚の色素沈着、ヒゲの脱落
毛根の細胞を傷害し、脱毛などの症状が出ます。
こちらは外見上の問題なので、問題が無ければ経過観察とします。
・心筋障害
心臓の筋肉に蓄積性の障害を起こします。
どれくらいの量を投与すると障害が発生するか既に判明しているため、概ね6回ほど投与したらそれ以降は類似の抗がん剤に変更するか、投与を中止します。
・血管外漏出による皮膚の壊死
ドキソルビシンは、血管に直接注射で投与する薬剤ですが、血管の外に漏れると重度の炎症を起こします。
ですので、投与前に留置針による血管確保を丁寧に行い、漏出が無いことを確認してから時間をかけて投与します。
・アレルギー反応
まれに薬剤に対するアレルギー反応が起き、蕁麻疹や血圧の低下などが起こります。
投与中はよく観察し、アレルギー反応が起きたと思われる場合は投与を中止します。
・腎障害
猫においては、ドキソルビシンが時々腎臓にダメージを与えてしまい、腎臓の数値が上昇することがあります。こちらは血液検査を行い、経時的にモニタリングを行います。
ビンクリスチン
- 骨髄抑制
- 消化器症状
- 末梢神経障害
ビンクリスチンは、時折神経にダメージを与え、消化管の動きなどを抑制してしまう副作用があるとされています。
- 血管外漏出による皮膚の壊死
シクロホスファミド
- 抑制
- 消化器症状
- 無菌性出血性膀胱炎
シクロホスファミドの代謝産物である「アクロレイン」が膀胱粘膜を傷害することにより、しつこい膀胱炎が起きる可能性があります。
血尿や頻回尿を呈し、一度起きるとなかなか治らない為、予防がとても重要とされています。
利尿剤であるフロセミドの同時投与が予防に用いられます。
プレドニゾロン(ステロイド)
- 多飲多尿、多食
- 肥満
- 消化器症状
- 肝臓の数値の上昇
- 筋肉量の低下
など、一般的なステロイドとしての副作用が認められる場合がありますが、抗がん剤と比べ副作用がマイルドであることが多いです。
リンパ腫の治療にかかる料金の目安
上述の通り、リンパ腫の治療はその個体ごとに治療法・余命が大きく変わります。
また、治療についても、どこまで行うかにより費用が大きく異なります。
料金も、病院ごと、また地域ごとにより差がある為、あくまで参考として頂ければ幸いです。
抗がん剤治療を行う場合
注射による抗がん剤治療(CHOPプロトコルなど)を行う場合、まずは抗がん剤が投与可能か、副作用が出ていないか確認のための血液検査が必要になります。
概ね1~2万円程度であることが多いと思います。
その後、問題なければ留置針を設置し、抗がん剤を投与します。
その費用で1~2万程度であることが多いと思います。
また、最初のうちは毎週上記の処置が必要となりますので、1か月で10~20万円程度はかかることが予測されます。
放射線治療に関しても、事前の検査、麻酔、放射線照射の費用で30万円以上はすることが予測されます。
もし、積極的な治療を行わず、ステロイド単体による治療を選択して、対症療法などと併せて緩和療法を行うとして、1か月で3~5万円程度はかかることが予想されます。
まとめ
リンパ腫は、猫において発生率が高い腫瘍です。
中には明らかな症状や激しい症状を伴わず、気づくことができないケースも多くあります。
そのためには、日頃の健康診断による早期発見・早期治療を行うとともに、サプリメントなどでの日頃のケアが重要になると思われます。
参考資料
・雑誌Oncology No.17 No.23
・獣医腫瘍学テキスト
・クリニックノート No.153
関連記事:犬のリンパ腫とは?余命や費用、抗がん剤の副作用は?
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この記事を書いたのは

浅川雅清
獣医師
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、
ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年から1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。
現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修など幅広い業務を行っている
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