猫の鼻腔内腫瘍とは?
鼻腔内腫瘍とは、鼻の中(鼻腔)にできた何かしらの腫瘍のことを指します。
猫においては、比較的よく遭遇する腫瘍です。
それでいて、進行するまであまり目立った症状が出ず、かつレントゲン検査などでも判別がつきにくい腫瘍でもあります。
猫の鼻腔内腫瘍でよく起こる種類としては、リンパ腫(40%程を占める)、腺癌、肉腫、扁平上皮癌などの悪性の腫瘍から、鼻咽頭ポリープのような良性の腫瘍が挙げられます。
今回は、それらの腫瘍の検査や治療法について解説します。
猫の鼻腔内腫瘍の原因は?
現在のところ、鼻腔内腫瘍が発生してしまう直接的な原因は不明です。
発がん物質や放射線などによる遺伝子へのダメージや、家系などの遺伝的な素因、腫瘍に対する免疫力の低下など、様々な原因が推測されています。
リンパ腫においては、猫エイズや猫白血病の感染との関連が疑われていますが、鼻腔内でのリンパ腫においては、猫エイズや猫白血病が陰性の高齢の猫において発生が多いと言われています。
また、鼻腔内は空気とともに様々な物質(排気ガスやタバコの煙など)と触れる場所である為、そのような外的な要因も有り得ると推測されています。
関連記事:猫のリンパ腫はどんな病気?抗がん剤・ステロイド治療や余命など
猫の鼻腔内腫瘍の症状は?
猫の鼻腔内腫瘍の症状として、以下のようなものが挙げられます。
- くしゃみ/鼻水
- 鼻がつまる/呼吸が苦しそう
- 鼻血が出る
- 顔面が変形する/鼻筋が盛り上がる
- 目の位置が外側になる
- よく眠る
- いびきをかく
- 元気がない
- 食欲がない/食べづらそう
- やせてくる
初期症状としては、無症状であったり、くしゃみや鼻水などの軽度な症状であったりすることが多いです。
特に鼻血がある場合は、腫瘍を強く疑います。
さらに、顔面の変形や目の変位がある場合は、進行している可能性が高まります。
猫において、慢性鼻炎や猫カゼなどからくしゃみや鼻水はよく起こる症状ですが、治りが悪かったり、長引いたりするようであれば、検査を行うことを推奨します。
関連記事:猫がくしゃみをするのは花粉症?アレルギー?花粉症の症状や対策解説
猫の鼻腔内腫瘍の診断に必要な検査は?
猫の鼻腔内腫瘍の診断に必要な検査で最初に行うものは、主に画像検査になります。
鼻腔という領域は、骨で囲まれている為、超音波検査が使用できないことが多いです。
結果として、一般的な動物病院で行う検査としては、レントゲン検査が中心となります。
上述の症状が認められた場合は、頭部のレントゲン検査を行います。
鼻腔内に腫瘍を思わせる陰影がないか、骨が破壊されている所見がないか、などを中心に確認します。
レントゲン検査で所見がある、もしくはレントゲン検査で判断がつかない場合は、設備がある病院で内視鏡検査やCT検査を行います。
内視鏡検査であれば、実際に鼻腔内に内視鏡を挿入し、腫瘍があるかどうか確認を行うことができます。
可能であれば、そのまま鉗子で腫瘍の一部を回収し、病理学的検査を行うケースもあります。
また、CT検査であれば、レントゲン検査よりさらに感度が高く腫瘍の有無を確認することができます。
猫の鼻腔内腫瘍の治療と予後は?
猫の鼻腔内腫瘍の治療と予後(余命)は、腫瘍の種類により大きく異なります。
鼻咽頭ポリープ
鼻咽頭ポリープは良性の腫瘍である為、再発が無ければ経過は良好です。
外科的にポリープを切除する治療が中心となります。
ポリープは鼻腔内の他、耳や鼓室にも発生しているケースがある為、鼓室包切開などの手術も併用することがあります。
鼻腔内リンパ腫
鼻腔内リンパ腫は、手術によるアプローチが難しい部位である為、放射線治療や抗がん剤による治療が第一選択となります。
放射線治療での予後(余命)については、その治療内容により差があるものの、いくつか報告がされています。
放射線治療単独の場合、生存期間中央値は約5~12か月ほどと報告されています。
そこに抗がん剤を組み合わせた治療においては、生存中央期間が2年6か月という報告があります。
抗がん剤単体(COP、CHOPプロトコル)の治療では、生存期間中央値は5か月程という報告もあります。
表1 抗がん剤プロトコル(COP)の1例
|
第1週 |
ビンクリスチン | 単回 静脈内投与 |
| シクロホスファミド | 単回 経口(静脈内)投与 | |
| プレドニゾロン | 1日1回 経口投与 | |
| 第2週 | ビンクリスチン | 単回 静脈内投与 |
| プレドニゾロン | 1日1回 経口投与 | |
| 第3週 | ビンクリスチン | 単回 静脈内投与 |
| プレドニゾロン | 1日1回 経口投与 | |
|
第4週 |
ビンクリスチン | 単回 静脈内投与 |
| シクロホスファミド | 単回 経口(静脈内)投与 | |
| プレドニゾロン | 2日に1回 経口投与 | |
| 第5週 | プレドニゾロン | 2日に1回 経口投与 |
| 第6週 | プレドニゾロン | 2日に1回 経口投与 |
|
第7週 |
ビンクリスチン | 単回 静脈内投与 |
| シクロホスファミド | 単回 経口(静脈内)投与 | |
| プレドニゾロン | 2日に1回 経口投与 | |
| 第8週 | プレドニゾロン | 2日に1回 経口投与 |
| 第9週 | プレドニゾロン | 2日に1回 経口投与 |
しかし、いずれの治療も完治(腫瘍細胞が完全に無くなる)することは難しく、いかに寛解(検出できる腫瘍が無い状態)している期間を長くできるかが治療の目標となります。
放射線治療も抗がん剤治療も、副作用が現れる可能性があります。
そのため、場合によっては上記のような積極的な治療を行わず、抗生物質やステロイド剤などで対症療法による治療を行うケースもあります。
腺癌
リンパ腫と比べて腺癌は報告が少なく、治療に関する情報も限定されています。
猫の鼻腔腺癌の多くは、遠隔転移が少なく局所的な浸潤が中心となる挙動を示すため、治療は主に放射線治療を行います。
ある報告によると、放射線治療での生存期間中央値は約1年とされています。
抗がん剤治療に関しては、それ単体での治療に関する報告が少ない為、正確な予後(余命)を推測するのは難しいとされています。
主には、放射線治療と併用して抗がん剤治療を行うのが一般的です。
よく用いられる抗がん剤の種類としては、注射薬ではカルボプラチンやドキソルビシンといったものが挙げられます。
近年、犬の肥満細胞腫の治療薬として承認を受けた抗がん剤である「トセラニブ」の有効性が期待されており、1日おき、又は週3回の飲み薬で治療を行うこともあります。
表2 抗がん剤プロトコル(カルボプラチン)の1例
| 第1週 | カルボプラチン | 単回 静脈内投与 |
| 第2週 | 血液検査のみ | |
| 第3週 | 血液検査のみ | |
| 第4週 | カルボプラチン | 単回 静脈内投与 |
| 第5週 | 血液検査のみ | |
| 第6週 | 血液検査のみ | |
表3 抗がん剤プロトコル(ドキソルビシン)の1例
| 第1週 | ドキソルビシン | 単回 静脈内投与 |
| 第2週 | 血液検査のみ | |
| 第3週 | 血液検査のみ | |
| 第4週 | ドキソルビシン | 単回 静脈内投与 |
| 第5週 | 血液検査のみ | |
| 第6週 | 血液検査のみ | |
その他、お薬による治療以外として、サプリメントであれば腫瘍には「タヒボエキス」などがオススメです。
猫の鼻腔内腫瘍の治療費の目安は?
猫の鼻腔内腫瘍の治療費は、腫瘍の種類や重症度、動物病院により大きく異なります。
鼻咽頭ポリープ
手術による鼻咽頭ポリープの切除の費用は、ポリープの発生した部位により異なります。
内視鏡や肉眼で確認できる場合もあれば、耳の付近で発生する場合もあり、症例により様々です。
場合により、耳からアプローチする場合もあり、手術費用は症例により大きく異なります。
鼻腔内リンパ腫
リンパ腫は、抗がん剤の感受性が高いケースが多い為、抗がん剤による治療が中心となります。
注射による抗がん剤治療(CHOPプロトコルなど)を行う場合、まずは抗がん剤が投与可能か、副作用が出ていないか確認のための血液検査が必要になります。
検査の費用で概ね1~2万円程度であることが多いと思います。
その後、問題なければ留置針を設置し、抗がん剤を投与します。
その費用で1~2万円程度であることが多いと思います。
また、最初のうちは毎週上記の処置が必要となりますので、1か月で10~20万円程度はかかることが予測されます。
放射線治療に関しても、事前の検査、麻酔、放射線照射の費用で30万円以上はすることが予測されます。
もし、積極的な治療を行わず、ステロイド単体による治療を選択して、対症療法などと併せて緩和療法を行うとして、1か月で1~3万円程度はかかることが予想されます。
腺癌
腺癌は、その発生部位から手術が難しいことが多く、メインの治療法は放射線治療になります。
リンパ腫と同様に、事前の検査、麻酔、放射線照射の費用で30万円以上はすることが予測されます。
もし、費用や設備の都合上、放射線治療が行えない場合は、抗がん剤による治療を検討します。
注射による抗がん剤治療(ドキソルビシン、カルボプラチンなど)を行う場合、リンパ腫同様にまずは抗がん剤が投与可能か、副作用が出ていないか確認のための血液検査が必要になります。
検査の費用で概ね1~2万円程度であることが多いと思います。
その後、問題なければ留置針を設置し、抗がん剤を投与します。
その費用で1~2万円程度であることが多いと思います。
トセラニブの場合は、動物病院で処方された後、自宅での投与となりますので、月2~3万円ほどと思われます。
まとめ
猫の鼻腔内腫瘍は比較的多く遭遇するものの、初期は顕著な症状が出にくい腫瘍です。
検査や治療も、鼻腔内であるが故に制限されてしまうのが現状です。
進行してからはより治療が難しくなるので、気がかりな症状がある場合は早めの受診を心掛けましょう。
参考資料
・Veterinary Oncology NO.31
・Veterinary Oncology NO.37
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この記事を書いたのは

浅川雅清
獣医師
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、
ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年から1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。
現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修など幅広い業務を行っている
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