猫の脳腫瘍とは?
脳に発生する腫瘍を総じて「脳腫瘍」と呼びます。
人において、脳そのものから発生する「原発性脳腫瘍」と、それ以外の部位に発生した腫瘍が脳に転移する「転移性脳腫瘍」に大きく分けられます。
原発性脳腫瘍は、病理組織検査や遺伝子検査によって150種類以上に細かく分類されているようです。
主な原発性脳腫瘍として、以下のような腫瘍が知られているようです。
- 神経膠腫(グリオーマ)
- 中枢神経系原発悪性リンパ腫
- 髄膜腫
- 下垂体腺腫
- ホルモン産生腺腫
- 神経鞘腫
- 頭蓋咽頭腫
猫の脳腫瘍については、まだ詳細な研究がなされていないのが現状です。
発生が多い腫瘍の種類としては、
・髄膜腫
脳を覆っている「髄膜」という部分の細胞から発生する腫瘍
・神経膠腫(グリオーマ)
脳の神経細胞そのものから発生する腫瘍(星状膠細胞腫、希突起膠細胞腫など)
報告されている限り上記の他、上衣腫、嗅神経芽腫、脈絡叢腫瘍などが知られています。
また、人と同様に腫瘍性の脳腫瘍が発生することもあります(リンパ腫など)。
猫においては、「髄膜腫」の発生が多いとされてはいますが、犬と比べて比較的発生が少ないと言われています。
猫での脳腫瘍の発症年齢の中央値は10歳と言われており、中高齢になると発生することが多いようです。
ここでは、猫におけるそれらの腫瘍の症状や治療、余命に関して解説していきます。
猫の脳腫瘍の原因とは?

猫における脳腫瘍の発症メカニズムについては、現在の獣医学においても明確な原因は解明されていないのが実情です。
ただし、いくつかの可能性のあるリスク要因については、研究や臨床の現場から推測されています。その主なものとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 発がん性物質への曝露
- 放射線の影響
- 品種や遺伝的な要因
- 加齢
- 腫瘍への免疫力の低下
また、猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)といったウイルス感染が間接的に腫瘍形成に関与する可能性も指摘されていますが、これらが脳腫瘍の直接的な原因であるとはまだ証明されていません。
脳腫瘍の症状は?
脳腫瘍の症状は特徴的なものは少なく、他の病気でも見られる症状と類似しているため、症状からの判断がとても難しい疾患です。
症状は主に、脳が腫瘍で圧迫されることから出ることが多いとされています。
ですので、良性・悪性問わず治療が必要になるケースが多いです。
初期症状としては「不定愁訴」と呼ばれる、はっきりしない体調不良のような症状が見られることがあります。
具体的には以下のようなものが挙げられます。
- 元気が無い
- 食欲がない
- 高い場所にジャンプしなくなった
- 歩きたがらない
- 歩行時にふらつく など
これらの症状は、加齢や関節疾患などでも見られるため、「年齢のせいかな?」と見逃してしまうことも少なくありません。
腫瘍が進行し脳への圧迫が強くなると、より明確な神経症状が現れます。
- 痙攣やてんかんのような発作
- 目が見えてない(失明)
- 物にぶつかる
- 瞳孔の大きさが異常
- 意識が朦朧とする
- 足が麻痺してしまう
- 同じ方向にくるくる回り続ける(旋回行動) など
しかし、そのような典型的な症状が必ずしもみられるわけではなく、痙攣発作に関しては19%、意識レベルの低下は48%と言われています。
その他、視覚異常は93%、麻痺は83%で認められたという報告もあるようです。
特に、今までそういった症状がなかったのに、高齢になって神経症状が突然出てきた場合は、脳腫瘍である確率が高まります。
また、徘徊や夜泣きなどの症状があり、「高齢だから認知機能の低下かな?」と思っていたら実は脳腫瘍だった、というケースもあります。
関連記事:猫の夜鳴きは認知症が原因?認知機能の低下で見られる6つの症状と対処法
猫の脳腫瘍の診断は?

猫の脳腫瘍の診断は、腫瘍が頭蓋骨という骨の中に存在する為、決して簡単ではないのが現状です。
診断の初期としては、血液検査やレントゲン検査、超音波検査などを行います。
しかしこれらの検査では、脳腫瘍に特徴的な所見を見つけることはほとんどできません。
上述の症状と、全身麻酔下でのMRI検査にて、暫定的な診断を行ってから治療に進むことが多いです。
ただし、MRI検査を行うには全身麻酔が必要で、高度な検査設備を備えた動物病院への紹介が必要な場合がほとんどです。
費用としても、10~20万円と比較的高額であることから、すべての症例で実施できるわけではありません。
さらに腫瘍の診断は本来、外科的な摘出の後、病理組織検査を行い診断します。
その後、適切な治療を選択することが多いですが、脳という部位である為、手術を実施するケースはあまり多くないのが現状です。
現実的にはMRIで得られた所見をもとに暫定的な診断を行い、それに基づいた治療を進めるケースが一般的です。
猫の脳腫瘍の余命と治療法は?
猫の脳腫瘍の予後(余命)は、脳腫瘍の種類・治療により大きく異なる上、症例が多くなく情報が集まっていないのが現状です。
治療法に関しては、他の腫瘍と同様に、外科手術、放射線治療、抗がん剤による治療が中心となります。
猫の髄膜腫は被膜に包まれ、周囲との境界が明瞭であるケースが多い為、手術による治療での余命が良好と言われています。
ですので、治療としても第一選択は手術と言われています。
報告されている術後の生存期間中央値は約2~3年ほどのようです。
術後の再発率は20%程度、平均して術後9.5か月程度での再発が多いと報告されています。
ただし、高齢での発症が多い為、また脳という部位の為、手術が積極的に行われるケースは少なく、緩和ケアを行う場合も少なくありません。
また、放射線治療は可能な施設が限られており、頻回の全身麻酔から費用面も気になります。
抗がん剤もそこまで顕著に効果があるものは少なく、年齢的にも対症療法(抗痙攣薬やステロイド)を行い、緩和ケアをするケースが多いのが実際です。
その他、サプリメントなどで体調をサポートしてあげる方法が用いられます。
てんかん発作には「フランス海岸松樹皮抽出物(ピクノジェノール)」、腫瘍には「タヒボエキス」などがオススメです。
猫の脳腫瘍における抗がん剤治療とは?

猫の脳腫瘍においては、有効とされる抗がん剤治療はまだ報告されていません。
特に、脳には血液脳関門(BBB)と呼ばれるバリアが存在し、抗がん剤が効きにくいと言われています。
そんな中、BBBを通過しやすいとされるロムスチンやシタラビンなどは使用したという報告があるようです。
しかし、これらの抗がん剤やステロイド剤には副作用が存在する為、注意が必要です。
①ロムスチン(CCNU)
・骨髄抑制
主に骨髄での白血球を作る働きが抑制されます。
投与後7~14日前後での発生が多く、感染への抵抗力が低下し、発熱を起こす可能性があります。
血液検査を行い、どの程度白血球が減少しているかにより、抗生物質による治療を行うかどうか判断します。
また、ロムスチンは血小板も減少するのが特徴で、ロムスチンの投与回数が多くなるにつれて徐々に出てきて、投与を中止しても持続するケースがあります。
・肝障害
ロムスチンは肝臓で代謝される為、投与後に肝臓の数値が上昇することがしばしばあります。
ロムスチンの投与回数が多くなるにつれて、慢性進行性に数値が上昇していくケースが多いようです。
その場合は、腫瘍の進行具合を鑑みながら、投与を中止したり、肝臓を保護するようなお薬やサプリメントなどで対処を行います。
・消化器症状
ロムスチンは、胃腸の障害は多くないとされています、
消化管の粘膜上皮の細胞を傷害し、嘔吐や下痢、食欲不振などの症状が出ます。
こちらも、万が一症状が出た場合は、吐き気止めや下痢止めなどの対症療法を行います。
入院が必要なレベルまで症状が出てしまう場合は、投与量を減じて使用することもあります。
・蓄積性の腎障害
こちらもまれな副作用と言われていますが、ロムスチンを使い続けると、腎臓の数値が上昇することがあります。
②シラタビン
- 骨髄抑制
- 薬剤に対するアレルギー反応
- 消化器症状
- 催奇形性、変異原性
妊娠中の動物への使用は注意が必要です。
③プレドニゾロン(ステロイド)
- 多飲多尿、多食
- 肥満
- 消化器症状
- 肝臓の数値の上昇
- 筋肉量の低下 など
一般的なステロイドとしての副作用が認められる場合がありますが、抗がん剤と比べ副作用がマイルドであることが多いです。
猫の脳腫瘍の治療費は?
猫の脳腫瘍の治療方法は様々であり、腫瘍の種類やステージより、治療費は大きく異なります。
一般的な脳の外科手術は100~150万円程度、放射線治療は50~100万円程度と言われています。
まとめ
猫の脳腫瘍の原因や治療、余命に関しては、まだまだ情報が少ないのが現状です。
また高齢での発生が多い為、積極的な治療に踏み込むのは躊躇してしまいますよね。
猫自身の体調に合わせた検査を行い、負担にならない治療を選択してあげることが重要だと思います。
またそういった時こそ、サプリメントを上手く使って、少しでも生活の質を向上させてあげられると良いかと思います。
参考資料
・「脳腫瘍との向き合い方」セミナー 金園先生
・雑誌Oncology No.22
・雑誌Oncology No.23
・がん情報サービス
関連記事:猫も癌(がん)になる?猫のおもな癌の種類と治療法・予防法について
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この記事を書いたのは

浅川雅清
獣医師
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、
ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年から1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。
現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修など幅広い業務を行っている
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