「猫はひとりが好き」と思われがちですが、実際には人と深く結びつき、飼い主さんの存在に強く依存している猫も少なくありません。
こうした猫たちは、飼い主さんが留守にするだけで強い不安を感じる「分離不安症」と呼ばれる状態におちいることがあります。
今回は、猫の分離不安症について、原因、症状、なりやすい猫の傾向、予防や対策、さらに受診が必要なケースまで、徹底的に解説します。
猫の分離不安症とは?

猫の分離不安症とは、飼い主さんと離れることに対して強いストレスや不安を感じ、精神的にも身体的にも不安定な状態におちいった状態をいいます。
その結果、飼い主さんの外出をきっかけに、過剰な鳴き声、破壊行動などの問題行動を引き起こすようになり、ひどくなると姿が見えなくなっただけで分離不安の症状が見られるようになります。
これらの行動は猫の強いストレス反応であり、けっして単なるワガママやしつけの問題ではありません。
また、分離不安症を放置して症状が悪化すると、ストレスに起因するさまざまな病気の原因になりえます。
猫の分離不安症の原因
猫の分離不安の原因は多岐にわたり、特定することが難しい場合もありますが、大きく分けると以下の3つに分類することができます。
- 飼い主さんへの過度の依存
- 生活環境の大きな変化
- 過去のトラウマ
それでは、詳しく見ていきましょう。
飼い主さんへの過度の依存
猫の分離不安でいちばんに考えられるのが、飼い主さんへの依存です。
飼い主さんに過度に依存している場合、たとえ短時間の外出でも「置き去りにされた」と感じ、強い不安や寂しさを覚え、分離不安の原因となるのです。
猫は本来マイペースな生き物ですが、幼少期から飼い主さんとの密なスキンシップが続いていたり、飼い主さんが常に反応してくれる環境に慣れると「ひとりで過ごす力」が育ちにくくなります。
とくに、四六時中飼い主さんのあとをついてくる、いつも一緒にいたがるという甘えん坊の猫は注意が必要です。
飼い主さんへの依存が強くなりがちで、分離不安症予備軍と言えるでしょう。
生活環境の大きな変化
生活環境の変化は猫に大きなストレスを与え、分離不安症を引き起こす可能性があります。
たとえば、以下のような変化が原因としてあげられます。
- 引っ越し
- 家具の配置換え
- 家族構成の変化
- 新しいペットを迎え入れる
上記のように、慣れ親しんだ縄張りが変化することは、猫にとっては大きな事件です。
心身ともに非常に不安定な状況になり、強い不安を感じるようになります。
その結果、飼い主さんへの依存が高まり、飼い主さんが見えなくなるとさらに不安が増幅され、分離不安症におちいるのです。
過去のトラウマ
過去のトラウマも、猫の分離不安症の原因となることがあります。
たとえば、過去に人間に捨てられた経験がある、留守番中に雷が鳴って怖い思いをしたなどのネガティブな体験が原因になりえます。
これらの体験は、飼い主さんが外出すると「また捨てられるのではないか」「怖いことが起きたらどうしよう」という強い不安感として再燃し、分離不安症の症状を引き起こすことがあるのです。
猫の分離不安症の症状
猫の分離不安症では、行動や体にさまざまな変化が見られるようになります。
その症状は猫によって千差万別とも言えます。
ここでは、分離不安症の猫によく見られる症状をいくつか紹介します。

過剰に鳴く
猫の分離不安症の代表的な症状のひとつに「過剰に鳴く」があります。
飼い主さんが家を出るとすぐに、猫は普段よりも大きな声で、長時間鳴き続けることがあります。
これは、飼い主さんを呼んでいるサインであり、不安や寂しさを訴えている行動です。
ご近所トラブルに発展してしまうケースもあり、飼い主さんにとっても精神的な負担になりがちです。
過剰な毛づくろい

猫は日頃からストレスを感じたりしたときに、不安や緊張を和らげるために毛づくろいをすることがあります。
これは、防衛反応の一種で正常な猫にも見られる行動です。
しかし、飼い主さんの不在時に脱毛や皮膚が炎症を起こすほど舐めつづけるようになったら要注意。
分離不安症が疑われます。
また、過剰な毛づくろいがエスカレートすると、自傷行為に発展することもあるため油断できません。
家具などの破壊行為
飼い主さんの不在時に、家具や壁、カーテンなどを引っ掻いたり、噛んだりして破壊する行為も分離不安症の症状です。
不安やストレスからくる欲求不満のはけ口や、飼い主さんの気を引くためにおこなわれることがあります。
帰宅したときに、壊された家具や荒らされた室内を見て、猫を叱りたくなるかもしれませんが、不安や寂しさからの行動ですから、叱っても意味はありません。
激しい後追い
分離不安症の猫は、飼い主さんが家の中にいるときでも、常に後追いをする傾向があります。
たとえば、飼い主さんが部屋を移動するたびにあとを追いかけ、少しでも離れると不安げな様子を見せるようになるでしょう。
これは、飼い主さんの姿が見えないことに対して強い不安を感じてるからです。
一見すると「甘えん坊」に見えますが、その裏には分離への強い不安や恐怖が潜んでいるのです。
トイレ以外での排泄(粗相)

ストレスや不安が原因で、猫がトイレ以外の場所で排泄してしまうことがあります。
とくに、飼い主さんのベッドや衣服など、飼い主さんの匂いが強く残っている場所での粗相は、分離不安症の典型的な症状です。
これは、飼い主さんの匂いに囲まれることで安心感を得ようとする行動だと考えられます。
トイレ環境に問題がなく、ほかに粗相の原因が考えられない場合は、分離不安症を疑う必要があります。
叱ることでさらに症状が悪化する可能性があるため、注意が必要です。
分離不安症になりやすい猫の特徴
分離不安症になりやすい猫には、いくつかの特徴が見られます。
たとえば、過度に甘えん坊で、飼い主さんへの依存度が高い猫は、分離不安症を発症しやすい傾向にあります。
とくに、子猫の頃から常に飼い主さんと一緒にいて、ひとりでいる状態に慣れていない猫は、飼い主さんがいなくなることに対して強い不安を感じやすいです。
さらに、多頭飼いの環境よりも、単頭飼いで飼い主さんと密接な関係を築いている猫のほうが、分離不安症になりやすい傾向があるとも言われています。
次に、臆病で繊細な性格の猫も、ストレスに対する耐性が低いため、分離不安症になりやすいと言えるでしょう。
環境の変化や些細な物音にも敏感に反応し、不安を感じやすい気質を持っています。
また、幼い頃に母猫から早く引き離され離乳した猫も、分離不安症を発症するリスクが高いです。
猫の分離不安症の予防と対策
分離不安症は、猫への日頃の接し方や環境を整えることによって、ある程度予防や改善が可能です。
すでに症状があらわれている猫に対しても、適切な対応を継続することで改善が見られる場合もあります。
ここでは、すぐにはじめられる予防と対策を紹介します。

留守番の練習をする
いきなり長時間の留守番は猫にとって大きなストレスになりかねません。
まずは、数分〜10分程度の留守番からはじめましょう。
練習の手順は以下となります。
- 猫に気づかれないように外出して、すぐに戻る
- おとなしく待てたら褒める
- 徐々に時間を延ばしながら、1〜2をくり返す
この練習では、飼い主さんが外出しても「必ず戻ってくる」という安心感を得られるようにすることが大切です。
また、短時間からはじめて徐々に時間を延ばしていくことがポイントとなります。
過度なスキンシップを控える
猫がかわいくて、つい構いすぎてしまうのは飼い主さんとして自然なことです。
しかし、四六時中べったりと一緒に過ごす生活は、猫の自立心を奪い、依存傾向を強めてしまうことがあります。
こうした状態は、分離不安の原因にもなやりやすく注意が必要です。
猫の自立を促すには、ひとり遊びの時間をつくったり、寝ているときにはそっと見守ったりして「ひとりでも安心して過ごせる」ようにしてあげることが大切です。
安心して過ごせる場所を作る
猫が安心して過ごせる安全な場所を提供することは、分離不安症の対策において非常に重要です。
キャットタワー、ケージ、または静かで人目につかない部屋の一角などに、猫がリラックスできる隠れ家を用意してあげましょう。
隠れ家には、猫のお気に入りのおもちゃやブランケット、自分の匂いがついたものなどを置いて、安心できる空間であることを認識させます。
猫にとって隠れ家は、留守番中になにかあったときに避難したり、不安を感じた際に落ち着きを取り戻すための場所にもなります。
留守番をポジティブなイメージにする
留守番に対してトラウマを抱えている猫や、ネガティブなイメージを持っている猫には、留守番をポジティブな体験に変える工夫が有効です。
飼い主さんが出かけて1人になることを「怖い」「不安」と感じさせないよう、出かける前にはおやつやお気に入りのおもちゃを与えて「留守番=ポジティブ」な体験として関連づけるのがおすすめです。
また、自動給餌器を利用して、いつもとは違うお気に入りの食事を与えるのもよいでしょう。
「留守番中は楽しいことがある」と感じられれば、不安は徐々に軽減していきます。
猫を刺激しないように静かに出かける
外出時に猫と大げさに別れのあいさつをするのは逆効果です。
「行ってくるね!」「ごめんね、留守番しててね」と声をかけたり、何度も振り返って手を振るような行動は、猫に「何か不安なことが起きる」と感じさせてしまいます。
出かけるときはできるだけさりげなく、猫に気づかれないように静かに出て行くのが理想です。
帰宅時も騒がず、落ち着いて対応しましょう。
飼い主さんの外出を、なんでもない日常の一部として感じられるようになれば、猫も次第に落ち着いて受け入れられるようになります。
問題行動を叱らない
鳴き声、粗相、破壊行動など、飼い主さんの留守中に起きる問題行動に対して、帰宅後に怒るのは逆効果です。
猫はなぜ叱られているのかを理解できず、反対に「帰ってきたら怒られた」というネガティブな記憶だけが残ります。
飼い主さんへの信頼を損ねる結果にもなりかねません。
分離不安症に基づく行動には、叱るのではなく原因を理解して改善につなげることが大切です。
まずは根本にある「不安」や「寂しさ」を取り除くことが先決です。
猫の分離不安症での受診の目安と治療法
分離不安症の対策をおこなっても改善が見られないときは、動物病院への受診をおすすめします。
とくに、過剰な毛づくろいで皮膚に炎症が起きている、破壊行動がエスカレートしているなど、悪化していると感じられる場合は早めに受診しましょう。
治療としては、生活習慣の見直しや生活環境の改善、猫に安心感を与えるためのトレーニング(留守番の練習など)をおこなうのが一般的です。
症状が重い場合は、抗不安薬やサプリメントなどの薬物療法も検討されます。
また、状況に応じて動物行動学を専門とする獣医師のアドバイスを受けるのもよいでしょう。
まとめ
猫の分離不安症は、飼い主さんへの強い依存や環境の変化、過去のトラウマなどが原因で起こります。
甘えん坊な性格の猫や単頭飼いの猫に多く見られ、鳴きつづける、粗相をする、過剰な毛づくろいをするなどの行動が特徴です。
分離不安症の予防には、日頃から適度な距離を保ち、ひとりで過ごす時間を作るなどして自立を促すことが大切です。
また、留守番の練習や安心できる環境づくり、静かな外出を意識することで、不安を和らげ、安心して留守番ができるようになるでしょう。
もし、これらの対策をしても改善が見られない、悪化するという場合は、早めに獣医師に相談することをおすすめします。
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この記事を書いたのは
ネコヤ カエ
愛玩動物救命士|猫疾病予防管理士|猫健康管理士|犬猫行動アナリスト|
ペット災害危機管理士3級|猫のシニア生活健康アドバイザー|ペットフード/ペットマナー検定
2019年よりフリーライターとしての活動を開始。
ペット専門のライターとしてWebメディアや動物病院HPなどでコラムを多数執筆。
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