脳腫瘍とは?
脳に発生する各種の腫瘍を総じて「脳腫瘍」と呼びます。
主な腫瘍の種類としては「髄膜腫」という、脳の「クモ膜」という部分の細胞から発生するものや、「グリオーマ」という、脳の神経細胞そのものから発生する腫瘍などが挙げられます。
ここでは、犬におけるそれらの腫瘍の症状や治療、余命に関してまとめました。
脳腫瘍の原因とは?
犬の脳腫瘍において、その具体的な原因は明らかになっていません。
発がん物質や放射線などによる遺伝子へのダメージや、家系などの遺伝的な素因、腫瘍に対する免疫力の低下など、様々な原因が推測されていますが、脳腫瘍において、現時点で特定されている原因はほぼ無いと思われます。
脳腫瘍の種類とは?
犬の脳腫瘍は、明確に「悪性」と「良性」に分けるような分類はされておらず、例えば「髄膜腫」の中でも、良性寄りの「グレード1」から、悪性寄りの「グレード3」のように、病理学的な特徴からグレード分類がされています。
ここでは、よく発生する脳腫瘍の種類をご紹介します。
髄膜腫
脳の「クモ膜」という部分の細胞から発生する腫瘍で、犬の脳腫瘍の中で約50%を占めるとされる、発生頻度の高い腫瘍です。
ゆっくり進行し、大きくなり脳を圧迫することで様々な症状を引き起こします。
グリオーマ(神経膠腫)
脳の神経細胞そのものから発生する腫瘍で、犬の脳腫瘍の中で約20~30%を占めるとされる、髄膜腫に続いて発生頻度の高い腫瘍です。
星状膠細胞腫、希突起膠細胞腫、膠芽腫などが分類され、比較的進行が早く、浸潤性も強いとされています。
脈絡叢腫瘍
脈絡叢という、脳脊髄液を産生する細胞から発生する腫瘍で、割合としては少ないですが、犬で3番目に多い腫瘍です。
第四脳室、第三脳室、側脳室といった部位に発生することが多いとされています。
ゴールデンレトリバーでの発生が多いとされています。
組織球性肉腫
こちらは脳の細胞ではなく、白血球の1種である「組織球」というものが腫瘍化したもので、主に脳の「軟膜」という部分に発生することが多いです。
日本ではコーギーやゴールデンレトリバーに多く発生し、比較的進行が速い腫瘍です。
脳腫瘍の症状は?
脳腫瘍の症状は特徴的なものは少なく、他の病気でも見られる症状と類似しているため、症状からの判断がとても難しい疾患です。
主に、脳が腫瘍で圧迫されることから症状が出ることが多いです。
初期症状としては、元気が無い、食欲がない、ジャンプしない、歩き方がおかしい、などの症状が認められることがあります。
進行してくると、よく見られるのが痙攣やてんかんのような発作です。そのほか、失明や意識が朦朧とする、足が麻痺してしまう、などの神経症状が認められます。
特に、今までそういった症状がなかったのに、高齢になって神経症状が突然出てきた場合は、脳腫瘍を積極的に疑うケースです。
また、徘徊や夜泣きなどの症状があり、高齢だから認知機能の低下かな?と思っていた子が、実は脳腫瘍だった、というケースもあります。
脳腫瘍の診断は?
犬の脳腫瘍の診断は、なかなか難しいのが現状です。
血液検査やレントゲン検査、超音波検査などでは、脳腫瘍に特徴的な所見を見つけることはほとんどできません。
上述の症状と、全身麻酔下でのMRI検査にて、暫定的な診断を行ってから治療に進むことが多いです。
本来、それ以外の腫瘍であれば、外科的な摘出の後、病理組織検査にて確定診断をつけてから治療を行うことが多いですが、脳という部位である為、手術を実施するケースはあまり多くありません。
脳腫瘍の余命と治療法は?
脳腫瘍の余命は、脳腫瘍の種類により大きく異なります。
治療法に関しては、他の腫瘍と同様に、外科手術、放射線治療、抗がん剤による治療が中心となります。
ただし、高齢の犬での発症が多い為、また脳という部位の為、手術が積極的に行われるケースは少ないです。
また、放射線治療は可能な施設が限られており、頻回の全身麻酔から費用面も気になります。
抗がん剤もそこまで顕著に効果があるものは少なく、年齢的にも対症療法(抗痙攣薬やステロイド)を行い、緩和ケアをするケースが多いのが実際です。
その他、サプリメントなどで体調をサポートしてあげる方法が用いられます。
てんかん発作には「フランス海岸松樹皮抽出物(ピクノジェノール)」、腫瘍には「タヒボエキス」などがオススメです。
髄膜腫
無治療もしくはステロイド単体の治療ですと、数か月で症状が進行し、亡くなってしまうと言われています。
抗がん剤(ロムスチン、ヒドロキシウレアなど)とステロイドを併用して、中央生存期間は約1年程度と報告されています。
手術においては、脳腫瘍の発生部位や大きさ、進行の具合により異なりますが、手術単体だと中央生存期間は6か月~2年、手術と放射線を併用すると中央生存期間は1.5~2.5年と報告されています。
放射線単体の治療であれば、中央生存期間は約1~2年と報告されています。
グリオーマ
犬においてグリオーマは、症例数が少なく、まだ報告が多くありません。
ステロイドと対症療法を組み合わせた治療ですと、中央生存期間は1か月程度と報告されており、髄膜腫と比べ比較的進行が早いです。
抗がん剤(ロムスチン)による治療は、中央生存期間は約半年程度と報告されています。
手術においては、報告によりばらつきが大きく、中央生存期間は2か月~1年程度と報告されています。
放射線治療も同様に、報告によりばらつきが大きく、中央生存期間は3か月~2年程度と報告されています。
組織球性肉腫
犬において脳の組織球肉腫は、症例数が少なく、まだ報告が多くありません。
抗がん剤(ロムスチン)治療や放射線治療を行っても、中央生存期間は数日~1か月程度と報告されています。
抗がん剤やステロイドの副作用とは?
抗がん剤と聞くと、何度も嘔吐してしまったり、毛がごっそり抜けてしまったり、猫に大きな負担をかけてしまうのではないか?と心配になりますよね。
確かに、私の経験した症例でも、嘔吐や発熱などの副作用が出てしまった症例も経験はしています。
ただ、近年は良い吐き気止めなどの対処法や、副作用の起きるタイミングが分かってきていますので、適切に対処すれば大きなトラブルになることは少ないとされています。
ロムスチン(CCNU)
ロムスチンは、日本での販売が無く、海外輸入薬となりますので、取り扱いがない病院もありますので、注意が必要です。
・骨髄抑制
主に骨髄での白血球を作る働きが抑制されます。
投与後7~14日前後での発生が多く、感染への抵抗力が低下し、発熱を起こす可能性があります。
血液検査を行い、どの程度白血球が減少しているかにより、抗生物質による治療を行うかどうか判断します。
また、ロムスチンは血小板も減少するのが特徴で、ロムスチンの投与回数が多くなるにつれて徐々に出てきて、投与を中止しても持続するケースがあります。
・肝障害
ロムスチンは肝臓で代謝される為、投与後に肝臓の数値が上昇することがしばしばあります。
ロムスチンの投与回数が多くなるにつれて、慢性進行性に数値が上昇していくケースが多いようです。
その場合は、腫瘍の進行具合を鑑みながら、投与を中止したり、肝臓を保護するようなお薬やサプリメントなどで対処を行います。
・消化器症状
ロムスチンは、胃腸の障害は多くないとされています。
消化管の粘膜上皮の細胞を傷害し、嘔吐や下痢、食欲不振などの症状が出ます。
こちらも、万が一症状が出た場合は、吐き気止めや下痢止めなどの対症療法を行います。
入院が必要なレベルまで症状が出てしまう場合は、投与量を減じて使用することもあります。
・蓄積性の腎障害
こちらもまれな副作用と言われていますが、ロムスチンを使い続けると、腎臓の数値が上昇することがあります。
ヒドロキシウレア
ヒドロキシウレアにおいては、犬においては主に骨髄抑制が副作用として起こると言われています。
その他、人では肝臓の数値が上昇することがありますが、犬ではまだ副作用としてはっきりとした確認はされていないようです。
プレドニゾロン(ステロイド)
- 多飲多尿、多食
- 肥満
- 消化器症状
- 肝臓の数値の上昇
- 筋肉量の低下
など、一般的なステロイドとしての副作用が認められる場合がありますが、抗がん剤と比べ副作用がマイルドであることが多いです。
まとめ
脳腫瘍の治療に関しては、まだ情報が少なく、また高齢での発生が多い為、積極的な治療に踏み込むのは躊躇してしまいますよね。
そういった時こそ、サプリメントを有効に使って、少しでも生活の質を向上させてあげられるといいのではないでしょうか?
参考資料
・「脳腫瘍との向き合い方」セミナー 金園先生
・「犬の原発性脳腫瘍」セミナー 長谷川 大輔先生
・「高齢の犬猫における脳疾患」セミナー 南動物病院グループ
・雑誌Oncology No.23
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この記事を書いたのは

浅川雅清
獣医師
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、
ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年から1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。
現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修など幅広い業務を行っている
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