血管肉腫とは?
血管肉腫(Hemangiosarcoma)とは、血液を運ぶ「血管」を内張りする「血管内皮細胞」が腫瘍化した悪性の腫瘍を指します。
ヒトにおいて、発生率はまれのようですが、悪性度が非常に高い腫瘍と言われています。
犬の血管肉腫とは?
犬の血管肉腫もヒトと同様で、悪性の血管内皮細胞由来の腫瘍です。
ヒトと比べ発生が多く、日頃の診察においてよく遭遇する疾患です。
好発部位は「脾臓」ですが、心臓、リンパ節、肝臓、皮膚など、様々な臓器に発生することが知られています。
脾臓において発生する腫瘤は、その2/3が悪性であり、さらにその2/3が血管肉腫であると古くから言われているくらい、発生が多いです。
実際は現在の小型犬においては、感覚的には1/2程の発生と感じております。
心臓は脾臓の次に血管肉腫の発生が多い部位であり、右心房、右心室に発生することが多いと言われています。
心臓に発生する腫瘍の中では、血管肉腫は35~69%を占めるとされています。
皮膚における血管肉腫は通常、皮下あるいは筋肉から発生することが多いとされています。
表皮から発生しているケースでは、手術のみで良好な経過を取るようです。
しかし、そのようなケースでも実は内臓からの転移である可能性もあり、油断せず全身的な精査を行うことが重要です。
犬の血管肉腫は主に中高齢で発生し、大型犬で多く認められます。
ジャーマンシェパード、ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバーが好発犬種として知られています。
性差はあまりないようですが、雄での発生が多いとされています。
犬の血管肉腫は以下のようにステージ分類がされています。
表1 犬の血管肉腫における臨床ステージ分類
| T:原発腫瘍 | ||
| T0 | 腫瘍が認められない | |
| T1 | 腫瘍の直径が5cm未満、原発部位に限局 | |
| T2 | 腫瘍の直径が5cm以上または腫瘍の破裂、皮下組織に浸潤 | |
| T3 | 筋肉をはじめとする隣接組織に腫瘍が浸潤している | |
| N:所属リンパ節 | ||
| N0 | 所属リンパ節転移なし | |
| N1 | 所属リンパ節転移あり | |
| N2 | 遠隔リンパ節への転移あり | |
| M:遠隔転移 | ||
| M0 | 遠隔転移なし | |
| M1 | 遠隔転移あり | |
| 臨床ステージ分類 | ||
| ステージⅠ | T0または1、N0、M0 | |
| ステージⅡ | T1または2、N0または1、M0 | |
| ステージⅢ | T2または3、N0~2、M1 | |
基本的に、ステージが低ければ低いほど、余命は長いという報告が多いですので、早期発見・早期治療が重要な疾患です。
犬の血管肉腫の原因は?
犬の血管肉腫の原因はまだ特定されていないようです。
ヒトにおいての報告では、二酸化トリウム、ヒ素化合物、塩化ビニール、アンドロジェンへの暴露などが挙げられているようです。
犬の血管肉腫の症状は?
犬の血管肉腫の症状は多様で、腫瘍自体が存在するだけでは症状が出なかったり、なんとなく元気が無いようだったり、様々です。
脾臓の血管肉腫でしばしばよく遭遇するのが、腫瘍の自壊による腹腔内出血や腫瘍組織内での出血により、急にぐったりし、粘膜の色が蒼白になりショック状態で来院するケースです。
出血が軽度あれば自然と出血が止まり、数日ないし数週間にわたり、類似の症状が一過性に起こっては自然消滅しますが、大量だとそのままショックで亡くなってしまうこともあります。
心臓の血管肉腫であれば、腫瘍による物理的な血流の阻害、心筋への浸潤や心筋梗塞による心機能の低下、不整脈、腫瘍からの出血での心タンポナーデなどが起こりやすく、こちらも急にぐったりする、嘔吐や呼吸困難などの症状が認められます。
皮膚の血管肉腫であれば、皮膚に血豆のようなしこりが見つかり気づくことがあります。
犬の血管肉腫の診断に必要な検査は?
犬の血管肉腫を疑う場合は、全身的な検査を行う必要があります。
上述のようにショック状態で来院した場合は、検査に先立って治療を行うことが多いです。
症状がなく、血管肉腫を疑う状況としては、お腹のレントゲン検査や超音波検査で偶発的に脾臓の腫瘍に気づくことが多いと思います。
犬の血管肉腫の確定診断には、腫瘍そのものに病理学的な検査を行う必要があります。
ですので、まずはその腫瘍がどれくらいの大きさなのか、どこにあるのか、他の臓器や血液に異常を及ぼしているのか判断する必要があります。
そのためには、一般的な血液検査、胸部腹部のレントゲン検査、心臓と腹部の超音波検査、場合によりCT検査を用いて全身的な検査を行う必要があります。
全身的な影響がないことが確認出来たら、次に、その腫瘍を病理学的な検査を行うために摘出する必要があります。
皮膚の血管肉腫であれば、皮膚表面の手術で済みまずが、脾臓の血管肉腫であれば脾臓を摘出する必要があります。
心臓の血管肉腫の場合は、部位が部位なだけになかなか摘出することが難しく、発生部位や腫瘍の経過から推察することが多いです。
上記のように、様々な検査を用いて診断がついた上で、抗がん剤などの追加の治療を検討していきます。
犬の血管肉腫の治療と余命は?
犬の血管肉腫の余命は、無治療での生存期間中央値は12日と報告されており、非常に余命が短い疾患として知られています。
また、血管肉腫の発生部位により治療や余命も大きく異なります。
心臓の血管肉腫
犬の心臓の血管肉腫は、その構造上手術ですべての腫瘍を取り除くのが難しいとされています。
手術と抗がん剤治療を併用した症例で、生存期間中央値は175~189日と報告されています。
抗がん剤治療において、ドキソルビシン単体での治療において、奏効率は41%、生存期間中央値は116日と報告されています。
その他、右心房に腫瘤が認められた犬で、単回の放射線治療での生存期間中央値は79日と報告されていて、長い余命は望めない可能性が高いとされています。
あまり積極的な治療ではなく、緩和治療としては、心嚢水を除去するための心膜穿刺、心膜切除などが挙げられます。
ただし、心膜穿刺のみでの治療で生存期間中央値は12~27日、心膜切除のみで16日、心膜切除と腫瘤の切除でも46~90日と報告されており、あまり有効な治療とは言い難いのが現実です。
脾臓の血管肉腫
脾臓の血管肉腫においては、まずは診断を兼ねて脾臓摘出を行います。
脾臓摘出のみでの生存期間中央値は1~3か月と報告されており、術後に抗がん剤による治療を追加すると5~7か月と報告されています。
1年生存率が10%以下で、こちらもあまり長い余命は望めないとされています。
また、ステージⅠでは生存期間中央値は239~355日に対して、ステージ2では120~148日とも報告されており、早期発見・早期治療が重要であることが示されています。
抗がん剤はドキソルビシンを用いられることが多いですが、シクロフォスファミドやビンクリスチン、非ステロイド系消炎鎮痛剤、ステロイド剤を併用するケースもあるようです。
またドキソルビシン自体は、副作用の観点から概ね6回程度しか使用できないと言われています。
そのため、ドキソルビシンによる治療を終えた後、もしくは何かしらの理由でドキソルビシンが使用できない場合、シクロフォスファミドによるメトロノミック療法が用いられるケースもあります。
皮膚の血管肉腫
体表に発生した血管肉腫では、広い範囲での手術による切除が第一の治療となるようです。
ただし、意外と目に見える範囲より深く浸潤していたり、皮膚のみではなく内臓にも腫瘍が認められたりすることがあり、皮膚の手術のみではなく上述のような抗がん剤治療などを併用することもあります。
どの血管肉腫でも、遠隔転移を認めている場合などで手術が不適応と判断される場合は、抗がん剤治療のみが選択されるケースもあります。
ドキソルビシンを中心とした治療で、奏効率は47~86%、生存期間中央値は101~195日と報告されています。
腫瘍のステージをしっかり見定めて、適切な治療を選択してあげることが重要なようです。
その他、サプリメントの「タヒボエキス」などが生活の質のサポートに役立ちます。
犬の血管肉腫の治療費の目安は?
犬の血管肉腫の治療費は、その治療方法や動物病院により大きく異なります。
よく遭遇する脾臓の血管肉腫を例にとると、脾臓の摘出を行う場合は、概ね10~15万円ほどがかかると思われます。
そこに抗がん剤治療を加える場合、ドキソルビシンであれば3週間に一度の投与となります。
その都度、抗がん剤の投与が可能か血液検査を実施する為、概ね3~4万円が1回の投与でかかると思われます。
まとめ
犬の血管肉腫の治療は、早期発見・早期治療が重要な疾患です。
日頃の健康診断をまめに行うことと、気になる症状があった場合は様子を見ずに受診することが大切です。
また、治療方法も多彩ですので、獣医師と相談し適切な治療を選択してあげましょう。
関連記事:犬のリンパ腫とは?余命や費用、抗がん剤の副作用は?
参考資料
・Veterinary Oncology No.17
・Veterinary Oncology No.32
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この記事を書いたのは

浅川雅清
獣医師
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、
ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年から1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。
現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修など幅広い業務を行っている
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