形質細胞とは?
形質細胞とは白血球の一種で、抗体を作る役割を担う細胞です。
Bリンパ球という細胞が、体内に侵入した細菌などに反応し形質細胞へと分化した後、抗体を産生します。
この形質細胞が腫瘍化して増殖する病気を「形質細胞腫」と呼びます。
人でも、形質細胞が腫瘍化する疾患は稀ではありますが報告されています。
代表的な病名としては、以下のものが知られているようです。
- 単クローン性免疫グロブリン血症
- 多発性骨髄腫
- マクログロブリン血症
- 重鎖病
人において、多発性骨髄腫の患者の平均年齢は70歳と言われており、原因も明らかではないものの、遺伝の関与が疑われているようです。
その他、ベンゼンなどの有機溶剤や放射線への曝露も有力な原因と考えられているようです。
犬では、皮膚の形質細胞腫、皮膚以外の形質細胞腫、さらには多発性骨髄腫といったように病態ごとに分類されており、その違いが比較的はっきり区別されています。
一方、猫でも同様に形質細胞の腫瘍は稀に認められますが、人や犬とは異なりその病態を明確に区別するのが難しいのが特徴とされていました。
しかし近年、その形質細胞腫は人に合わせて「骨髄腫関連疾患(MRD)」という呼び名に変わり、病態の分類や診断の方法がアップデートされました。
今回は、その猫の骨髄関連疾患を解説します。
猫の骨髄腫関連疾患とは?

猫のMRDは、形質細胞,あるいは免疫グロブリン産生性 B リンパ球の腫瘍性疾患の総称と定義されています。
この疾患では、形質細胞の異常な増殖とともに、「M蛋白」と呼ばれる単クローン性の免疫グロブリンが産生され、様々な症状を引き起こします。
猫のMRDは犬よりも稀と言われていて、正確な発生率は不明ですが、猫の悪性腫瘍全体の0.9%、血液腫瘍の1.9%に相当するとの報告があるようです。
発症年齢は12~14 歳が平均で、猫白血病ウイルス(FeLV)や猫エイズ(FIV)の感染との関連はないとされています。
ある報告では、ベンガルやメインクーンなどの品種で発症が多いとされており、人と同様に高齢での発症に加え、遺伝的な背景がある可能性が示唆されています。
猫のMRDは以下の6つの病態に分類されています。
・多発性骨髄腫(MM)
骨髄における形質細胞の腫瘍性増殖が主体のもの。
・髄外性形質細胞腫(EMP)
皮膚、肝臓、脾臓など骨髄以外の部位に形質細胞腫瘍が認められる場合。
同時に骨髄に形質細胞腫瘍が認められたものが21%、認められなかったものが21%であったと報告されている。
・骨の孤立性形質細胞腫(SOP)
・IgMマクログロブリン血症(WM)
・免疫グロブリン産生性リンパ腫/白血病
・形質細胞性白血病
ただし、全ての症例を明確にこのいずれかの病態に分類できると限らない点も、猫のMRDの診断を難しくしている要因です。
猫の骨髄腫関連疾患の症状は?
猫のMRDの症状は特異性がなく、他の病気でも認められるようなよくある症状が認められます。
- 元気がない
- 食欲がなくなってきた
- 体重が減ってきた
- よく水を飲む
- 尿量が増えた
- 嘔吐や下痢をしている
- 粘膜の色が白い
- ぐったりしている
- 目が見えていない
- 痙攣を起こした
- 体が熱い
- 歩き方がおかしい
- びっこを引いている
これらの症状は主に、形質細胞の異常な増殖と、産生されるM蛋白による臓器障害が原因です。
例えば、骨髄中に形質細胞が増殖すると、正常な血液中の細胞の産生が抑制され、貧血や血小板減少、白血球減少などが起こります。
それにより、血が止まりにくくなったり、感染しやすくなったりします。
さらに、骨自体がもろくなってしまい、「病的骨折」という、強い外傷がなくても容易に骨折する状態が起こります。
もろくなった骨からカルシウムが血中に放出され、高カルシウム血症として症状を示すこともあると言われています。
また、M蛋白やベンズ・ジョーンズ蛋白により、過粘稠度症候群や腎障害が起こると言われています。
過粘稠度症候群の症状としてはその他に、
- 神経への障害
- 眼底の異常
- 高血圧
などが起こり得ると言われています。
猫の骨髄腫関連疾患の診断は?

猫のMRDには、現時点で明確に統一された診断基準は存在していません。
ただし、多発性骨髄腫に関しては、以前から以下のような診断基準が使われています。
・骨髄中における形質細胞の増殖
形質細胞が20%以上、または形態異常を示す形質細胞が5~10%以上
・レントゲンでの骨の融解像
椎骨や肋骨、骨盤などでの発生が多いが、実際に確認できるのは症例の5〜45%程度にとどまります。
・血液中のモノクローナルガンモパチー
・尿中のベンズ・ジョーンズ蛋白の出現
これら4つのうち2つを満たすと多発性骨髄腫と診断できるとされていますが、まれに他の病気でもこの基準を満たしてしまうので注意が必要です。
猫のMRDを診断するには、様々な検査を組み合わせて行う必要があります。
最終的には、骨髄、肝臓、脾臓などの組織からの細胞診や生検を行い、形質細胞の腫瘍性増殖を確認することで診断に至ります。
その前に、貧血や血小板減少、白血球減少などを調べるために血液検査を行う必要があります。
また、骨の状態、肝臓や脾臓の状態を調べるためにレントゲン検査や腹部超音波検査も必要で、尿中のタンパク質を調べるために尿検査も行う必要があります。
猫の骨髄腫関連疾患の余命と治療法は?
上述の通り、猫のMRDは発生が少ない為、その余命に関しては情報が限られています。
犬の皮膚の髄外性形質細胞腫であれば、外科的な切除で予後は良好と言われています。
猫においても、髄外性形質細胞腫であれば同様に予後は良好と考えられています。
しかし、猫の場合は多発性骨髄腫に移行する可能性もあると言われています。
その場合は、抗がん剤による治療を実施する必要があります。
犬において多発性骨髄腫の治療は、メルファランとプレドニゾロンによるMP療法が中心となります。
猫においても同様ですが、その他に以下のような治療方法も使用されています。
・シクロホスファミドとプレドニゾロンでの治療
シクロホスファミドを低用量で週1~2回、または高容量で2~3週に1回投与する方法で、プレドニゾロンは毎日投与します。
ある研究によると、奏効率は約80%程度、生存期間中央値は約1年と報告されています。
後述のメルファランでの治療と比べ、副作用が少なかったと報告されています。
・メルファランとプレドニゾロンでの治療
メルファランを低用量で毎日、または高容量で1~2週に1回投与する方法で、プレドニゾロンは毎日投与します。
犬においてはメルファランが第一選択となることが多いですが、猫では骨髄毒性による副作用が多く発生すると言われています。
ある研究によると、奏効率は約70%程度、生存期間中央値は約8か月と報告されています。
その他、上記の薬剤が効きにくくなった際にレスキュー療法として、クロラムブシルCCNU(ロムスチン)による治療が行われることがあります。
抗がん剤やステロイドの副作用とは?
抗がん剤と聞くと、何度も嘔吐してしまったり、毛がごっそり抜けてしまったり、猫に大きな負担をかけてしまうのではないか?と心配になりますよね。
確かに、私の経験した症例でも、嘔吐や発熱などの副作用が出てしまった症例も経験はしています。
ただ、近年は良い吐き気止めなどの対処法や、副作用の起きるタイミングが分かってきていますので、適切に対処すれば大きなトラブルになることは少ないとされています。

①シクロホスファミド
・骨髄抑制
主に骨髄での白血球、主に好中球を作る働きが抑制されます。
投与後7~14日前後での発生が多く、感染への抵抗力が低下し、発熱を起こす可能性があります。
血液検査を行い、どの程度白血球が減少しているかにより、抗生物質による治療を行うかどうか判断します。
・消化器症状
消化管の粘膜上皮の細胞を傷害し、嘔吐や下痢、食欲不振などの症状が出ます。
こちらも、万が一症状が出た場合は、吐き気止めや下痢止めなどの対症療法を行います。
入院が必要なレベルまで症状が出てしまう場合は、投与量を減じて使用することもあります。
・無菌性出血性膀胱炎
シクロホスファミドは、肝臓で代謝され、最終的にホスホラミドマスタードとアクロレインに分解されます。
このアクロレインが尿中に排泄され、膀胱を傷つけて出血性の膀胱炎を起こすと言われています。
同時に利尿剤を投与するとそのリスクが低減できると言われています。
②メルファラン
・骨髄抑制
メルファランの骨髄抑制は、遅延性かつ蓄積性と言われています。
一般的な抗がん剤であれば投与後7~14日前後での発生が多いのですが、メルファランの場合は投与後4週間で認められることもあるようです。
また、好中球のみならず血小板の減少も顕著に認められるのが特徴と言われています。
・消化器症状
③プレドニゾロン(ステロイド)
・多飲多尿、多食
・肥満
・消化器症状
・肝臓の数値の上昇
・筋肉量の低下
など、一般的なステロイドとしての副作用が認められる場合がありますが、抗がん剤と比べ副作用がマイルドであることが多いです。
抗がん剤の治療と並行し、サプリメントで体調をサポートしてあげる方法が用いられます。
例えば、腫瘍に用いられるサプリメントとしては「タヒボエキス」などが、膀胱炎に用いられるサプリメントとしては「ウロガラシエキス末」などが使用されます。
猫の骨髄腫関連疾患の治療費は?
猫のMRDの治療費は、その病態や選択する治療により様々です。
上述の、シクロホスファミドとプレドニゾロンでの治療であれば、2~3週に1回投与した場合、血液検査などの検査費用も併せて月3~4万円程と思われます。
まとめ
猫のMRDは比較的まれな疾患であることから、つい見落としがちの疾患です。
また、病態が複雑であることから、治療も難しいのがやっかいなところです。
様々な症状を示す特徴がある為、日頃から猫の様子を細かく観察し、早期に発見することが重要と思われます。
気になる症状がある場合は、早めに動物病院を受診するよう心掛けましょう。
参考資料
・「形質細胞由来腫瘍、どう診断して治療する?」セミナー 大参 亜紀 先生
・雑誌Veterinary Oncology No.17
・雑誌Veterinary Oncology No.31
・雑誌Veterinary Oncology No.37
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この記事を書いたのは

浅川雅清
獣医師
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、
ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年から1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。
現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修など幅広い業務を行っている
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