犬の膿皮症とは?
「膿皮症」とは、細菌感染に由来する皮膚炎のことを指します。
通常は、皮膚の常在菌であるブドウ球菌などの増殖が原因です。
犬においては、Staphylococcus pseudintermediusの過増殖に由来することが多いとされています。
膿皮症は組織学的な観点から、細菌感染の深さによって分類がされています。
- 表面性膿皮症(surface pyoderma)
感染部位が角質層表面に限定しているもの
- 表在性膿皮症(superficial pyoderma)
感染部位が表皮から毛包に限定しているもの
- 深在性膿皮症(deep pyoderma)
感染部位が毛包全体もしくは真皮や皮下組織まで及んでいるもの
このうち表面性膿皮症の分類はいまだに議論されているようです。
表在性膿皮症は、悪化すると深在性膿皮症に進行すると考えられています。
膿皮症は、体幹はもちろん四肢、肉球の間、口唇や顔の皺など、全身の皮膚に発生する可能性があります。
犬の膿皮症の原因は?
犬の膿皮症の原因は多岐にわたります。
- 不衛生な飼育環境
- 栄養不足
- 不適切なスキンケア
- 皮脂や汗、尿、唾液などの付着
- アレルギー疾患(アトピー性皮膚炎など)
- 寄生虫疾患(疥癬やニキビダニなど)
- 真菌感染(皮膚糸状菌症など)
- 皮膚バリア機能の低下
- 内分泌疾患(クッシング症候群や甲状腺機能低下症など)
- 腫瘍疾患(リンパ腫など)
- 外傷または自傷
以上のような原因が、皮膚表面の細菌感染を引き起こす源となっています。
原因菌はブドウ球菌の他にも、Pseudomonas spp,、Escherichia coli、Proteus mirabilis、β-hemolytic streptococcus、Bacillus spp.、Enterococcus spp.、などの菌が分離されることがあるようです。
また海外の論文によると、膿皮症の犬において、25~50%でアレルギー疾患の併発、20~30%で内分泌疾患の併発があり、併発疾患が無い症例は25~30%程度であったと報告されていますので、進行した膿皮症や治りにくい、または繰り返す膿皮症は併発疾患を見直す必要があります。
犬の膿皮症の好発犬種は?
犬の膿皮症の好発犬種は、例えば皮脂が多くなりがちなシー・ズー、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、アメリカン・コッカー・スパニエル、アレルギーが多いとされるゴールデン・レトリーバー、柴犬、その他フレンチブルドッグやパグなどに多く見られます。
犬の膿皮症の症状は?
・表面性膿皮症
化膿性外傷性皮膚炎(いわゆるホットスポット、急性湿性皮膚炎)は、犬が痒みや痛みを感じた部位を噛んだり舐めたりし、湿性の紅斑(皮膚の赤み)、脱毛などが観察されます。
間擦疹(皮膚皺壁膿皮症)は、顔や口唇、尾の付け根、陰部などにある通気性の悪い皺に細菌が増殖し、悪臭や紅斑、潰瘍、脱毛などが観察されます。
・表在性膿皮症
初期には毛包(毛穴)に一致した膿疱や丘疹、紅斑が認められ、膿疱が壊れると痂皮(かさぶた)ができます。周囲に拡大していくと、中心部は色素沈着や鱗屑(ふけ)がみられるようになります。
ときに痒みを伴います。
・深在性膿皮症
様々な大きさの不連続性の丘疹や脱毛、潰瘍、痂皮、腫脹(腫れ)や出血、排膿、ときに痒みや痛みが観察されます。
犬の膿皮症の診断に必要な検査は?
犬の膿皮症は症状が多彩なので、見た目だけで他の皮膚疾患と正確に区別することが難しいとされています。
また、アレルギー疾患や内分泌疾患などの基礎疾患が発症の原因となっているケースも多いので、皮膚検査のみならず一般的な血液検査や超音波検査などの全身的な検査を行った方が良いでしょう。
細胞診
細胞診は、皮膚で実際に感染が起きているのかどうか、それ以外の病気が隠れていないかの判断に重要な検査です。
細胞診の材料は、皮膚炎の部分に直接スライドガラスを押し付けて採取したり(押捺塗抹標本)、指の間や皺などは綿棒やセロハンテープを用いて採取したりして回収することが出来ます。
膿皮症では、菌と戦う「好中球」が主体で、細菌を貪食する像が確認できます。
その他、「棘融解細胞」が認められれば、背景に天疱瘡のような自己免疫疾患が隠れている可能性を示唆します。
皮膚掻把検査と抜毛検査
上述の通り、細菌感染の他に真菌や寄生虫の感染が関係していないか調べる必要があります。
皮膚掻把検査は、鋭匙やメス刃を用いて皮膚を掻把することで材料を回収し、顕微鏡で寄生虫がいないか確認します。
また、真菌は毛に寄生する為、毛を抜いて菌糸や胞子がないか顕微鏡で確認します。
細菌培養検査および薬剤感受性検査
ここまでの検査で、明らかな基礎疾患が見つからない場合で、膿皮症の治療を行っても改善が認められない場合は、どのような菌が原因でどの抗生物質が効くのか、細菌培養検査と薬剤感受性検査を行う必要があります。
膿疱であれば、それを破いて膿を回収したり、痂皮であればそれをめくって回収したりし、原因の菌を回収します。
外部の検査センターに提出し、菌の種類とそれに効く抗生物質を特定します。
皮膚生検および病理組織学的検査
上記の検査を行って適切な治療を行っても反応が悪いケースや、自己免疫疾患や腫瘍疾患を疑うケースでは、麻酔をかけて皮膚の一部を切り取る皮膚生検と、それを顕微鏡で確認する皮膚の病理組織学的検査を行う場合があります。
犬の膿皮症の治療は?
表面性膿皮症
表面性膿皮症では通常、全身的な抗菌薬の投与は必要ないとされています。
治療としては、
- 皮膚炎の患部に対して、抗生剤などを含む外用薬やクロルヘキシジンなどの消毒薬による外用療法を行う。
- 自分で噛んでしまう場合はエリザベスカラーを装着する。
- 長毛種では患部の通気性が良くなるように毛刈りを行う。
- アレルギーが関与するなどで痒みがある場合は、その治療も行う。
関連記事:犬のアトピー性皮膚炎とは?その症状や原因、治療とは?
表在性膿皮症
表在性膿皮症では、局所的な病変の場合もありますが、基本的に広範囲に病変が認められるケースが一般的であるので、全身的な外用療法や抗菌薬の投与が必要です。
- 外用療法
クロルヘキシジンなどを含有した抗菌シャンプー(ノルバサンシャンプーやマラセブシャンプー、マラセキュアなど)での薬浴を行うと、抗菌薬の投与期間を短くしたり、投与せず治療出来たりする可能性があります。軽症例ではシャンプーのみの治療も可能なケースがあります。ただし、適切なシャンプー剤を使用しなかったり、シャンプーの仕方や頻度が適切でなかったりすると悪化するケースがありますのでご注意ください。
- 抗菌薬治療
近年、耐性菌に関して注目がされており、膿皮症での抗菌薬の使用は以下のように推奨されているようです。
表1 犬の膿皮症に推奨される抗菌薬
| 第一候補薬 | 第1世代セフォロスポリン系 (セファレキシンなど) クラブラン酸加アモキシシリン クリンダマイシン エリスロマイシン ST合剤 |
| 第二候補薬 | テトラサイクリン系 (ドキシサイクリンなど) クロラムフェニコール ホスホマイシン フルオロキノロン系 アミノグリコシド系 第3世代セファロスポリン系 リファンピシン |
| 第三候補薬 | リネゾリド テイコプラニン バンコマイシン |
第一候補薬は、一般に副作用が少なく、深刻な薬剤耐性菌の発現に繋がりにくいとされている薬剤で、薬剤感受性検査を行う前に経験的な治療として用いられる薬剤です。
もし効かない場合は、薬剤感受性検査を行うとともに、第二候補薬の使用を検討します。
第三候補薬までの投与を行うケースはあまりありませんが、もし薬剤感受性検査ですべての抗菌薬が無効である場合は使用を検討します。公衆衛生上、深刻な薬剤耐性菌の蔓延に繋がる可能性があるので注意が必要と言われています。
深在性膿皮症
深在性膿皮症では、原則的には表在性膿皮症の治療と同様です。ただし、外用療法のみで完治できるケースはほぼないとされています。
また、お薬の他、皮膚に良い成分が入った食事(フード)やサプリメントを併用することで、お薬を減薬、または中止することができることがあります。
よく用いられる成分としては、
- ビタミンE
- プロテオグリカン
- ω3脂肪酸
- 植物発酵糖脂質LPS
- フランス海岸松樹皮抽出物(ピクノジェノール)
- 亜鉛酵母
などが挙げられます。
犬の膿皮症の治療費の目安は?
犬の膿皮症の治療費は、治療内容や各病院により大きく異なります。
表面性膿皮症のように、外用薬のみで完治する場合は、診察料と外用薬の料金で3000~5000円程度と思われます。
表在性膿皮症で抗菌薬も使用する場合は、消毒と内服薬、外用薬の料金で5000円~7000円程度と思われます。
深在性膿皮症の場合は、抗菌薬も長めに使用することが予測されますので、完治まで2~3万円程度はかかると思われます。
また、ここにアレルギーなどの基礎疾患の治療が加わったり、シャンプー療法を併用したりする場合は、またさらに加算され、かつ継続的な治療を必要になるケースも考えられます。
まとめ
犬の膿皮症は日頃よく遭遇する疾患です。
治療方法が多彩なので、かかりつけの先生とよく相談して治療を行いましょう。
また、基礎疾患が併発しているケースが非常に多く存在すると感じています。
繰り返し膿皮症になる場合は、外用療法はもちろんのことですが、サプリメントなどをうまく使って、体の内側から膿皮症になりにくいコンディションを予防的に作るもの大切だと思います。
参考資料
・Small Animal Clinic No.195
・Vet-i No.3
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この記事を書いたのは

浅川雅清
獣医師
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、
ペットショップの生体管理や、動物病院の求人管理や、自社製の犬猫用おやつやフードの開発に携わる。
2023年から1年間、分院長を経験し、2024年にフリーランス獣医師として独立。
現在は診療業務の他、電話での獣医療相談や、ペット用品の商品監修など幅広い業務を行っている
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