呼吸器の病気

■ 咽頭炎(いんとうえん)

【原因】

喉に炎症を起こす原因は様々あります。有毒ガスや薬品を吸い込んでしまって炎症を起こす場合もありますし、ジステンバーなどのウィルス感染や、鼻炎、口内炎から波及した症状の可能性も考えられます。鶏の骨などの尖った食品が、喉に引っかかったり刺さったりすることが原因になることもあります。ワンちゃんは、食べた物を小さくかみ砕くことが苦手なので大きな塊のまま飲み込むことがあり、それが原因で喉を傷つけてしまうこともあります。

【症状】

ワンちゃんの咽頭炎は喉に炎症が起きた状態です。咽頭は口から食道までの間を指してします。始めは軽く咳をする程度ですが、症状が悪化してくると、喉に痛みを感じるようになります。ワンちゃんは喉の周辺を触られることを嫌がるようになり、食欲が落ち、よだれが多く出るようになります。また、吐こうとしても吐かないような、えづく仕草をします。症状が悪化すると咳が頻繁に出て、吐血や嘔吐、さらに呼吸困難になったり、鳴き声が変わったりすることもあります。

【治療・対策】

生活環境の中で、薬品を使用する際にガスを発生させないように気をつけ、屋外でも煙や薬品散布の場所には近づかないようにして、ワンちゃんが毒性ガスを吸い込まないようにします。誤飲誤食は生活環境の改善で予防できるので、食べてはいけない物を口にしないよう、生活環境を整えます。咽頭炎を発症したら安静に過ごさせて、食事をやわらかい物にします。治療はレントゲンを撮って原因を探ります。喉に異物があれば外科的処置で取り除き、喉の炎症にはネブライザー吸引などで治療します。鼻炎などの基礎疾患があればその治療も行います。


■ 気管虚脱(きかんしきょだつ)

【原因】

気管の周りは軟骨や筋肉に守られて筒状の形状をしていますが、何らかの原因で気管が扁平に押しつぶされたように変形してしまい、酸素の通りが妨げられて咳や呼吸困難の原因になります。変形する原因は不明ですが、気管の構造は変形しやすいようです。遺伝的に軟骨が弱い先天性疾患や、栄養の偏りによる気管軟骨の変形、さらに肥満傾向や老化、慢性気管支炎なども扁平の原因となります。また、小型犬や短頭犬種に多いのも特徴です。

【症状】

気管虚脱はおもにワンちゃんの咳の原因として多くみられ、ゼーゼーと苦しそうな呼吸になり、ガチョウの鳴き声に似た乾いた咳をするのが特徴です。咳は運動や興奮した時、散歩で頸部を圧迫した時にもみられます。ストレスを感じた時や、食事をした時にも出ることもあり、吐き気を伴う場合もあります。悪化すると呼吸困難やチアノーゼの症状も出て、苦しいとよだれを垂らしたり、酸素不足で呼吸をしようともがき暴れて、失神したり脳や肺に障害を負うこともあります。

【治療・対策】

一度変形してしまった気管は元には戻らないので根治は難しく、症状を悪化させないよう緩和ケアを行います。呼吸器や心臓などに基礎疾患があれば治療を行い、気管支拡張や抗炎症剤で内科的治療を施します。また、適切な栄養を与え、運動を制限して生活環境を整えます。首輪はハーネスに変えて首への負担を軽減し、肥満傾向の場合は体重を減らします。咳や呼吸が気になったらすぐに受診して変形を早めに発見し、呼吸器や心臓疾患などの治療を行うことで発症リスクを減らします。


■ 気管支炎(きかんしえん)

【原因】

気管支炎の原因は様々あります。ケンネルコフの原因となる犬パラインフルエンザや犬アデノウィルスⅡ型などのウィルスの感染が原因の場合は、フィラリア感染などが原因になる寄生虫感染で発症することがあります。また、ハウスダストやタバコの煙、化学物質などが原因のアレルギーや遺伝性疾患、老化などがあげられます。

【症状】

気管支炎は気管支周辺に炎症が起きる病気です。ケンネルコフとも呼ばれるウィルス性の感染症の場合は、発症すると急な発熱や咳などの症状が現れます。成犬や単独ウィルス感染の場合は症状も軽く済みますが、子犬や老犬の場合は高熱や膿状の鼻水を出し、食欲や元気がなくなり、重症化すると肺炎を起こして重篤な状態になります。心臓や気管虚脱など呼吸器疾患を持っていると症状が悪化しやすく、運動や興奮した時は咳がひどくなり、呼吸困難を起こす場合もあります。

【治療・対策】

ケンネルコフや犬アデノウィルスⅡ型などのウィルス感染は、ワクチン接種で予防することができるので、毎年予防接種を必ず受けます。また、アレルギーが原因の場合はその原因を生活環境から排除し、発症を防ぎます。呼吸器や心臓などに疾患がある場合は治療を行いながら、鎮咳剤や気管支拡張剤などの投与と抗生物質で炎症を抑えます。発症したらできるだけ安静にさせて運動なども控えます。


■ 気管支狭窄(きかんしきょうさく)

【原因】

気管支狭窄は、誤って気管に吸い込んでしまった異物が大きい場合に気管が狭まり、酸素がうまく吸えなくなった時に発症します。本来口にしないような物を誤飲・誤食したことが原因になることも多くあります。また、異物が気管支を通り、肺内部の葉気管支まで吸引されると肺に傷がつきます。そこから障害を起こすこともあり、重篤な状態になるので危険です。また、内臓や胸腔内、そのほかの臓器に腫瘍などができて気管が圧迫されることで酸素不足になることもあります。

【症状】

気管支狭窄になると、症状が軽くてもよく咳が出ます。呼吸をする時もゼーゼーという荒い呼吸音をさせ、いびきをかきます。気管に大きな異物が詰まったり、内臓にできた腫瘍や呼吸器系の炎症による腫れなど気管を圧迫して狭窄している場合は、呼吸困難になったり口の中や舌が紫になるチアノーゼが出ることがあります。また吐き気や首や肩に痛みが出ることもあり、触れられることを嫌がります。

【治療・対策】

異物を吸引したことが原因で気管が狭窄している場合は、異物自体を取り除く必要があります。レントゲンで検査をしますが、小さな異物の場合はレントゲンにはっきり写らない場合があるので、内視鏡や気管支鏡を使って検査をしながら直接取り除きます。麻酔をかけてワンちゃんの体位を変えるだけで異物が取れるケースもありますが、異物が大きい場合は切開手術を行う場合もあります。腫瘍や炎症が原因の場合は、気管支拡張剤で気管を広げて呼吸を楽にする処置をしながら、基礎疾患の治療をします。


■ 気胸(ききょう)

【原因】

ワンちゃんの肺や気管が何らかの原因で損傷して、穴が空いてしまうのが気胸です。気胸を発症すると呼吸が浅く、走ることも嫌がります。胸に痛みを感じて触られるのを嫌がり、症状が進行するとよだれの増加や呼吸困難、酸素不足からくる口の周囲が青紫色になるチアノーゼや吐血がみられます。前足を突っ張って動こうとしないので散歩も難しくなります。

【症状】

高熱や溶血性貧血、血尿、歯茎・舌などが白くなる、食欲減退、嘔吐が見られ、劇症になると低体温、ショック、昏睡などに陥ります。、肝臓や腎臓の機能障害を起こし、幼犬または老犬では、死に至る場合も少なくありません。ワンちゃんの免疫力とバベシアが拮抗する場合や免疫力が勝っている時には無症状で、バベシアが優位になると発熱、元気消失、食欲不振、体調不良、咳、便秘、下痢のような症状を繰り返したりすることもあります。

【治療・対策】

X線検査で肺の状態を調べ、原因になっている穴や胸腔内の空気の状態を調べます。症状が軽度の場合はワンちゃんを安静にさせて、薬の投与だけ自然治癒をすることもあります。気管支系の疾患があれば、同時進行で治療を行います。呼吸が困難で症状が重い場合は注射針を使う場合や、メスで胸に小さな穴を空けてパイプを通し、胸腔内の空気を抜きます。重症の場合は何度も空気を抜くこともあります。呼吸困難がひどい場合は酸素吸入を行い、事故で胸部の損傷が激しい場合は胸部切開手術を行います。


■  軟口蓋化長症(なんこうがいかしょう)

【原因】

先天性の呼吸器の病気で短頭種症候群のひとつです。先天性なので予防をすることは困難です。呼吸が荒いのは犬種のせいだと勘違いして異常に気づくのが遅れる場合がありますが、呼吸がおかしく、苦しそうだと感じたらすぐに受診するようにしましょう。早期発見で早めに治療することで、ワンちゃんの負担を減らすことができます。暑い時期は環境を十分に整える必要がありますし、肥満になると呼吸もしづらくなるので体重管理も必要です。

【症状】

軟口蓋とは口の中の天井部(硬口蓋)から後ろに伸びたやわらかい部分を指し、生まれつきこれが長すぎて呼吸がしづらくなるなど、呼吸器に異常が出る疾患です。呼吸の時に咳に似た「ゼーゼー」とした雑音が聞こえます。運動や興奮した時など、体温が上がった環境では呼吸がしづらくて重度になり、呼吸困難になったりします。さらに、吐き気やチアノーゼがみられ、重篤になると失神することもあり、命に関わるケースもあります。

【治療・対策】

治療方法は外科的に軟口蓋を切除することになります。悪化して、喉頭軟骨の変性や虚脱が生じる前に手術することが適切です。手術後は患部の炎症で咳や吐き気が出ることもありますが、一時的なものであれば心配はいりません。高齢になると咽頭虚脱を併発する可能性があります。肥満傾向のワンちゃんは体重を減らすことも必要で体重管理を行います。


■ 肺炎(はいえん)

【原因】

肺炎は犬アデノウィルスⅡ型や、犬パラインフルエンザなどのウィルス感染の他、真菌などが気管や気管支に入ったことで気管支に感染症を起こし、炎症が進んでしまった場合に併発します。また、ハウスダストや化学物質などの刺激物や、寄生虫を吸い込んだことによるアレルギーから気管支炎を発症した場合にも起こります。気管支炎や咽頭炎よりも症状が重く、重篤な状態になります。

【症状】

気管支や肺の炎症が進み、症状も重くなって重篤な状態になるのが肺炎です。咳も頻繁に出るようになり、呼吸もゼーゼーと音を立てて、口を開けて苦しそうな症状になります。浅く速い呼吸になることもあります。また吐き気を伴い、興奮しただけで呼吸困難に陥り、失神することもあります。発熱もあり、散歩や運動も嫌がって食欲も落ちてしまいます。呼吸がしにくく苦しいため、体を横にして寝ることができなくなることもあります。

【治療・対策】

肺炎が疑われる場合はX線や胸部聴診で検査をしますが、他の呼吸器系の疾患がないかどうか全身を検査する場合もあります。抗生物質で肺の炎症を緩和し、薬剤を蒸気で吸わせる吸入療法や酸素吸入を使い、呼吸困難の状態を落ち着かせます。自宅で療養する場合は空気のきれいな場所で安静に過ごしますが、入院が必要な場合もあります。ウィルス感染はワクチン接種で防ぐことができるので、1年に1度はワクチン接種を心がけます。日ごろから適度な運動と健康管理で抵抗力を高め、飼育環境は清潔にするよう衛生面にも気をつけます。


■ 肺水腫(はいすいしゅ)

【原因】

肺水腫は、肺にある肺胞や細気管支に水が溜まってしまう病気で、原因はいくつかあります。また、心臓の障害が原因で起こる心臓性肺水種と、それ以外に原因がある非心臓性肺水種があります。ワンちゃんの場合は心臓性の場合が多いです。非心臓性の場合は、肺炎や熱中症などがあります。心臓性の場合、僧帽弁閉鎖不全などの心臓障害が原因で血液の流れが滞り、肺の中に血液成分が溜まって肺水腫になります。また、化学薬品やガスなどの吸引が原因で気管支や気管周辺に炎症が起きて発症する場合もあります。

【症状】

肺水種は軽度の場合は咳が出たり、呼吸が軽く呼吸が苦しくなったりする程度ですが、重度になるとゼーゼーと呼吸が荒くなり、呼吸困難もひどくなります。咳が止まらなくなったり、よだれや鼻汁を出したり、舌や口の周りが青紫色になるチアノーゼなどの症状が出る場合もあります。苦しさからあまり横にならず、軽減しようと前足を突っ張ったまま座っていたりします。

【治療・対策】

検査は聴診だけでなく、X線で肺や心臓を調べて肺水種かどうか調べます。肺水種であれば、肺に溜まった水分を除去するために、利尿剤や血管拡張剤を投与し、水分を血管内に戻して尿として排出させる内科的治療を行います。呼吸困難がひどい場合は酸素吸入を行い、咳を抑える治療も行います。肺水種は他の疾患が原因になって発症するので予防ができません。急性肺水腫では呼吸困難で死に至る場合もあるので、基礎疾患の早期発見と治療が必要で、肺水腫を併発しないようにします。


■  鼻炎(びえん)

【原因】

子犬の時に鼻炎を発症した場合は、感染症が原因になっていることが多くあります。鼻炎を引き起こす代表的なウィルスとしては、ジステンバー感染症があります。そのほかの感染症は真菌やハウスダスト、花粉、ダニなどのアレルギー性鼻炎も考えられます。また、生活環境の中で刺激のある薬品や異物の吸引も考えられます。口蓋裂や歯周病など口の中の疾患が波及して鼻にまで炎症を起こすこともあります。鼻汁に混じる血が明らかに出血だったり、症状の悪化が早かったりする場合は腫瘍の可能性もあります。

【症状】

鼻炎は鼻腔内に炎症が起きた状態です。初期ではくしゃみや水性の鼻汁が増えます。悪化してくると鼻づまりの症状や粘液性の膿性の鼻汁がみられるようになり、炎症から血が混じることもあります。鼻を気にして鼻をかく仕草や、鼻で呼吸をすることができなくなり、口で呼吸をする様子がみられます。鼻炎を放置しておくと副鼻腔炎を発症します。

【治療・対策】

症状が軽度の場合は抗生物質や消炎剤の投与で治療をします。他に基礎疾患があればあわせて治療を行います。アレルギーが原因の場合は何が原因かを特定し、抗アレルギー剤で炎症を抑え、原因物質を生活環境から排除します。またジステンバーなどの感染症はワクチンで予防ができるので、年1回のワクチン接種で予防します。鼻炎も慢性化すると治療に時間がかかるので、早期発見で軽症のうちに受診して治療することが大切です。


■  鼻腔狭窄症(びくうきょうさくしょう)

【原因】

犬短頭犬種に見られる先天的な異常が大きな原因として挙げられます。鼻先が短い短頭犬種は度重なる品種改良により鼻腔の狭窄が起こりやすくなっているといわれています。また、ウイルスや細菌、刺激の強い物質の吸引によって鼻腔の炎症がおこり、鼻腔内の狭窄から鼻水や異音があらわれることもあります。他にアレルギーが原因となって鼻腔内に炎症がおこり鼻腔が狭窄してしまう場合も考えられます。

【症状】

主に鼻先が短い短頭犬種に発症し、鼻の穴と鼻腔の空間が狭まった状態を言います。鼻の穴が狭い、いつも鼻からいびきのような音が出る、鼻水が飛ぶ、日常的に呼吸が荒い、運動時や興奮時には呼吸困難に伴うチアノーゼの発現、などの症状が見られます。夏の暑い日に炎天下にいると、熱中症にかかり、口から泡を吐きながら失神してしまうこともあります。たいてい鼻の形は押し潰されたようになっています。

【治療・対策】

基本的には、先天的なものに対しては外科的な手術、炎症の場合は症状を抑えるための対症療法が行われます。幼犬や症状が軽い場合は、現状維持を基本とした保存療法が行われることもあります。症状が重く、呼吸困難が明らかな場合は永続的な治療効果を狙って外科手術を行います。鼻の軟骨と周辺皮膚を切除して鼻孔を広げ、気管を切開するような手術を行います。呼吸が苦しくなる病気のため、早期発見・治療が重要となります。


■  副鼻腔炎(ふくびくうえん)

【原因】

鼻炎を治療せず放置しておいて慢性化することや、口の中の歯肉炎が原因で副鼻腔炎になることがあります。真菌やウィルス感染が原因となり、鼻や鼻腔内の外傷や鼻の中にできた腫瘍が原因で症状が発症することもあります。鼻と口や上顎はとても近い場所にあり、どこかで炎症や感染が起きると鼻に炎症が波及してくることが多くあります。

【症状】

鼻炎の症状を放置しておくと炎症が奥のほうまで広がって、副鼻腔まで症状が広がります。最初は鼻水やくしゃみで済みますが、悪化すると症状が慢性化して、鼻水は血液の混じった膿状の鼻汁へと変わります。鼻に痛みを感じ前足で鼻をかいたり、目ヤニが目立つようになったり、結膜炎を併発することもあります。鼻が詰まって呼吸が荒くなり、夜は眠りが浅くなってストレスを感じます。鼻筋が盛り上がったように見えることもあります。

【治療・対策】

副鼻腔炎の原因が何かを特定するため、レントゲンやX線などを使って原因を調べます。目の疾患や口の中に歯周病などの疾患があれば、それに対して治療を行います。鼻腔内に炎症があれば抗炎症剤を投与して炎症を抑え、痛みを軽減します。細菌感染であれば抗生物質、真菌感染であれば抗真菌剤など内科的治療を行います。腫瘍が発見された場合は鼻腔内の手術は難しいため、抗がん剤や放射線治療などを選択します。予防としては鼻水などの症状があればすぐに受診して軽度のうちに鼻炎の治療を行い、他に病気があれば早期発見につながります。


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